第9話 頂上決戦

私と成瀬さんは誰もいない屋上に来た。


「旦那様と成瀬さんが昔事故が原因で誤解が生まれ疎遠となり

 今朝からその誤解が解けたので元の仲の良い幼馴染みに戻ったのは

 旦那様から聞きました…」


「…そう。その前に…マー君の事旦那様って言うの辞めてくれないかな?

 お付き合いと言っても仮ってマー君から聞いたよ?

 ちょっと馴れ馴れしすぎないかな?」


「私は旦那様からそう呼んでも良い許可を頂いてます。

 成瀬さんもマー君ってかなり長い期間疎遠だったのに

 馴れ馴れしすぎませんか?

 仮でも付き合っているのは私です。」


「仮な上に付き合い始めたの一昨日でしょ?

 私は13年前に既に結婚の約束をしているの!

 約束が先の方が立場が上という意味では私の方が上なのよ!

 謂わば私は幼馴染み兼許嫁というべき存在なのよ?」


「13年前なんて幼稚園の頃の話ですよね?

 そんな幼い頃の約束にどれほどの責任があると言うのですか?

 本人だってどの程度その言葉の意義を意識していたのか怪しいじゃないですか!」


「私はね…小さい頃からマー君の事が大好きだったの!

 貴方がいつからマー君の事を好きになったのか分からないけど

 好きでいた期間は絶対に私の方が長いの。

 疎遠になっていた時も…片時も彼を忘れたことはない。

 むしろその期間で一生懸命女を磨いてきたの。

 もう一度仲良くなったら絶対に振り向いてもらえるようにって!」


「確かに、好きでいた期間は貴方には叶わないかもしれない。

 でも私も好きな気持ちでは貴方に決して負けません!」


話は平行線、両者一歩も引かなかった。


「大体貴方…マー君のどういう所が好きになったの?」


「…彼の事を知ったのは…実は…小学校の頃です…

 詳しくは言えませんが…彼に助けてもらった事があるんです…

 その時は私も精神的なショックが大きすぎて…

 会うどころかお礼すら言えなかったのですが…

 それから彼を探し出して…ずっと彼を見てました。」


「観察していると彼は…誰に対しても偏見がなく、とても強くて、

 とても優しい人なんだとわかりました。

 小さい子供が泣いていると泣いている原因を解決してくれたり、

 困っているおばあさんの荷物を持ってあげたり、

 妊婦さんが産気づいたら救急車を呼んで待っている間に励ましたりと…

 今ではとても尊敬してます。」


「私は…自分で言うのも何ですが男の人から奇異な目で良く見られたりしますが

 私に対してもそんな目を向けることは一切ないし、彼の優しい目を見ていると

 安心できるんです。

 一緒にいるとほんわかするんです。」


「如月さん…今回の事がなくても、貴方の噂は聞いた事があるわ。

 でも噂なんて当てにならないわね…

 天使のような美少女と聞いていたからてっきり気弱なイメージでいたけど…

 とても自分の意志があって、気も強いのね…

 それに…貴方もマー君に助けて貰った事があるのね?」


「でも1つ確認しておくわ。

 もしもマー君が人に後ろ指刺されるような過去があったとしても…

 貴方はこれまでと変わらずマー君に想いを寄せられるかしら?」


「過去なんて関係ありません。

 私は今の旦那様が好きなんです!」

如月は強い決意の目で訴えてきた。


その目を見て成瀬は少し表情が柔らかくなって言った。


「…良いわ…貴方の事少しは認めてあげる。

 マー君は優しいから今どっちを選べなんて言われたら困ってしまう…

 私はマー君を困らせたいわけじゃないの。

 約束は私の方が先にしたけど…疎遠にしていたのは私の落ち度…

 それにマー君の良さを分かっている貴方なら、勝負に値する。

 高校卒業までにマー君に決めてもらうというのはどうかしら?」


「…そうですね…私も心優しい旦那様を苦しめたくありません。

 幼馴染みなだけあって、

 私と同じく旦那様の良さを分かってらっしゃるみたいだし…

 私も成瀬さんを認めます。高校卒業まで勝負しましょう。

 でも…絶対に負けませんから!」


人知れず頂上決戦の勝負が幕を開けた瞬間だった。

 

 

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