第8話
誰からともなく拍手が起こった。
彼らが石毛義春の立場に心から同情しているのは明らかだった。
「ありがとうございます」
石毛義春は言葉と裏腹にうなだれた。
「そのお言葉で、私がいかに元気づけられたかお察しください。ただ、今度のことで自分の無力を誰よりも痛感させられたのは、他ならぬ私自身なのです。このまま松本が退学処分になってしまったら、私はこの先もずっと、今のこの無念さを胸に抱いたまま教壇に立ち続けねばならないでしょう。どうかもう一度機会をいただけないでしょうか。彼との関係を修復し、誇りを持って子供たちと接することができるようなるための機会を。どうか、お願いします!」
彼はまた、深々と頭を下げた。
頭部に包帯を巻いたまま、教師生命を賭けて一人の生徒を救おうとするその姿には、異様な迫力があった。
職員室はむせかえりそうな熱気に満ち、口をきく者もなかった。
誰もが石毛義春は救われるべきだと思い、教育に熱意のある女性教師の中には涙ぐんでしまう者もあった。
会議の結論は石毛義春の一言でひっくり返り、喬一の処遇についても、彼に一任されることとなった。
彼の態度に心を動かされぬ者は稀だったが、それからほどなく、祐二は職員室へ呼び出された。
用件はやはり喬一に関することで、あんな事件があった後だし松本が学校へ来たがらない気持ちもわかるのだが、このままの状態を続けるのは彼の将来にとって大変なマイナスになる。私が行ってもいいのだが、それでは彼が首を縦に振らないだろうから、親友のおまえから説得してはもらえまいか、とのことだった。
職員会議の顛末を人づてに聞いていた祐二は、担任の意外な行動に感激していたので、依頼を快く引き受け、喬一のもとを訪ねた。
石毛義春が職員会議でたった一人退学処分に反対したこと、また、わざわざ祐二に彼の説得を頼んだことなどを伝えても、喬一は微笑むだけで、決して学校へ行くとは言わなかった。
祐二には納得がいかなかった。
それで、何故行かないのか、いつもよりしつこく突っ込んでみた。
喬一は他人の心の裏ばかり覗くのは嫌なんだが、と前置きして、
「おれにはわかるんだ。あいつはてめえの能力が問われてるのを逆手にとって、仲間の同情を集めただけさ。もしおれがそのまま退学になってみろ、外の人間が黙っちゃいない。学校の体制が批判されるんだ。その時のために布石を打ったのさ。クサい芝居だよ」
何てこと言いやがるんだ、と祐二は腹が立った。
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