第28話

「え?……え?ど、どういう……」

 

 泣き叫んでいた勇者。

 そんな彼は今、呆然と一体何が起こっているのかも理解出来ぬままに困惑していた。


「そのままの意味だよ。別に僕の父親も母親も君の滅ぼした国になんて行っていないよ。普通に存命中だ」


「そ、そうなのか……良かった」


 僕の言葉。 

 それを受けて勇者の中に安堵が広がっていく。




「だがしかし、君が悪逆非道の限りを尽くして惨殺し尽くしたのは事実だ」




 僕の言葉。

 それは勇者の心の中に染み込んでいく。


「さてはて、そんな君の後ろに居るのはアルビノだ。この世界に否を告げられた一人の罪なき少女だ」


「……ッ!」


 宗教に仕える勇者であれば知っているし、見たこともあるだろう。

 何の罪もなく、一人孤独に飢えて死に、尊厳も何もなく虫に死体を貪られるアルビノの末路を。

 罪の意識に溺れる今の勇者が何の罪もないアルビノを前にして何も思わないはずがないだろう。

 そもそも勇者はさほど熱心な信者ではない。

 アルビノに対する忌避感もさほど大きなものではないだろう。

 というか、日本で作られたゲームだ。

 信心深いから最も対極に位置していると言っても良いかもしれない日本で作られたゲームの主人公が信心深いはずがない。

 

「ふぇ?」


 勇者の視線がリーゼさんに固定される。


「もう分かるでしょう?君が今、何をするべきか。実は、そのアルビノの女の子が勇者様にお願いしたいことがあるようですよ?」


 免罪符。

 かつて、ローマ教皇がお金欲しさにバラまいた何の変哲もないただの紙。

 そんな紙でも付加価値を告げれば莫大な金銭を獲得出来る。

 

 人は罪から逃げることはできない。

 しかし、人は罪から目を背ける方法を何よりも必要とするのだ。どんな高貴な人間であっても。

 ありもしない勝手な被害妄想による罪の意識に人は踊らされ続けるのだ。

 罪の意識からは逃げる、もしくは忘れる……感じない方法しかない。

 受け入れるなんてあり得ないのだ。

 

「あ、あぁ!俺に出来ることであれば何でもやってみせよう!それが俺の贖罪だぁッ!」


 一度吐露してしまった慟哭の代償を勇者はこれから先、償っていくことになる。

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