第45話

 地獄。

 いや、そこで繰り広げられている惨劇を現す言葉としては地獄すらも生ぬるい。


 無限に燃え盛る帝都の街並み。

 どれだけ水をかけても決して消えることのない炎は燃やせるものがなくなるまで帝都で赤く輝き続ける。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 帝都で暴れる魔族たちは容赦なくそこに住まう人間を殺し、血の川を形成していく。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 男も、女も、子供、老人も関係ない。

 ただ虐殺されていく。


「この子はッ!この子だけでもッ!?……ま、まだ生まれたばか」

 

 我が子を抱いて必死に命乞いする女は子供ごと槍に貫かれてゴミのように捨てられる。


「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ」

 

 地面を転がった赤ん坊は前へ前へと進んでいく魔族に踏まれ、トマトのようにつぶれていくつもあるただの赤いしみへと姿を変える。


「戦えッ!戦えッ!に、にげる……ひぃあ!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 人々の前に立ち、脅威から守るべき兵士たちは無様に逃亡を開始する。


「逃亡は悪手ぞ」

 

 だが、逃げても無駄。

 逃げた情けない兵士たちは巨人族に抄われ、王城へと投げつけられる。


「あぁぁ……」

 

 轟音を上げ、震える王城。

 そこで一人、玉座に座るリース帝国皇帝は呆然と声を漏らす。


「ここで、終わるのか……我が帝国は」

 

 皇帝は誰もいなくなった玉座間で一人、空のワイングラスを掲げる。

 この世界に冠する帝国のラストエンペラーが最後にいるべき場所は玉座のみ。

 逃げていく王城に住まう人間たちを横目に彼だけは一人、ここにやってきていたのだ。


「うん。そうだね」

 

 いつからいたのだろうか。

 剣を握る少年が一人、皇帝の前に立っていた。

 皇帝の前に立つ少年の握っている剣は皇帝の心臓を貫く。


「そうか……ぐふっ。あのときの……小僧、か。大きくなったなぁ。やはり、この世界に終わりを齎すのは、アルビノたちか」


 心臓を貫かれ、口から血を流す皇帝は震える口を動かして、つぶやき……遥か過去を思い返す。

 ワイングラスが手より滑り落ち、甲高い音が鳴り響く。


「ふんっ」

 

 幼少期。

 唯一自分に対してゴミを見るような視線で見ないで食料を分け与えてくれた……かつて、皇太子として己の村に訪れた男を殺したアルはゆっくりと立ち上がる。


「やはりこの世界の『僕』は完全に死んでいないようだな」

 

 崩れ行く王城。

 この世界最後の皇帝が崩れ落ちた瓦礫によって潰されたのを最後に……この王城から人の気配が消えた。

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