彼らの遺してくれたもの

令狐冲三

第1話

 先日十七歳の誕生日を迎えたばかりだというのに、織田祐二はひどく退屈していた。


 せっかくの日曜日に、朝から何もする気にならず、今も枕元でケータイが鳴るまで、分厚いオートバイ雑誌の下に顔をうずめ、うとうととまどろんでいたのだった。


 慌てて起き上がった瞬間、顔の上の雑誌が転げ落ち、急所のあたりに命中し、思わず呻き声が洩れた。


 股間の痛みををこらえて電話を取ると、相手は松本喬一だった。


「何をしてた?」


「別に何も。雑誌を読んでゴロゴロしてた」


「今から行ってもいいか。見せたいものがあるんだ」


「かまわないよ」


「家の人たちは?」


「誰もいないよ」と、祐二は答えた。


 両親も妹も、今朝早くディズニーランドへ出かけて行った。

 祐二は貴重な休日にわざわざ人ごみへ行列をつくりに行くのは嫌だったから、一人で家に残ったのだった。


「でも、いたらまずいのか?」


「ちょっとな。じゃあ、これから行くよ」


「わかった」


 祐二は通話を切り、見せたいものって何だろうと思った。

 家族の外出を確認したことから察するに、親には見せられないものらしい。

 エロ本かAVか、どうせそんなところだろうが、何にせよ家族が留守なのは幸運だった。

 ミッキーやドナルドに感謝だな、と思った。



 松本喬一は十五分ほどでやってきた。

 インターホンが鳴って玄関のドアを開けると、彼はそこにニヤニヤしながら立っていた。


「何だよ。ゴキゲンだな」


「まあな」


 喬一は両手にコンビニの袋を下げていた。


 スナック菓子やビールが入っていて、酒盛りする気らしいとわかった。


 親がいちゃまずいはずだ。


「入れよ」と、祐二はドアを大きく開けた。


「見せたいものがあるなんて、酒を飲みにきたらしいな」


「見せたいものはちゃんとあるさ。門の外に置いてあるよ。とにかくこの袋を何とかしよう。それから見せてやる」

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