オトナの短編集

這いうねるもの レベル０ガーデニング初心者の奮戦記

　ヨトウムシをご存知だろうか。ガの幼虫なので、ざっくらばんに言ってしまうと形状は芋虫。あらゆる植物の葉を食い散らかす害虫である。

　昼間は土の中や葉陰に隠れ、夜間に出て来て好き放題に葉っぱを食害する。なので夜盗虫。名前のままの狡い生態で園芸作物を屠るガーデナーさんたちの天敵なのである。

　今年の梅雨は集中豪雨こそ酷かったが雨の日自体は少なかったと記憶している。おかげで夏にかけて予定されていた我が家の庭のリフォームは、所詮は猫の額の広さと職人さんの手が速かったということもあり、梅雨明け前に完成した。

　重ねて述べるが猫の額の庭。それでも雑草との戦いにうんざりしていた筆者は生まれ変わった庭にそれはもうルンルンだった。

　楽しくって嬉しくってルンルンで花壇に花を植えたり朝顔のタネを撒いたり、小粋に月桂樹の苗木なんて植えちゃったんである。

　念のため言っとくがガーデニングに関して筆者は初心者も初心者、プランターで夏野菜を育てたことがあるが、手間いらずと言われるルッコラもベビーリーフでさえも枯らしてしまった。

　自宅の新築祝いに玄関先の花壇に植えてもらった金木犀も枯らしてしまった（ひどっ）

　唯一まともに伸びて収穫できたのは再生栽培というのを目論んでルッコラの残骸の隙間にぶっさしといた長ネギだけである。ネギすごっ。薬味の葉ネギ代わりに何度も利用できました！

　こんな筆者なので経験値はまるでゼロである。なのに経費削減のために業者を断り植栽を自分で頑張ったんである。

　花苗の購入はネットで安価のお薦めセット品を見つけポチ。樹木も吟味に吟味をかさね月桂樹とむくげに決めて安ければ良いと幼苗を買い物かごに入れてポチ。

　届くまでの間にネットで植栽のお勉強をしつつ、もう時期は遅かったけど去年子どもの朝顔から採取した種をパラパラ。

　市販品とは違い処理が施されてないので発芽率が悪いに違いないと密集気味に蒔いたのに、二三日後にはまんべんなく芽が出てびっくり。

　朝顔すごっ。生命の力ブラボー!!　ペットボトルでシャカシャカが良かったのかしら？　本題ではないのでこの辺の説明は割愛します（オイ）

　そんなこんなで苗が次々届いて予習通りにせっせと埋め埋め。いや、園芸作業がこれほど大変とは。畑仕事をしているおじいちゃんおばあちゃん、尊敬します。

　頑張った甲斐があって目論見通りに花壇が埋まり大満足。よもや我が家にこんな素敵エリアが出来上がるとは。

　一番の懸念だった樹木も無事に根付いたようで新しい芽が出てきたことに安心。

　と、ここで筆者はよせばいいのに余計な欲を抱いてしまったんである。今まで散々枯らしてしまった後のプランターや鉢がいくつかある。土も業者さんが余った分を快く置いて行ってくれたのでまだまだ何か育てられそう。

　それで夏場に育てやすい植物を検索。そこで真っ先に出てくるのがトマトやきゅうりなどの夏野菜だけど時期も遅いし手間もかかる。

　次に目に付くのがみなさん、ハーブですよ！　ハーブ！　そういや月桂樹もハーブで育てるのに手間いらずで料理に使えるってんで選んだのでした。

　雑草並みの生命力で夏には摘んでも摘んでも伸びてくるとのこと。まあああ、なんて素敵！　お庭で育てたハーブでお料理しちゃうなんてどこの奥様ですか。今まで某料理サイトを参考に調理するときにも「てやんでえ、何がお好みのハーブを少々だ。そんなもんで味が変わるか、しゃらくせえ」と買ってまで利用することはなかったです。

　こんな芋臭い筆者、何をとち狂ったかハーブを育てたくなってしまいました。

　まずは近所の百円ショップに種のくるくるを見に行く。すると、くるくるがない。入り口のすぐ脇にあったくるくるがない。捜したけどない。店員さんに訊くともう終わってしまったとのこと。はあ？　そんなことってあります？

　店を回るのも面倒なので直帰してネット頼み。

　初心者にお勧めの記事をいくつも読んで知識を仕入れてからネットショップへ。

　購入する苗をセージ、ローズマリー、タイム、そしてレモンバーム、スペアミント、そしてそして女子大好きイ・タリアーンにかかせないバジルに決定。

　買い物かごに入れてポ……これってなんか、ネットがないと何もできないぐうたら主婦日記みたいになってません？　まあ、いいか。

　そんなこんなで再び苗が届くまでの間に土をハーブが好むアルカリ性にすべく苦土石灰を混ぜ混ぜ。

　準備万端なところに苗が届いて、一晩涼しい場所に置いた後いよいよ植え付け。

　苗はどれも元気で概ね満足だったが、気がかりなのがミントの葉の虫食いが多かったこと。

　安価の苗だし虫食いくらいそりゃああるよね、とこのとき愚かな筆者は考えもしなかった。この時既に奴らとの邂逅が果たされていたということを!!　ががーん。

　前置きが長くなったのでここからはサクサク行きます。えええええ、なんていい加減。

　ハーブは放任気味なくらいが丁度いいとはいえ最初はやっぱり心配。ちょくちょく様子を見ていて気が付いた。

　虫食いがひどすぎる。被害はミントだけだったのにレモンバームもやられてる。よく見ると、バジルにも少しそんなふうな跡が。

　しかもしかも黒い点々が。これって虫の糞ではないかい？　確実に何かいるよね、これは。

　ミントやレモンバームはせいぜいお菓子に添えるか、入浴剤に使おうと思ってたんで多少は気にならないがバジルがやられたとなると話が変わる。

　ここでぐうたら探偵はやっと犯人探しに乗り出した。

　頼みのネットで「ハーブ虫食い」を検索。

　まああ、一発で出ましたね。ヨトウムシ。ハーブはトラブル知らずだと思い込んでた筆者はショッキング。樹木のカイガラムシには警戒してたのにヨトウムシなんてのはまるでノーマーク。

　夜盗虫。なにこのファンタスティックなお名前。何か物語が書けそうじゃありません？　『夜光虫』みたいな。

　なんて考えながらガーデナーさん方の記事を参考に道具を揃えて庭へ。

　やだなあ、虫なんて見たくないなあ、と思ってたら子どもが喜んで虫眼鏡で探してくれた。良い子だなあ、おい。虫眼鏡使い方が悪くて意味なかったけどな。

　いましたよ。割りばしでめくってみたら葉っぱの陰に幼虫が。尺取虫みたいな白い奴がうねうねと。

　即効葉っぱごと取って箱型に折った新聞紙にポイ。食われた跡やクモの糸のように白いわたわたがある部分に隠れていたり卵が付いてたりするようなんで、駄目そうな葉っぱはザクザク取っ払ってしまいました。

　レモンバームもバジルも丸刈り状態。奴らは柔らかい新芽を好むそうで、株から半分くらいは残ったので無事に成長しておりますよ。

　可哀想だったのはミント。じめじめしてたのもいけなかったのか上の方の葉は食われ、下の方の葉っぱは枯れかけて、見るも無残だったので復活を信じて根っこを残してバッサリ行ってしまいました。

　なんて乱暴。ええ、ぐうたら主婦ですから。ミントは今でも復活の気配がありません。うう、ごめんね。テロにまで利用される君の繁殖力を信じているよ。

　んでキレイさっぱりした翌日の朝は特に被害もなくきれいなまま。コーヒーのかすを土に混ぜると奴らは寄り付かなくなるとのことだったので、その朝使った後のコーヒー殻を乾燥させて土に混ぜ混ぜ。これって土づくりの段階でやるべきなんだろうけど気休めで。

　その後の数日間は一匹いるかいないかの感じで、その都度葉っぱを取ってたら遂には虫食いもなくなった。やったのか？　やつらに勝ったのか？　経験値ゲットでレベルアップか？　

　だがしかし。そう上手くいくわけないじゃないですか。そうっすよねえ。

　二日間ほど雨の日が続いた後、久々にチェックしてみると！　レモンバームがやられてるうう。バジルの被害がなかったのは良しとしても、くっそーーーと鉢を回して観察していた時！

　今まで倒してきたのとは違う、シラスのちっちゃいのみたいのとは違う、茶色の大きな奴が、鉢の縁に這い上がってきたのですYO！！ うきゃああああ！！！

　皆さん既にお気が付きのことと思うが筆者は虫が苦手。ぶんぶん飛んで来るのもぴょんぴょん跳ねるのもカサカサ動き回るのもうねうね動くのも全部ダメ。ひいいい、なんですか、このピンチ！

　でもでもここで「逃げる」を選んでこいつを野放しにして卵なんて産み付けられた日には被害はもっと甚大なことに！

　でもでもすぐに用意できる殺虫剤的なものなんかない。所詮レベルゼロの初心者には、上級ガーデナーさん必殺奥義のテデツカームはおろか、ハシデツカームもフミツケールも繰り出せない！！

　ど、どどどうしよう？！　と狼狽える筆者の目に飛び込んで来たのは子どもの水鉄砲。三個で百円で売ってる誰もが思い浮かべる昔ながらのあれですよ。それを手にして急いで蛇口へ。

　猫の額の庭だからさほどの距離はない。水を充填して鉢植えの前に戻る。奴は縁の折り返った内側に隠れている模様。体が少し見えている。十分に狙いを定めて発射！！　

　当たったと思ったら体をひん曲げて奴はポトリと落ちた。既に絶命したのか動かない。んなこたあ関係ない筆者は続けざまに引き金を引く。水圧で押される感じで奴の亡骸は裏の工場の敷地にポトリ。

　やった！　やりましたよ！　葬ってやりましたよ！　夜盗の頭を！　水鉄砲すごい!!　日本のおもちゃビバ！！　いや、中国製かしら？

　なお、この日の夕方には玄関前の南天の木（可哀想な金木犀に続く二代目）の前で毛虫を発見。な、ななんで毛虫？　ぞわぞわ這っておりましたよ、ふっとい黒い毛虫が！

　もちろん水鉄砲でやっつけましたよ。側溝に向かってピューですよ。水鉄砲最強！　トレビアーン。

　こうして立て続けに大物を倒した後、戦いはどうなったかって？　もちろん続いているとも。レモンバームは時々食われる程度。バジルの方はこうなったら食われる前に収穫してやるっ、と育ったそばから摘んじゃってるんで、我が家のバジルは脇芽は増えてるもののまるで成長しません。多分栽培方法としては超間違ってるけどしょうがない。しょうがないったらしょうがない。

　涼しくなるまで害虫との戦いは続くことだろう。ガーデニング初心者は今日も目を光らせる。水鉄鉄砲を構えながら。ちゃんちゃん。

　あれ？　ところでレベルアップはできてるのかしら？