第38話
公爵家当主が実際に打って出ることは非常に危険な行為であると言わざるを得ない。
突然変異体として生まれ、唯一無二の絶対的な力をもつ彼ら、彼女らの希少性は高く、殺せるタイミングさえあれば間違いなく殺す。
4つの公爵家たちは同盟を組んでいたが、それでも自身が裏切りによって倒され、己の領が傾くことを恐れて公爵家当主たちが出陣したのは結局アークライトのただの一回のみであった。
だが、今。
公爵家当主が黙っていられるほどの余裕はどこの家にもなかった。
■■■■■
ジュピターン公爵領の中心都市、エウロパ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
そこに僕は潜入していた。
かつてジュピターン公爵家に生まれた稀代の天才が作り、それ以降活用されることのなくなった旧下水道を僕は通る。
「アル様。ご無事でしたか!」
「当たり前でしょ?こんなところで死ぬわけにはいかないよ……クソ。あの化け物。容赦なく自領の家を破壊するか?普通……」
脳裏に浮かぶ忌々しいジュピターン家当主、ダグラスの無表情を思い浮かべて表情を歪める。
今、アースライト公爵領に攻勢をかけているジュピターン家の当主が前線に出向き、全てをひっくり返されることを恐れる僕は世界のどこにも記録されていない自分専用の配下である幻ノ軍を率いてエウロパで暴れていた。
全てはエウロパを廃墟にされることを恐れるダグラスをここに固定しておくために。
「ここの情報にまぁ、あいつが書類から見つけられるとは思えないけど……それでもいつか純粋なパワーで地面を陥没させて、ここがバレるかもな」
「確かにその可能性は十二分にございますね……別拠点の設置を急がせます」
「……別拠点の規模を縮小させる」
「む?よろしいのですか?」
「あぁ。構わない。そして、退却を始めるぞ。そろそろ前線に駆り出されているジュピターンの兵士が戻ってきて、大規模な調査が行われてもおかしくない頃だ。マキアが既に一週間ずつ確実に人員を減らし、一ヶ月後の完全撤退を目指す。良い?」
「了解致しました」
最低限の時間を食い止めることが出来ただろう。ここで僕が死に、幻ノ軍に大きな損害を出してまでやるような作戦じゃない。
さっさと撤退するに限るだろう。
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