第3話

 ゲーム『インキュナビラ』に転生したことを悟った僕は……一度色々と湧き上がってくる己の思考を端へと捨て、慌てて少女の方へと駆け寄る。


「大丈夫!?……血、血がいっぱい……」

 

 自分の精神年齢が自分の肉体に引っ張られていることを感じながら、少女の体に触れ、ベッタリとついた血をハンカチで拭い、未だに血が溢れている体に包帯を巻きつける。


「な、何……を?」


「だ、駄目だよ!」

 

 僕は口を開き、強引に体を動かそうとする少女に動かないように告げる。


「えぇっと……全然包帯が足りない……!あっ!回復薬が僕の秘密基地にあるから持ってくるね!怪我、悪化しちゃうから絶対に安静にしててね!」

 

 僕は即席の簡易ベットを作り、そこに少女を寝かせて布団を被せる。

 いつも肩から下げているバックには怪我したときのため、どこででも眠れるようにするため、色々ものが入っているのだ。

 即席の簡易ベッドを作る際、少女がこの場から動くことの出来ないようにちょっとした特別な方法を使って軽い拘束を施す。


「良し、と……じゃあ、回復薬持ってくるね!」

 

 僕は自分の秘密基地がある方向へと走り出す。


「……随分と便利だな」

 

 僕は前世の記憶をなんでかは知らないけど取り戻した。

 それでも僕はこれまでこの世界で歩んできた5年間の人生の記憶もしっかりと記憶していた。

 自分の秘密基地がどこにあり、何が置かれているのかを僕は正確に知ることができた。

 あそこから少し離れたところにある本当に小さな……家とも言えないただ少しだけ外界から隔離されただけの天然の秘密基地にたどり着いた僕はそこから自分の宝物である傷を治すポーションを手に取った後、少女の方へと戻る。


「……ッ!は、はやいな……」


「あー!動こうとしている!動いちゃだめって言ったじゃん!」

 

 少女の元へと戻ってきた僕はここから動こうとモゴモゴしている少女の姿を見つけた。


「ちゃんと治してから動かないと!ほら、回復薬だよ」

 

 僕は少女に自分が持ってきた回復薬を渡す。


「……っ。こ……ぬぅ……」


「……?それは上級ポーション。飲めば回復するよ?」


「……わかっておる……えぇい!」

 

 少女は気合一閃。

 上級ポーションを勢いよく飲み干した。


「……っ」

 

 僕はあっさりと口に含んだ少女を見て驚愕の感情をその身に宿す。まさか、こんなにもあっさりと信じて飲んでくれるとは思っていなかった。


「……おぉ……ほ、本当に……」

 

 僕の渡した回復薬を飲んだ少女の体は傷一つない姿となった。

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