第39話

 ヴィーナス公爵領とマーズレフト公爵領の境。


「……死ねぇッ!」


「遅いッ!」

 

 そこで公爵家当主同士がぶつかりあっていた。

 アークライトの手に握られている漆黒の鎌とアルゴンの手によって放たれる無数の魔法がぶつかりあい、大地を揺らして、大気を震わせる。


「ぬん」

 

 アルゴンが手に持った杖を振るだけで幾数千もの魔法が発動し、それらはアークライトの方へと向かっていく。


「……っ」

 

 アークライトは器用にそれらを全て回避、もしくは鎌で弾いて防ぐ。

 常に発動し続ける魔法を前にアークライトは近づくことさえ出来ないような状況にあった。


「死ね!死ね!やはりお主は公爵家当主の実力の足元にも及ばぬ卑怯者じゃけぇ!」

 

 知略を巡らせて戦闘するタイプのアークライトは基本的に他の魔族たちから下に見られることが多い。

 だからこそ、アルゴンは気づけ無い。


「ふっ……やはり愚かだな。喰らえ。ベルゼビュート」

 

 アークライトの手に握られている鎌……それが変形し、何柱もの龍の頭となってアルゴンの方へと向かっていく。


「なんじゃ!?これはッ!?」


「ハッ。もう年か?爺。三大魔導具の一つを忘れるとは笑えないぜ?」

 

 三大魔道具の一つ。

 『ベルゼビュート』は相手から受けたダメージを蓄積し、開放するというもの。ダメージを蓄積すればするほど龍頭の大きさは大きくなり、数も増す。

 そして、開放された龍頭は対象を食べ尽くすまで決して止まることはない。

 

 アークライトはヴィーナス公爵家に伝わる秘宝『絶対領域』改め三大魔道具『アテネ』に引き加え、更にもう一つの三大魔道具である『ベルゼビュート』を所持しているという怪物なのである。


「馬鹿……なッ!?」

 

 絶大な力を誇る三大魔道具の龍頭に呆気なく食われるアルゴン。最後には何も残らない。

 アルゴンはただの小手調べの段階で無惨に敗北を決したのである。


「良し……なんとか無傷で殺しきれた……後は」

 

 アークライトはアースライト公爵家との戦争に勝利するため、頭を回す。

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