第4話

 むろん彼の体格を見れば逆らおうとする子供はいなかったし、自分を独裁者のように思っている節があった。


 校舎内にその怒鳴り声のない場所はなく、彼はいつもグレーのトレーナーに身を包み、暑い時はそれを脱ぎ、首からは銀色のホイッスルをぶら下げて、足元は大きめのサンダルをつっかけていた。


 そして詰襟のホックを外したり、上着を脱いでくつろいでいる生徒を見つけては、まるでそれが楽しみのように雷を落とした。


 口答えしようものなら、金槌みたいな拳骨がためらうことなく飛んでくる。

 被害は男生徒にとどまらない。


 女生徒の中にも髪を無理矢理切られる者や、アクセサリーを取り上げられる者がたくさんいた。


 普通なら絶滅種に数えられるはずのスパルタ教師が、ここでは何故かまかり通っている。


 職員も保護者たちも、そこらの公立校のような無法地帯になるよりはマシだと考えたのだろう。


 中にはやりすぎを指摘する同僚もいたが、そんな声を聞くたびに石毛義春は、


「それは違うよ」と、相手を諭した。


「規則というのは守るためにあるものだ。禁酒法のような悪法でさえ、警官たちはそれを守るために命を賭けた。規則がある以上守るのが当然で、規則自体の性質はそれほど問題じゃないんだ。校則がおかしいと思うなら、生徒たちがいいものに変えていく努力をすればいいだけの話さ」


 祐二は事件が起こったあの日のことを、現在もはっきり憶えている。


 五月に入ったばかりのよく晴れた午後で、空は抜けるように青く、雲一つないまさに

 五月晴れだった。


 昼休みにバスケでひと汗かいた祐二は、スポーツの後の心地良い疲労を感じながら、喬一といっしょにタオルで汗を拭いながら教室へ戻った。


 そこで初めて、次の授業が石毛義春のホームルームなのを思い出したのだ。


 五月末に行われる予定の球技大会の競技種目を話し合うことになっていたが、そんなことはどうでもいい。


 問題は石毛義春がやってくるということだった。


 陽気はいいし、汗をかいた後なので、暑苦しい詰襟の上着など着たくなかったが、怒鳴り散らす彼の狂態を想像した時、祐二はいつしか重い制服を後ろのロッカーから引っ張り出し、ボタンを締め、窮屈な襟元のホックまできちんと留めていた。


 しかし、喬一は違った。


 こんなクソ暑いのに制服なんか着ていられるかと言い、体育の授業で着る紺のジャージに着替えてしまった。


 ジャージ姿で授業を受けるのは、もちろん禁じられている。


 何考えてんだ、と祐二は思った。

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