どうして?
どうしてそんなことになったのか、よく分からない話。
Eさんが映画館に行ったときのこと。 大々的に話題となっていた作品で、休日でもあったため、人混みのなかを掻き分けるように席についたという。
やがて映画がクライマックスに近づいた頃。 劇場に張りつめる緊張感から喉が乾いたEさんは、ひじ掛けに置いたもう溶け残りの氷しかないカップに手を伸ばした。
すると手は空を切った。
同時に(これは隣の人に持っていかれた!)と思い込んだEさんはそのまま視線を手元から横に動かす。
そこには小学生ほどの背丈をした女の子がいた。
しかし、Eさんの記憶が確かならば、隣に座っていたのは自分と同じ年頃、同じ背丈ほどの女性だったはずだ。
どういうことなのか混乱していると、ある違和感に気づいた。
座っている隣の人が女の子に変わったのではない。隣にいたあの女性の背丈が、なぜだかゆっくりと縮んでいるのだ。
気づけば縮むスピードはどんどん速くなり、とうとうひじ掛けから顔を出しているほどの高さになったとき、女性はEさんのほうをふっ・・・と見やると、座席の方、劇場の暗闇に吸い込まれるように消えてしまった。
あっけにとられて呆然としていると、ゆっくりと明かりがついて映画は終わっていた。
満員だった劇場。その隣には空席しかなかったという。
「たしかに勘違いかもしれませんよ」
「でもね、僕が買った紙コップのジュース、なくなってるんですよ。跡形もなく」
「それに・・・」
女性が暗闇に吸い込まれる瞬間、かぼそく「どうして?」と、自分をみつめながらとても悲しそうな顔で口にしたのがいまでも忘れられないそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます