第43話
空を悠然と駆ける一つの怪物……中世の時代では決してありえない文明の産物である飛行船。
梯子から僕が現代知識と魔法の力で無理やり形にしてみせた飛行船へと引き上げられた僕は自身の副官であるミミリーより王の代理に相応しき衣装を着替えさせられる。
「良き手際だ」
僕は自分の配下の仕事ぶりに頷き、足を一歩踏み出す。
ゴゴゴゴ……。
僕の前に立ちふさがる鉄の扉は門番である二人の魔族の手によって開かれる。
扉の先。
そこにあるのは別世界……小さな玉座の間である。
左右に控える勇猛果敢にして一騎当千たる魔族の精鋭兵。
中央にまっすぐと引かれている赤いカーペットの先には玉座が用意されている。
一歩。
僕が前に踏み出す。
それと共に左右に控える魔族の精鋭兵が一糸乱れぬ動作で跪く。
一歩……また一歩と。
僕は赤いカーペットを一歩づつ、確実に進んで玉座の前へと立つ。
本来であれば魔王であるマキナのみ座ることが許される玉座……しかし、魔王が飛行船にいない今。
僕は魔王代理であり、玉座へと座る権利を持つ。
「面を上げよ」
僕の一言。
それが魔族たちを動かす。
何百とある魔族たちの瞳が一斉に僕をとらえる。
「現在……魔王陛下は人類への攻撃を開始した」
静まり返った空間で僕は一言告げる。
「諸君。戦争が始まったのだ……再び我らは戦乱へと身を浸すのである」
僕の一言……それは魔族たちの中に染みわたっていく。
「戦乱の時代。誰かが死に、己が死ぬかもしれない世界。そんな世界へと我々は再び足を踏み出したのだ……この場にその事実に震えるものはいるだろうか?」
誰も何も答えない。
「では……今まで貯め続けた己が破壊衝動の開放を前に歓喜し、戦乱に対しッ!雄たけびを上げる怪物どもはどこにいるかッ!」
僕の言葉。
「「「おぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
それに対して……飛行船を揺らす雄たけびが響き渡る。
「よろしい!諸君!それでこそ長き戦乱の時を生きてきた怪物どもだ!殺し合いの中でしか、他者を殺すことでしか生を実感出来ぬ怪物どもだ!」
怪物たちが……戦争のために存在しているいびつな怪物たちがうなり声をあげる。
「今!再び戦乱へと我らは身を浸すのである!窓の外を見てみろ!外にいる有象無象どもを見るがよい!」
魔族たちの視線が僕から窓の外へと移り変わっていく。
そんな中……僕は笑顔を浮かべながら歌うように魔族たちに語り掛けていく。
「素晴らしいだろう?まるでゴミのように蠢き、ひな鳥のように見上げている。さぁ、戦闘しよう。さぁ、蹂躙しよう。さぁ、戦争をしよう。さぁ、血肉沸き立つ晩餐会と行こう。男も女も老人も子供も好きに殺し、好きに喰らえ。欲望の限りを尽くせ。さぁ、諸君。魔王様に心臓を捧げよ。むろん、己でなく他者のをね」
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