流れもの
男性の名前を仮にHさんとする。
以下は、Hさんが体験したという話。
Hさんの務めるアンティークショップでは、怪奇な出来事が連発しているそうだ。
例を挙げると
「誰もいないのに、ハンガーにかけている古着が数着、ズーッとずらされる」
「裸足でペタペタと駆け回る足音がする」
「『商品の影から手をあげて呼び込む店員は誰でしょうか』と尋ねられる。それに該当する店員はいない」
「裸の人が店内を歩き回っている気がする」
「お客さまから『視線が合う』と苦情がはいる」
「古着を物色していると、ハンガーとハンガーの間に裸の上半身が挟まっている」 ・・・などなど。
彼の勤め先では、ときおりそういうことは起きていたそうだが、最近ではひっきりなしで起きている。なにより、いままでは『音だけ』だったのに、客と従業員問わず『目撃談』が寄せられるようになった。
『変な音が聞こえていただけ』の頃は、なんとなく『これが原因かなあ』と思い当たる商品が売れれば、怪異はぴたりと止んだ。
だが、いまは原因の思い当たる商品がない。全く分からない。
「だからね、みんな気味悪がっていつも以上に売り飛ばすんだよ。さっさと治めたいから」
「そんなもんで売上がいいから、“ソイツ”にはいつまでもウチにいて貰いたいんだけどね」
もう少しで日が昇り始めそうな時間帯、ガラガラのファミレスでレポートに追われていた大学生のAくんは、唯一いた他の客、となりの席の二人組からこんな話を盗み聞きした。
いったいどんな客がこんな気味の悪い話をしているのか。
ちょっとした好奇心から、ドリンクバーを取りにいくついでに隔たり一枚向こうの席を覗き込んだ。
四人席に向い合せで座るごく普通の二人の男性。
空の料理皿、空のコップ、これらが対面で一つずつ。
しかし、聞き手にあたる男のとなりの席には、手付かずの料理と、氷が解け切って溢れそうになったグショグショのコップが一つ置いてあった。
奇妙なテーブルを目の当たりにしたAくんは(あ、乗り移ったんだ・・・)と直感した。
それと同時に、上座に座っている話し手の男の、まるで影が差しているような黒い顔色をみて(これ、ろくなもんじゃないぞ・・・)と悟って、逃げるようにファミレスを後にしたという。
その後、何度かそのファミレスを利用したが、件の男たちを再びみたことはないそうだ。
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