第29話 勝の葛藤

小生こと 桐生 勝 は、幼い頃はお相撲さんになるのが夢だった。

けど事件がきっかけで相撲は辞めた。

大事な幼馴染みであるなっちゃんを助けられたんだ…別に後悔はしていない。


疎遠となっていたなっちゃんや

なっちゃんに負けず劣らずの美少女である如月さん、白石さんに

好意を受けている今の状況は、他から見ても羨ましいだろうし、

小生自身有難いと感じている…


ただ…これからどうしよう?

将来の夢って言うものが考えられなくなっていた…


・・・


休日になっちゃんと一緒にブラブラと歩いていた。

小生の高校の近くに大学がある。

いつも元気な声がグランドに響き渡る。

実はいつも気になっていた…


今日はふとその声に惹かれて、小生はグランドを覗き込むと

なっちゃんが教えてくれた。

「どうやらアメフトサークルの練習試合みたいだね?」

「アメフト…」


防具をつけた体の大きい人達がスクラムを組んで押し合っていた。

どうやらボールを押し込めば得点になるらしい…

一生懸命に押し合い…守る側が潰れた。

「すっごい迫力だね!」

なっちゃんが興奮気味に話しかけてきた。

小生も目が離せなくなった。


ピピー!レフリーにゲームが止められた。

どうやら守備側のチームの1人がケガをしたらしい。

困っているようだ。


小生は思わず声を掛けてしまった。

「あの…もし良ければ…小生が代わりに出るでござるが?

 見ての通り小生体が大きいし、丈夫でござる!」


「ん?ガタイ良いな!

 そっか。防具貸してやるから出てくれないか?」


「勿論でござる!」


「え?マー君大丈夫?」


「うん!やってみたいでござる!!」


夏美視点:


相手は大学生、ルールも知らない高校生が練習試合とは言え

試合に出るのは危ないと思う。

でも、強くは止められなかった…

だって…久しぶりに見たんだもん…マー君の目が輝いてるのを…


マー君は防具を借りて、スクラムを組んだ。

守備側のチームである。

ルールは良く分からないが、兎に角押されない様に踏ん張るだけで良いらしい。


ピピー!

セット!

攻撃側が一斉に押してくる。

さっきまで劣勢だった守備側は全く動じない。

理由は分かっている…マー君がいるからだ。


「くっ…全然動かねえぇ…どーなってやがる!!」

「おーし押し返せ!!!」

「ふぬ!!ふぬぬぬぬぬぬ!!!」

「うぉおおおおおおおお!!!」


守備側は耐えるどころか逆に攻撃側を押し返すようになっていった。

そしてそのまま敵のラインは仰向けにひっくり返ってしまった。


「アオテンだ!!!すげえ!!!」


ゲームセット!!!

守備側のチームが僅差のリードを守る切って、そのまま勝利したらしい。


「おい!!!お前凄えパワーだな!!!

 うちのサークルに入れよ!!!」

「お前がいれば、ラインは安心だ!!!」


「いや…小生は高校生でござって…」

「こ、高校生!?高校生でこのパワーなのか!?」


…何でだろう?…胸がドキドキする…

いや、いつもマー君にドキドキしてるんだけど…

いつもの比にならない位…ドキドキしている…


小学生の頃に相撲で輝いていた時のマー君を見ているようだった。

マー君自身も凄く嬉しそうで…


何となく分かってしまった。

私が原因で無くしてしまった夢を…今日…この場で…見つけたのだと。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る