第30話 如月さんの覚醒

最近…一人取り残されている感じがする…


旦那様はある日から取り憑かれたかのように

筋トレや短距離ダッシュの練習をひたすらしていた。

地味な練習だが、旦那様の目は輝いていた。


夏美さんは、モデルの仕事を頑張っている。

一度私も夏美さんの仕事を見学させてもらった。

凄く奇麗で、大人びていて、まるで違う世界の人って感じがした。

その目は真剣で、旦那様と一緒で輝いていた。


渚さんは、スーパーのアルバイトに勤しんでいる。

高校を卒業したらそのままそのスーパーに就職するらしい。

内緒でこっそり覗いてみたが、学校とは違っていて何処か楽しそうに接客していて、

お客さんもつられる様に笑っていて輝いて見えた。


私は?

心配性だけど優しいお父様とお母様に守られているだけ?

私はどうすれば良いの?


・・・


「旦那様…最近一生懸命トレーニングを繰り返されているようですが、

 目標でも出来たのですか?」


「…うん…実は…アメフトを本格的にやりたいと思ったでござる!」


「アメフト…ですか!」

「へぇ~!」

「やっぱりね…」

成瀬さんだけは事情を知っているみたいだ…少し寂しい…


「特にラインという役割がチームの皆を守る役割でござって、

 小生の性格上にも体格的にも合っていて、

 本気で頂点を目指してみたくなったでござる。」


「確かに、マー君に合っている役割ね♪」

「かっこいいぜ!勝君!」


「それで…高校を卒業したら、

 本場のアメリカで頑張りたいと思ったのでござるよ!」


『『 え!? 』』


「あ、アメリカ?本当なのか?勝君!」

「目標になったのは分かっていたけど…まさか…そこまでとは!」

「そ…そんな…」


皆さん青天の霹靂だったようで黙ってしまいました…

勿論一番ショックを受けたのは私…

だって自分が一番置いてけぼりの雰囲気だったのに、

更に突き放されてしまったんですもの…


その日学校からどうやって家に帰って来たのか覚えてません…


私は…どうすれば良いのでしょうか?…


私は…


コンコン!


「遥ちゃん…どうしたの?」

「お…お母様~!!!」


私は自分の胸に抑えきれずに、お母様に悩みを相談しました。


「…そっか…難しいお話ね…

 でも…人は人、遥ちゃんは遥ちゃんなんだから

 自分の良さを磨くのが良いと思うわ。」


「私の…良さ?」


「確かに人の頑張っている姿や努力している姿は素晴らしいし

 それを見て自分の努力が足りないんじゃないかって

 引け目を感じる時はあると思うわ。

 でも…遥ちゃんにしか出来ない素晴らしい事もあるはずよ?

 それは自分では気づかないかもしれないけど、

 人からして見たら凄い事かもしれないわよ?」


「…分かりました…自分の長所をよく考えてみます…」


・・・


私の得意な所って…長所って何だろう?

私は、皆さんと同じ旦那様の横に並び一緒に歩むというよりも、

一歩下がって旦那様を引き立て、サポートする方が合っている気がします。


ならば…

その日から私は、健康的且つ瞬発的なパワーを引き出す身体づくり、

それが実現するような料理の勉強や

海外に行った時にサポートできるように英語の勉強を

一生懸命取り組むようになりました。


・・・


「…何か変わったわね…如月さん…」

「何か…凄いな…如月の奴…こりゃ…負けてられねぇぜ!」


知らぬ間に周りの目が変わり始めた。



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