第3話
「誰だって楽しいと思って勉強なんてしないさ。そりゃ中には変わったのもいるだろうけど、大抵は面白くないと思ってる。でも、学校へは行くんだ」
「おれは嫌だ。そんな暇があったらマシンに乗るよ」
「乗ってどうする?レーサーにでもなるのか?世の中甘かねえんだ。大学ぐらい出てなきゃ何もできやしない」
「おれは大学なんか行かねえよ」と、喬一は言った。「そんなものには興味ねえんだ。ま、おれなりに一応考えてることもある。近いうちに一度、学校へは行くよ。おれはやってやるんだ」
「やってやる?何を?」
「その時になればわかるさ」と、喬一は不敵に笑った。
缶ビールを三本空にしてすっかり気持ちよくなった喬一は、祐二の両親と鉢合わせてはまずいというので、五時過ぎにオートバイに乗って帰って行った。
「高校生が酔っ払い運転かよ」と、祐二は呆れて頭を掻いた。
門の外で見送って、部屋へ戻った祐二は、部屋をきれいに片付け、テレビをつけた。
適当にチャンネルをいじってみたものの、ろくな番組がなかったので、とりあえず「笑点」にした。
大喜利のコーナーで、会場の笑い声やどよめきが部屋に溢れてくる。
むろん、祐二には聞こえなかった。
帰ったばかりの喬一のことを考えていたからだ。
彼が学校へ来なくなって、もう半年近くになる。
一年生の頃から欠席がちで、学校側にすると非常に問題の多い生徒だったが、それでも三日に一度ぐらいは気まぐれのようにフラッと教室へ現れていたものだ。
それが、二年生になって担任が変わったとたん、ぱったり登校しなくなった。
喬一はもともとも学校嫌いの上、新しい担任とひどく合わなかった。
一学期の初めからこぜりあいはしょっちゅうだったが、ゴールデンウィーク明けのある午後、その対立は決定的になった。
担任は石毛義春といい、体育大出身の巨大な体躯で声の大きな教師だった。
年齢は四十になるかならないかだろう。
腕は丸太ん棒のようだし、肘を曲げると軽石みたいな堅そうな筋肉がヒクヒク動いた。
腿もスマートな女性のウエストよりずっと太く、まるで競輪選手のようだった。
胸板が厚く、見事な逆三角形の体型で、切り株のような首の上に、エラの張った「ばくだんいわ」みたいな顔が乗っかっている。
非常に厳格で、校則にやかましかった。
もちろん、服装についても例外ではない。
衣替えまではどんなに暑かろうと上着を脱ぐのを許さなかったし、詰襟は常にボタンを締め、ホックまできちんと留めておかねばならなかった。
油断していると職員室へ引きずり込まれ、うんざりするまで絞られる。
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