穴あき病

@Theresnosound

穴あき病

 どうやら私には中身がないらしい。


 それが始まったのは、中学二年のころだった。美術の時間、彫刻刀で木を削っていたときのこと。彫刻、というより、作ること全般は嫌いではない。目の前の対象に集中するあいだ、余計なことを気にせずにすむからだ。たとえば、向こうの机で談笑するクラスメイトが、なんの話をしているのか。聞こえてくる断片からしてうわさ話らしいが、まさか私の悪口ではないだろうな。とかそんなことが、集中している時だけは気にならない。

 腕で額の汗をぬぐい、体育着に落ちた木くずをはらう。次の時間が体育なので、朝のうちに着替えておくことが許されていた。それが幸いして、制服が汚れてしまう心配をせずにすんでいる。また一滴、汗が流れる。まだ初夏だというのに、美術室は妙に蒸し暑かった。備えつけられた水道からの湿気か、あるいは人いきれか。きっと両方だろうと思った。窓からの日差しに背を焼かれながら、私は黙々と彫り進める。

「あっ、痛い」

 思わず叫んでしまった。木の節にぶつかり、越えようと力んだところで手元が狂ったのだ。左の親指に彫刻刀が突き刺さっている。大声を出したせいで、美術室が静まりかえる。心配とも哀れみともつかないクラスメイトの視線に居たたまれず、私は立ち上がった。

「あ、あの、指を切っちゃったので保健室に行ってきます!」

 そう言い終わる前に飛び出す。もじゃもじゃ頭の先生の、戸惑うような呆れたような顔が一瞬だけ見えた。


 廊下には誰もいなかった。教室のなかからは声が聞こえるが、それは決して明瞭な、意味をもった言葉としては聞きとれない。それらが混ざりあって雑音になる。まるで、世界すべてから仲間はずれにされたような錯覚をおぼえる。

 ひとりきり、廊下を歩きながら、おそるおそる傷口に目をやる。切ったのは左の親指で、不思議なことに血は出ていない。厚手のゴム手袋が割れたように、ただ無機質な裂け目だけがあって、その奥では真っ黒な空洞がこちらを覗いていた。

「私って、中身、なかったんだ」

 驚きはなくて、むしろ奇妙な納得があった。こんなにそそっかしくて馬鹿で残念な自分に、中身らしい中身があるとも思えなかったから。

 向こうから先生が歩いてきた。とっさに傷口を隠す。理由はうまく言えないが、そうしなければいけない気がした。傷口を隠してなお、不自然になっていないか気が気でなくて、脂汗が額から頬へと流れ落ちた。

「お、おはようございまーす……」

 ぎこちない挨拶をしてすれ違う。絶対に不自然だった。もしかしたら、私の中身が空洞だと、バレてしまったかもしれない。絶望と自己嫌悪がぐるぐる巡って吐きそうになった。

 保健室に行くとは言ったが、できればそうしたくなかった。この穴を見られるのが、あまり恐ろしいことに思われたからだ。保健室の先生が嫌いなわけではない。恥ずかしい話だが、転んだり貧血で倒れたり、よくお世話になっていた。それでも、今回ばかりは怖かった。

 ちなみにもうひとつ補足しておくと、保健室によく行くからといって、私は華奢な儚げ美少女などではない。こんなことを自分で言いたくはないが、まあまあ、いやかなり太っているし、かなり図太そうな面をしている。窓に映る自分にうんざりしながら、その向こうの空を見た。相変わらず晴れわたっている。さて、どうしたものか。なんとなく歩くうちに、気づけば教室の前まで来ていた。

 バッグから絆創膏を取り出し、傷口に貼るといくらか落ち着いた。美術の時間はあと十五分で終わる。戻ろうか、戻ってももう片付けの時間か。私は、読書して時間を潰すことにした。とは言っても、本の内容には集中できず、文字で頭をいっぱいにして不安を追い出そうとしたというのが実際のところだった。


 夕食のとき、母に怪我のことを訊かれた。二人ちゃぶ台を挟み、大皿の煮物をつついているときのことだった。父はまだ帰らない。この時間は好きだ。母は心配性でお節介なところがあって、ときどき鬱陶しく思わないではないが、嬉しいときの方が多かった。しかし、今日に限ってそれは悪い方に作用した。母が言う。

「その傷、どうしたの」

「あ、いや、ちょっとね。全然平気」

 そう答えて愛想笑いしても、ますます心配させるばかりで逆効果であった。

「平気って、ほんとに大丈夫なの? いじめとかじゃない?」

「いや、ほんとに、大丈夫だからさ……」

「なんか悩み事とかあるなら言ってね……?」

「だから大丈夫だって!」

 つい大きい声を出してしまって、その後は追及されなかった。ひとまず不安が去ったかわりに、気まずさが到来した。母の煮物は、いつもは味が濃いくらいなのに、ほとんど味がわからない。ただ目の前のノルマを片づけるように、ひたすら料理を口に運んだ。

「……ごめん。ごちそうさま」

 結局、晩ごはんを残してしまった。そのことに対しての謝罪か、怒鳴ってしまったことに対してか、自分でも曖昧だった。


 夕食がすむと、私はすぐ自分の部屋に隠れた。隠れた、とはまたおかしな話かもしれないが、傷口を確認するため部屋に入ったのだからそう間違ってはいないだろう。ふすま一枚で居間と区切られているだけなので、万全な防御とは言いがたいが、それでもここは私の安全地帯だ。

 絆創膏を剥がしてみると、傷はさっきより広がっている。そしてその中身はやはり空洞でしかない。傷、というより裂け目と呼ぶのがふさわしいようなそれが、どんどんどんどん広がっていって、全身いたるところに裂け目が走ったら。裂けてバラバラになるのか、はたまたペラペラになって潰れるのか。しかしそれよりも、空いてしまった穴を隠しきれなくなる方がずっと恐ろしく感じられた。空っぽな私を、皆は笑うだろうか。蔑むだろうか。そんなのはまっぴら御免だ。

「お風呂できたよー!」

 母がふすまを開けたので、私はあわてて傷口を隠した。すぐ行くよ、と答えて、もう一度絆創膏を貼り直す。さっきより粘着力が落ちていて、端が剥がれかけてカールした。


 深夜、私は眠れずにいた。言うまでもなく、指先にできた裂け目のせいだ。布団に寝転がり、オレンジの照明に透かすように、私は切れた指先を見つめる。裂け目は広がるばかりだ。このままではいけない。少しだけ考えた後、私は起き上がった。

 おもむろにふすまを開ける。もし親に見つかったら、トイレに行きたくなったとでも言い訳をしよう。両親はもうひとつ奥の部屋で眠っている。だから、きっと問題なく事をすませられるはずだ。しのび足で部屋の中ほどまで進み、手さぐりで電気のひもを見つけた。暗闇がパッと照らされ、いつもの居間に戻った。棚の引き出しを開けると、狙いどおりにそれは見つかった。私は電気を消し、早足で自分の部屋に戻った。


 布団の上に座り、息を整える。手の中には包帯が握られていた。そう、私が欲しかったのはこれだ。包帯を引き出し、裂けた指の上に巻きつけてみる。そうすることで、少しだけ安心できる気がした。もうひと巻きすると、さらに落ち着いた。巻いて巻いて、肘まで巻いたあたりで、いつしか眠りについていた。


 体を揺すられ、目を覚ます。目覚まし時計は鳴っていない。

「早く起きな! 学校遅れるよ!」

 それは母の声だった。枕元の時計は、いつもなら家を出るはずの時間を指している。寝坊したという状況を理解し、私は布団を飛び出す。すると、母の目の色が変わった。

「どうしたの、その腕……」

 視線は、包帯を巻かれた左腕に向けられている。しまった。どうごまかしたものか。思考は空回りし、意味をなさない言葉ばかり吐き出す。

「えっと、これは、その……だ、大丈夫だから!」

「大丈夫じゃない」

 母の声は震えていて、今にも泣きそうだった。

「お医者さんとこ連れてくからね」

 そう言って聞かない母に、病院へ連れていかれることになった。学校を休めるのは少し嬉しかったが、それよりも不安が勝っていた。


「特に問題はないです」

 それがお医者さんの結論だった。思春期にはよくあることで、見せたがらないので無理には確認しないが、おそらく自分を傷つけてはいない。このような症状は成長とともに消えていくから、あまり心配することはない。だいたいそのように説明した。

 母は胸を撫で下ろしていたが、私は納得しかねた。部分的には正しいとしても、それでも、特に問題ないわけがあるものか。いつか直るなら、この切実な痛みは無視されていいのか。そう反論したかったができなかった。言っても無駄だと思ったし、何より反抗的だとか面倒だとか思われたくなかったから。


 それから数日後のこと。グラウンドに照りつける太陽は、まだ何も運動していない私たちをすでに消耗させていた。ジャージのごつい体育教師が、今日は晴れたから体力テストのトリとなる持久走をやると説明した。クラスメイトたちは憂鬱を隠さない。私だって嫌ではあったが、大げさにえーなんて言ってみたところで意味があるとは思えなかった。

 準備運動ののち、横何列かでスタートの前につく。私は邪魔にならないように後ろの方についた。合図があり、いっせいに走り出すと、たくさんの背中が遠ざかっていく。半周したところですでに息が苦しい。脚が重い。あと二周半が、途方もなく遠いように感じられた。脚も肺も痛むのをこらえ、一周、二周と最後尾を走っていく。三周目に入ったところで、先頭グループが背中から迫ってきているのを感じた。暑さと疲れから、一瞬ふらついてしまう。転ぶ、そう思った次の瞬間には転んでいた。膝をすりむいたが、血は出ていない。膝に大きな穴があき、やはりその中は空洞だった。私を追い越して、クラスメイトが走っていく。包帯を巻いた手で膝を隠し、見学しますと言ってグラウンドの隅に退いた。

 また穴が空いて、不安の種が増えてしまった。次の日からは、どんなに暑くてもニーソックスをはき、膝の穴を隠すことにした。


 それからも、ことあるごとに穴が空いた。

 お前の目は節穴だと言われた。目に穴が空いたので、眼帯とカラコンでごまかした。お前の耳は右から左だと言われた。耳に穴が空いたので、イヤホンで耳をふさいだ。しだいに奇異の目で見られるようになり、全身に穴が空きそうだった。その頃から、きっと私は「普通」に向いていないのだという思いが固まっていった。


 ある日曜日、私は自転車を走らせていた。少し遠くのショッピングモールに行くためだ。親には映画を観に行くと言って出てきたが、目的はそれだけではない。

 とはいえ、ひとまずは映画を観る。やるせない青春映画だった。マイナーと言うには出演者が有名な人ばかりだったけれど、少なくともクラスのみんなが噂するような映画ではなかった。自分だけが一歩先に進んでいる気がして、人生の渋みを知っていると思い上がって映画館を出た。調子に乗って挑戦したブラックコーヒーはひどく苦かった。

 瓶コーラで口直しをしながら、私は考えていた。同じコーラでも、瓶だとどうしてこうも風流なのか。どうしてこうも美味しいのか。瓶コーラの自動販売機があるのは、変な雑貨でごちゃついた本屋の前。同じショッピングモールに入った店で、今日の目的地のひとつだ。

 薄暗い店内に入っていく。しばらく見て回った後、怪しげな本を表紙買いした。教室の後ろの方で少年誌の後ろの方の漫画を語っているような人たちよりも、もっと深く濃い本物に触れられる気がした。


 休み時間は、いつも悲劇的な小説を読んでいた。家に帰ると、秘密のノートに詩や物語を書きためた。そうすることで穴が埋まる気がしたから。とは言っても気休めにすぎず、依然として血が出ることはなかった。怪我をしても、生理でさえも、一滴の血も出ることはない。女性器は言ってしまえば穴なのだが、痛み、血が出るのなら、それは傷だったのかもしれない。女は生まれながらにして傷ついている。そして男は、むやみに傷をえぐりたがる。ある夜、そんなことを考えた。


 高校に上がっても、依然として穴は空き続けた。その頃には「穴あき病」という病気が世間で騒がれはじめていた。言うまでもなく、私のような症状のことである。しかし穴あき病というのは、まったく的外れな病名に思われた。私たちが病んでいるのは穴が空くからではなく、中身が空洞だからだというのに。

 テレビの中では、穴あき病を公表した歌手が、薄っぺらな応援ソングを歌っている。そんな中身のない歌を歌うから、穴が空いてしまうのだ。


 一方で、高校生になって変わったこともあった。ひとり仲間ができたのだ。友達、ではなく仲間と表現したのは、その人が私に近しいものを持っているように思えたからだ。彼は──なんとその仲間は男子だったのだが──やはり私と同じように、周囲から浮いた存在であった。

 なかなか過ぎない昼休み、楽しげに談笑するクラスメイトたちを横目で見て、ついでにときどき盗み聞きしながら、いつものように読書して時が経つのを待っていた。すると、誰かに声をかけられる。

「その本、いいよね」

 話しかけてきたのは、同じクラスの岡田という男であった。坊主にメガネという親しみやすそうな風貌に、話しても楽しくない人とはいっさい話さないという尖った思想を備えた、とんでもない奴だった。岡田に切り捨てられようが別に痛くもかゆくもないはずなのだが、値踏みされていると思うとなんだか肩に力が入ってしまう。震える声で私は答えた。

「あ、うん、まだ途中だからまだなんとも言えないけど、繊細な文体がいいなって思う」

「読み終わったら、感想、聞かせて」

 そう言うと彼は去っていった。


 後日、読み終わって別の本を読んでいると、また岡田に声をかけられた。

「この前の本、読み終わった?」

「あ、読んだよ。終わり方がなんというか、余韻の残る感じで好きだなって」

「わかる。この作者はね、こういう、なんとも言えない結末が好きみたいで、それが一番有効にはたらいてるのが……」

「待って、ネタバレじゃない?」

「ネタバレしても、面白いから。貸すから、読んで」

 それからは、岡田と本を貸し借りするようになった。彼は小説だけでなく、映画や音楽にも詳しかった。よく洋楽のCDを貸してくれたり、おすすめの映画を教えてくれたりした。


 深夜、部屋を抜け出しては、居間のテレビでDVDを観た。真っ暗な部屋は、家族が起きているうちの明るい場所とはまったく別世界のように思われた。部屋を暗くして、画面のすぐ前で観る。それは小さな映画館だった。いつも深夜に観ていた上に、岡田のすすめてくれる映画は長くて難しいものばかりで、何度も眠りかけながら最後まで観ることばかりだった。


 三連休を前にした木曜日、岡田と話しているなかで、どうしても読みたい本ができた。月曜まで待てば、岡田が学校に持ってきて貸してくれるのだが、それまで待ちきれなかった。それで、今日の放課後、家に行っていいかと聞くと、彼は快諾してくれた。私の家とは逆方向、よく知らない道を彼に続いて歩く。彼のうちは坂の上、小綺麗な家々が並ぶ中の一軒だった。彼は鍵をあけ、玄関の扉を開く。

「ただいま」

「おじゃましまーす……」

 部屋は彼らしくというべきか、本やCDやポスターで埋めつくされている。しかしもっとも私の目を引いたのは、部屋に鎮座するギターだ。

「岡田くん、ギター弾くんだ」

「うん。明後日、ライブがあるんだけどさ、よかったら、聴きにきてよ」

 正直、興味があった。彼はどんな歌をうたうのだろう。忘れてなかったら行くよ、私はそう約束した。


 土曜日、岡田が言っていた場所に来た。それは駅前のビルの一角で、ライブハウスにしては綺麗すぎるように思えた。学生バンドが集まるライブは──素人の私が言うのもはばかられるが──なんだかぬるいというか、どこかお遊びじみている。がっかりしかけたところで、岡田の出番が来た。

 岡田はギターを持ち、マイクを前にしてステージの中心に立っていた。ステージと言っても、わずかな段差でしかなかったのだが。曲が始まると、空気が変わった。ちっぽけなステージの上で、彼は叫ぶように歌っていた。ギターをかき鳴らしながら、自分はここにいると、俺を見ろと声のかぎり主張しているようだった。体の芯が震えて、熱くなるような感覚があった。耳に残って離れないサビの歌詞は、きっと彼の作詞だろう。

「穴をあけたい、穴をあけたい、嘘くさい空、あなたの胸に」

 感動すると同時に、悔しいような、自分が情けないような気持ちになった。岡田は命をかけて戦っているのだ。この日常や、周囲の目と。

 家に帰ってもなんだか悔しさが消えなくて、深夜、私はネタ帳を広げた。かねてより構想していた長編小説を、ついに執筆することにしたのだ。机の上のスタンドだけが照らす、薄暗い部屋のなか、一心不乱にペンを走らせていく。

「負けてられるか」

 完成したら、きっと賞に出そうと決めていた。どの賞かは決まっていなかった。よく知っているわけでもなかった。ただ、私の作品で穴をあけねばならないような気がしたのだ。


 ある時、二人で酒を飲んでみようということになった。高校生は本来酒を飲んではいけないし、買うこともできないはずなのだが、彼はどこで聞いたのやら年齢確認のない店を知っていた。苦味を我慢して飲み込んだビールは、ものの見事に私たちを酔わせた。普段押し殺しているコンプレックスを丸出しに、私は叫んだ。

「いいよね、岡田くんは! 歌ってればモテるんでしょ!」

「そんなわけないだろ! 全然モテないし、僕はそういうの上手じゃないし、他のメンバーにもバカにされるし、もうダメなんだよ」

 それから一拍おいて、岡田はこう言った。

「ねぇ、童貞捨てさせてよ……」

 そして彼は、私にすがりついてくる。酔った勢いでバカなことを言い出した、そう思って流せたらよかった。それでも、私のなかで、急速になにかが冷めていった。私はずっとぬか喜びしていたらしい。岡田は穴をあけたいだけ。私の傷をえぐりたいだけ。自意識過剰かもしれないが、それは今に始まったことじゃない。何より悲しいのは、私ではなく女であることに価値があったと思う方が、納得できてしまうこと。左の胸に穴があいた。そしてそれ以来、岡田と話すことはなかった。


 大学生になった。一人暮らしをはじめて、生活について考える時間が増えた。生活のこととはつまり生活費のことであり、アルバイトに精を出す時間も増えていた。品出しのバイトは、人と話す必要があまりなくて楽だ。没頭は時間を早めてくれる。脳の余った場所で片手間に思索しながら、淡々と仕事をこなしていく。

 ある時、店内放送で流れるJ-POPが妙に耳についた。なんだか綺麗で澄んでいて、いい曲だと思った。バイトが終わるまで、何度も脳内でリピートして、何度か小さく口ずさんだ。

 バイトの帰りに通りかかったCD屋の前で、その曲のデモが流れていた。それは、私が嫌いだった、穴あき病の歌手が出したニューシングルであった。私はずいぶんつまらなくなったな、とため息まじりの失笑が漏れる。そうして色々なことがバカらしくなると、身体中がピリッと痛んだ。腕に巻いた包帯に、いくつもの赤い染みができていた。

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