第2話

「いった……」

 

 木々のさざめきが歌い、木漏れ日に照らされた僕は地面へと転び、膝から血を流してしまう。


「うぅ……」

 

 これくらいの痛み。なんてことはない。これくらいの傷はいつも受けるし、血を流す。

 それでも血を流し、倒れたという事実は僕に重く押しかかってきた。


「痛い……」

 

 無視できる程度の痛みにへこたれながら、僕は森の中をただただ呆然と歩く。歩く過程で特に考えるものはない。

 ただの現実逃避。


「……なんだろう。この既視感は」


 ただただ無心で森の中を歩き続ける僕は今、歩いている事実……そしてその情景と音に謎の既視感を覚えていた。

 別にこの森は良く来るし……既視感があって当然なのだが……なんだろう。何かが違う言い表すことの出来ない既視感を僕は感じているのだ。

 僕はなんとも言えない思いを抱えながら森の中を歩いていると、少し開けた場所に出る。

 

「あぁ」

 

 開けた場所で倒れている少女。

 僅かな……されど温かい木漏れ日に当たる僕とは違い、直射日光を浴び、強く光り輝いている彼女。

 その姿を見て僕はすべてを理解する。すべてを思い出す。

 どれほどこの光景を見たことか。

 セーブ機能がない難易度鬼マックスのクソゲーのせいで何度この光景を見たことか。


「……ッ」


 強い光の下、倒れている彼女。

 見た目的には9、10歳だろうか?

 降り注ぐ強い太陽の光をすべて吸収する黒い髪に、宝石のようにきれいなアメジストの瞳。実に黄金比の取れたきれいな顔立ちで、今までにあったどの人よりも可愛らしい……そんな少女だった。

 

 これ以上ないまでに美しい彼女には……頭からは小さな角が生え、背中には小さな翼も確認することが出来る。良く見れば、尻尾のようなものも確認出来る。

 明らかに人間とは異なる見た目を持った少女。己が見たこともない異形の存在。

 

 そんな少女は今、全身傷だらけ、多くの血を垂れ流してそこに立っていた。


「うっ……」

 

 僕に気づいた少女は体を持ち上げ、動こうとし……失敗する。傷だらけの体でうまく動くことが出来ないようだった。

 それでも……彼女は血まみれの相貌をこちらへと向け、威嚇してくる。

 彼女の戦意がみなぎっているのを感じる。


「大丈夫?」

 

 僕は一切の躊躇なく木漏れ日の下から、強い日差しの下へと登っていた。

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