第4話 天変地異のランチ
「は、遥ちゃん…その…旦那様って…何?」
陽キャグループの一人が意を決して、質問してきた。
「えっと…その…ですね…
実は…昨日から桐生さん…いえ…旦那様とお付き合いすることになったんです。」
如月さんは顔を真っ赤にしつつもはっきりと答えた。
「え?嘘!?冗談でしょ!?よりによって桐生君!?」
「チッ!おい!この豚!!てめぇ、遥ちゃんが優しいからって調子に乗んな!!
どんな弱みつけ込んで脅したんだよ!!」
陽キャの男が小生に食って掛かった。
小生はそんな事ござらぬよと苦笑いをしていると…
「辞めて下さい!!!」
その瞬間、如月さんが初めて怪訝な顔をして大きな声で怒った。
「私は脅されてなんかいません!!
お願いですから、私の大切な人に酷い言い方しないで下さい!!」
「わ、分かった…そこまで遥ちゃんが言うなら…
でも100歩譲って付き合っているとしても…旦那様って何?
何でそんな言い方に!?」
小生もそこは非常に疑問に思っていたので激しく頷いた。
「実は…昨日私からプロポーズしたんです。
けれども旦那様の方からもっと自分を大切にしないといけないと
諭されてしまいまして…でその一歩手前のお付き合い(仮)という事にしたんです。
でも…私としては結婚をしたいので…そこは旦那様の意を汲んだわけですし…
せめて呼び名だけでも私の意を汲んで頂きたいと思いまして…」
「ダメ…ですか?旦那様」
またしても上目遣いで小生に聞いてくる如月さん…
無理です…小生にはその目に抗えません…
「…はい…」
「ありがとうございます。旦那様♪」
またしても向日葵が咲くかの如く晴れやかな天使の微笑みをしながらお礼を言った。
「で…では僭越ながら…
和弁当の里芋の煮物から如何でしょうか?」
「お…美味しそうです…でも箸が…」
「ここにございます。
で…では…その…失礼して…あ…あ~~~ん♡」
如月さんは頬を赤らめていたがとても嬉しそうな顔をして言った。
「え!?」
「え?どうしたのですか?旦那様?
ひょっとして…里芋お嫌いですか!?」
「え?え?えええっ!!!
い、いや…好きでござるが…」
「えっ!?皆の前で…
そ、そんなストレートに愛情表現されると流石に恥ずかしいですわ…旦那様♡」
「いや…里芋好きと言う意味でござる。
それに食べさせてもらうなど…
お、恐れ多すぎて…自分で食べられるでござる…よ?」
「ダメです。お付き合いしているのですから…
あ~~~ん♡は必須です!!」
それでも小生が戸惑っていると…
「旦那様が あ~~~ん♡ で喜んでいる顔を思い浮かべながら…
今日は…4時から起きて…
ぐすん…ダメ…ですか?」
本当に悲しげに涙ぐんで懇願してきた。
はい…無理でござる…白旗でござる。
独りになった時に周りの方々からリンチされるでしょうが…
もう小生には抗えません。
小生は素直に
「あ~~~ん」
と受け止めた。
「お、美味しいでござる!!」
本当にこれまで食べたどんな料理よりも美味しかった。
母上…ごめんなさい…母上の料理よりも美味しいでござる…
「ふふっ♡本当?嬉しい…旦那様♡」
その後もどんどんと
「あ~~~ん♡」
が続き、クラスの空気は天変地異の如き空気に…
この味とこの天使の微笑みの為ならば…死ねると覚悟を決めて
小生は、全ての弁当を美味しく平らげたのであった。
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