切り抜き

 あやふやでよく分からない話。


 夜中にSさんが帰宅していたとき、ふぅっと近所の空き地が目にはいった。

 そこはアパートやらビルやらが立ち並ぶコンクリートジャングルのなか、なんの事情からか一画だけ不自然にたて壊した場所だった。


 煌びやかな明かりの群れにまぎれた違和感がそこにあった。

 草一つ生えていない空き地、その少し見上げたところ、建物があればちょうど3階ぐらいの高さに、周りの電灯より少し弱く光るナニカがあった。


 一瞬、UFOかナニカかと思ったSさんは声をあげそうになったが、咄嗟に口をおさえた。


 あの光は部屋から漏れ出ている明かりであり、『親子三人の幸せな団らん』を邪魔したら悪いなあ・・・。

 何故か、そんなふうに思ったからだという。



 それからまるで頭にもやでもかかったような状態で自宅にたどりつき、いつのまにか横になったとき、急に気持ち悪くなった。


 いったいなんで宙に浮かぶ光をみて『あれは幸せな家族の団らんだ』などと納得したのか。

 そもそも、あの光はなんなのか。



 暗い部屋のなか、そんなことばかりが頭のなかでグルグル回っていると、急に息ができなくなった。

 体を動かそうとするがまったく動かせない。

 パニックになった頭でなんとか目だけ動かす。



 すると寝室の入り口に爛々と輝くものがあった。

 光源のない暗闇で、てらてらと不気味に揺れ動くもの。

 それは三対の目元だけが、昔のSF特撮にでてきた切り抜きのように、空間に浮かんでいるものだった。


 目の高さからなんとなく『お父さん』『お母さん』『お子さん』のものというのが分かる。

 そして、目だけで表情は読み取れないが、『あ、この人たち、なんか自分を羨ましがってるんだなあ・・・』と脳裏に浮かんだところでSさんの記憶は途絶えた。





「それから、しばらくの間、毎晩覗かれて、金縛りに合うようになったんです」

「なぜか分からないけど、『幸せそう』と錯覚した僕のなにかしらを『羨ましがっていた』感じがするんです」


 そんなことが続くので、Sさんが帰路を変えてあの空き地を通らないようにしたところ、いつの間にか三対の切り抜かれたような目が現れることも、金縛りに合うこともなくなったという。





「なんであの人たちを『幸せそうだな』と思ったんでしょうねぇ・・・」




 以来、Sさんが『幸せってなんだろう?』と思い悩むようになった体験。


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