第6話
「休み時間に何をしようがおれたちの勝手だ。第一、てめえの格好は何だ。おれたちに厚着を押しつけといて、てめえはトレーナーにTシャツで涼しい顔をしてやがる。ふざけんじゃねえよ!」
「チッ、校則ってのはな、おまえらのためにあるんだ。特に松本、おまえみたいな間抜けな羊が柵から迷い出ないようするためにな」
そばで聞いていた祐二は、いまやすっかり喬一に肩入れし、ちょっと前までは彼がおとなしく着替えてくれればいいのにと考えていたのを思い出し、おれは何て調子がいいんだろうと思った。
祐二は周りが気になって、そっと様子をうかがってみた。
みんなも同じ気持ちに違いないと思ったからだが、彼らの反応は考えていたのとは違っていた。
しらけた顔で溜息をついている者や、そばの友達と関係ない話をしている者。
ノートの隅にラクガキしている者。
いろいろな奴がいたが、共通していることが一つだけあった。
誰も喬一や石毛なんかに関心を払っていないということだ。
祐二はがっかりした。
同時に、喬一の姿が哀れなピエロに見えてきて、ひどく嫌な気持ちになった。
喬一にすれば、みんなの不満を代弁するつもりだったかもしれないが、連中にとっては、校則などどうでもよかったのだ。
「フン、本音が出やがった」
喬一は声を荒げた。
「ご立派な教育者面しやがって、やってることは嚇したり殴ったり、ヤクザと変わんねえじゃんか。みんなが暑いのを我慢して制服を着てるのは、校則を守ってるんじゃない。守らされてるだけだ。てめえに何されるかわかんねえからそうしてるだけなんだ。でなきゃ、誰がバカげた校則なんか守るもんか。暴力や嚇しで人の行動は縛れても、心まで縛れやしねえんだぞ!」
違う、そうじゃないんだ。
祐二は心の中で喬一に言った。
みんなが上着を脱がないのは、そんなのどうでもいいと思ってるからだ。おまえの言うようなことを気にかけてる奴なんか一人もいない。もういいよ、喬一。これ以上頑張ったって、おまえが傷つくだけだ。もうやめてくれ、たくさんだよ!
「なあ、松本」
と、薄気味悪い猫撫で声で石毛義春が言った。
「おれはもう20年近く教師をやってる。その間には、おまえみたいなのは掃いて捨てるほどいたよ。だが、そいつらは結局、最後には自分のバカさ加減を思い知っておとなしくなった。おれがどうやって連中を黙らせたかわかるか?」
うっすら微笑みさえ浮かべて一歩踏み出した刹那、裏腹な殺気が喬一を貫いた。
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