第4話 エアコン交換

 次の日の朝、エアコンの工事の人から電話があった。その時は、当日朝に電話が来ると言われていて、予定が組めなくて困っていた。

「今日の3時から5時の間に伺います」

「よろしくお願いします」

 午前中だったらよかったのに・・・俺はがっかりした。


 家が臭いから、駅前のマックにでも行って時間を潰そう。俺は着替え始めた。

 すると、インターホンが鳴った。1階のエントランスじゃなくて、玄関に直接来たみたいだ。怖い・・・騒音のクレームだろうか。俺は静かに暮らしているつもりなんだが。


 シカトしてもいいのだが、気になったのでインターホンで話した。

「どちら様ですか?」

「下の階の者なのですが・・・」

 若くてきれいな女の人だったけど、騒音の苦情か・・・。俺は憂鬱になった。これ以上、静かに暮らすのは無理というものだ。

「何でしょうか」

「あの・・・お宅のベランダの辺りが臭いんですけど、何か置いてませんか?」

「いいえ・・・うちは室外機しかないです」

「あ、そうですか・・・じゃあ、お隣かもしれません。臭くありませんか?ベランダ?」

「いや~うちは何ともありません」

 俺はそう答えてから、もしかして・・・と思った。

 室外機が臭いにおいを吸い上げているのかもしれない・・・うちのベランダで鳥でも死んでるんだろうか。

 その人が帰ったあと、俺はベランダを見てみた。うちは1年中、遮光カーテンを閉めっぱなしなんだ。やばい人だと思うかもしれないけど、コレクションの漫画の背表紙が日焼けしないようにするためだ。女性でも日焼けを防止するために、1年中カーテンを閉めている人がいるかもしれない。前の彼女がそういう人だった・・・、と保身のために弁解しておく。


 窓を開けると、ものすごい汚臭がした。肉が腐った臭いを10倍くらい強烈にしたような感じだった。そして、室外機の周りに大量のウジ虫が這っていた。丸々と太った蛆虫たちがモクモクと列をなしていた。


 ウギャー!!!!

 

 俺は叫び声を上げて、窓を閉めた。

 隣のベランダだ。

 きっと何か死んでるんだ。


 俺は隣の部屋のインターホンを鳴らした。誰も出てこない。ベランダに汚物を放置しているような人間なら、普通に出てこられても困る。俺は警察に電話した。


「何か死んでるみたいなんですが・・・」

 もし違って、腐った食品が置いてあるだけだったとしても、原因がわかればそれだけでも十分だった。


 しばらくして警察が来て、俺は家の外で待つことになった。警察の人がベランダに出ると、ウジが隣から来ていると気が付いたようだ。ベランダ越しに覗いてみたら、そこには人が倒れて死いたそうだ。ベランダでたばこを吸っていて、心不全を起こして亡くなったらしい。


 その人の腐敗臭が俺の狭い8畳の部屋に充満していた。俺はその臭いを吸っていたんだと思うと、全身がものすごく侵されたような気分になった。


 その時、エアコン工事の人が来た。俺が警察の人に「エアコン交換しても大丈夫ですか?」と聞くと、「まあ、仕方ないですから・・・いいですよ」と言ってくれた。


 俺は工事の人にさらにお礼を渡して、エアコンを交換してもらった。

 ウジ虫を踏みながらやりたくなかったと思うけど、ベランダに水を流して、虫をどかした。


 でも、エアコンを交換しても、やっぱり部屋は臭いままだった。

 特殊清掃しても臭いはしばらく残りそうだ。

 死体はさっき運んで行ってくれた。

 匂いは少しマシになった気がするけど、室外機が外の臭いを吸い上げてくる。

 亡くなった人の残り香を。


 俺はその部屋でこの小説を書いている。

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腐敗臭 連喜 @toushikibu

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