第9話
「どうしておまえはそんなひねくれた見方しかできないんだ!」
ついには、声を荒げてなじった。
「おまえはいいやつだな」
喬一は苦笑していた。
「でも、おれにはわかるんだよ。あんなことの後だからこそ、本当ならあいつ自身が来るべきなんだ。少なくとも、おれだったらそうしてるね。なんなら、おまえからあいつにそう言ったっていいんだぜ」
祐二は呆れて肩をすくめ、こいつは誰も信じられないんだ、と思った。
でなければ、物事をここまで悲観的に考えるはずがない。
その時はそう考え、釈然としないまま引き上げざるを得なかったのだが、曇りのない目で物事を捉えていたのは、実は喬一の方だった。
その事実を思い知らされた時はさすがにショックを隠せなかったが、どうしようもなかった。
祐二にできたことといえば、
「世の中ってのはそんなもんさ」と、あえてさめたふりで失望することぐらいだった。
石毛義春は祐二が喬一の言葉をそのまま伝えたにもかかわらず、今に至る半年近く、たった一度訪ねたきりで、その後はまったく彼のもとへ足を向けなかった。
あくる月曜の朝、織田祐二はひどく調子が悪かった。
前の晩一睡もできなかったせいだ。
とりあえずベッドへはもぐりこんだのだが、つまらぬ考えに気をとられるうち、すっかり目が冴えてしまった。
彼は喬一や自分、同じ年頃の少年たちについて、様々に思いを巡らせた。
考えれば考えるほど心細くなった。
懸命に楽しい連想を試みるのだが、浮かんでくるのは暗い考えばかりだった。
暖かい布団にくるまりながら、それでも寒くて身体が震え出すのがわかった。
途切れることのない悩みの種を数えながら、祐二は途方に暮れて天井を見つめた。
そんなものを数えるなら、羊の数でも数えた方がずっとためになったはずだが、そうしなかった。
そうすることを思いつきもしなかった。
やっとあくびが連発する頃には、すっかり明るくなっていた。
眠れぬ夜というのは、いつもそんな風に明けていく。
それでも仕方なく、いつもと同じ時間には家を出て学校へ向かったのだが、途中どうにも眠くてたまらなくなり、近くの公園へ行って一眠りすることにした。
ブランコやすべり台などの遊戯施設はもちろんあるが、野球ができそうなほどの広い芝生もあって、どちらかといえば空き地と呼べそうな公園だった。
まだ早いせいか人影もなく、静かで、横になって眠るにはちょうどよさそうだ。
時折冷たい風が吹く他は、よく晴れて、普通ならすばらしくさわやかな朝だったろう。
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