第44話

「……」

 

 玉座に腰掛ける僕はワイングラスを手でもてあそび、視線を飛行船の外へとむける。

 この玉座の間に配下である魔族の兵士たちは存在していない。

 彼らはすでに人類最大都市であるリース帝国帝都へと降り立ち、気の赴くままに大虐殺を楽しんでいる。


「美しいとは思わないか?」

 

 僕はこの場に唯一残り、己の隣に控えているミミリーへと声をかける。


「……」

 

 僕の言葉に対して、ミミリーは沈黙を貫く……彼女の表情は少し青ざめており、体も震えているように見える。

 文官として生きているミミリーには刺激が強いのだろう。

 だが、これくらい慣れてもらわなければならない。

 これから僕たちの乗る飛行船は人類の都市を虐殺して回るのだから。

 

「これが……魔族の、戦い方なのですか?」


「あぁ。そうだね」

 

 僕はミミリーの言葉に頷く。


 人間と魔物の戦争……いや、もはや戦争なんて呼べないただの虐殺。

 

 今、目の前で起きているのはまごうことなき大虐殺だった。

 天より降り注ぐ魔族の大群。

 それがもたらすのは地獄よりもエゲツない行為であった。

 

 「下で死んでいる蛆虫などミミリーが気にする必要などない。ただ、燃えている街だけを見ればいい。人々の生活の糧を燃料に燃える赤きダイヤはきれいだろう?」

 

 帝都は僕の落とした大量の火炎瓶によって業火に包まれる結果となっている。

 

「……悪趣味ですよ。アル様」

 

 拗ねたようにつぶやくミミリー。


「ふふふ……すまない。つい楽しくてな」

 

 そんな

 自分が投げた火炎瓶……それが齎した結果を他者の口からはっきりと伝えられたミミリーの震えはさらに強くなっていく。


「だが、ミミリーが今行われている目の前の光景に慣れていく必要があることをゆめゆめ忘れないことだ。これから……君はこの光景を嫌というほどに目にするようになるのだから」


 僕は視線をミミリーへと向けて話す。


「っごく……アル様は、なんとも思われないのですか?同じ、人間のはずではなかったのですか?」


「ん?僕は一ミクロンも興味ないよ。そこら辺の羽虫と何も変わらない……僕にとって価値があるのはマキナだけだ」

 

 僕はミミリーの疑問に対してそう答えた。

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