第27話

 僕の振るうナイフ。

 渾身の力と絶対の殺意でもって僕は勇者の心の臓腑へと。


「あぐぅ!?」

 

 今の僕に出来る最大限の力は勇者の手によってあっさりと塞がれる。


「クソ……ッ!?ガァッ!!!」

 

 僕は破れかぶれと言ったように手に持ったナイフを投げつける。

 確実に避けられるはずのナイフ……それを勇者は避けようともせず、己の肩にナイフが突き刺さる。

 肩にナイフが刺さっている。

 そんな現実を無視するかのように勇者は膝をつき、僕の方へと迫ってくる。


「済まない……ッ!すまない……本当にッ!」


 僕に抱きつくような形で崩れ落ちた勇者は己の中のものを吐き出す。

 一番最初に出てくるのは謝罪の言葉だった。


「俺は勇者だ!なのに!なのに!俺がやったのは惨殺だけ!!!人を殺した!この手で!!!何の罪もない彼らを!!!!!彼女らを!!!!!未来ある子供たちヲッ!!!!!……俺はッ!俺はッ!俺はァ!取り返しのつかぬことを……ッ!」

 

 勇者は……叫びながら崩れ落ち続け、いつしか僕の視線の下に転がっていた。


「俺は……何をしたら、何をしたら許される?……何を……何を……何が出来る?俺は弱い。アルビノを助けることも、宗教を潰すことも俺に出来ない……あぁ。俺は、俺は……何故、勇者などと」

 

 勇者は赤子のように蹲り、涙を流していた。

 その情けない姿を見てこの男が人類の希望である勇者だと分かる人は一体どれだけ居るだろうか?

 だが、僕はこの男こそが勇者であると知っている。わかっている。

 だからこそ、骨の髄まで利用し尽くしてやるのだ。

 

「すまない……すまない……すまない……」

 

 勇者は壊れたおもちゃのように謝罪の言葉を口にし続ける。


「別に僕に対して謝罪をする必要はないよ」


「何を言う!?俺はッ!俺は!君の両親ヲッ!コロシタノダゾッ!?」

  

 勇者の、魂の慟哭。


「いや、僕の両親は行商人じゃないし」


「「は?」」

 

 あっけらんと言い放った僕に対して勇者が……そして、リーゼさんまでも呆然と口を開いた。

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