第2話

 祐二はビニール袋を受け取り敷居のところへ二つとも置くと、喬一の後から外へ出た。


 庭の石畳を歩いて行き、門を開けてみると、目の前に一台のオートバイが停まっている。


 ホンダのXR250だった。


 磨きたてられた赤いボディはピカピカで、新車特有の真新しい輝きに満ちている。


 祐二は目を白黒させ、オートバイと喬一を見比べた。


 喬一がおかしそうに笑い、得意げに鼻を鳴らした。


「いいバイクだな」と、祐二はやっと言った。


「バイトしたんだ。貯めるのに二年かかった」


「おまえ、中免なんて持ってたのか」


「去年の夏休みに取ったんだ。免許取るのもバイク買うのも、全部一人でやったんだぜ」


「親は反対しなかったのか」


「したさ。でも、全部自分でやったんだ。文句言われる筋合いはないね」


「おまえは勇気があるよ」と、祐二は感心して言った。「おれにはとても真似できない」




 二人はそうしてしばらくマシンに触れたり跨ったりして楽しんだ後、家の中へ入った。

 二階の祐二の部屋へ上がり、大きめの皿にポテトチップスをぶちまけ、缶ビールを開けた。


 いろんな種類があったが、喬一はクアーズを取り、祐二はバドワイザーを取った。


「見せたいってのは、あのバイクだったんだな」

 

 祐二はビールを喉へ流し込んで、


「ああ。馴らしが終わったら、おまえも乗せてやるよ」


「おれは免許がないんだ」


「そんなものクソくらえだ」


「クソくらえでも、無免許運転はまずいよ」


「じゃあ、どっか広場で乗せてやる。ならいいだろう」


「転ばないかな」


「絶対平気さ。おれがちゃんと見ててやるよ」


 二人はまたビールを飲み、ポテトチップスをかじった。


 皿の中が空っぽになると、今度はえびせんの袋を開けて移しかえ、ビールを空けた。


「ところでさ」と、祐二が思い出したように言った。「おまえが前に学校へ来たのはいつだっけ?」


「さっぱり憶えてないな」と、喬一はこともなげに吐き捨てた。「まあ、憶えてないってのは、たいしたことじゃないってことだ」


「なあ、喬一。少しは真面目に学校へ出た方がいいんじゃないか。おれも時々サボるけど、やりすぎると内申に響くぜ」


「おまえ、勉強が楽しいのか?」


「楽しくなんかないよ」


「楽しくないのに、あくせく勉強してどうするんだ。おれはゴメンだね。必要もないのによけいな我慢をするのはバカだ」

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