拓実の話①

「疲れたー」


ゴロリと横に寝転がった。


「もう、無理です」


「そうだよな!やりすぎだよな」


「違います。そうじゃなくて、もう無理なんです」


俺は、彼女を俺が進んできた道に連れてきたんだ。


俺の名前は、日向拓実ひむかいたくみ。今年、30歳を迎えた。


彼女の名前は、法川杏美のりかわあずみ23歳だ。


杏美との出会いは、三年前だった。


よく通ってたパチンコ屋さんのコーヒーを売ってる女の子だった。


【連絡して下さい】と書いた紙をコーヒーと一緒に渡されたのがきっかけだった。


可愛い女の子だったから、俺は迷わず連絡をした。


何度も連絡を取り、デートを重ねたある日、杏美に告白された。


「ごめん」


「どうしてですか?」


「俺、そのエッチの相性が合わない人とは付き合えないんだ」


「それなら、します」


「えっ?」


「してから、決めて下さい」


そう言って、杏美と寝たんだ。


「初めてだって、言ってよ」


「ごめんなさい。ひかれると思ったから…。」


「いや、ひきはしないよ」


「それなら、よかった」


痛みと何かよくわからない感情で杏美は泣いていた。


それで、今に至る。


「じゃあ、終わろうか」


「はい」


何で、泣いてんだよ!


めんどくさいな!


「じゃあ、帰ろうか」


「今日だけは…居てください」


「あー、三年目の記念日だっけ?女ってそういうとこ拘るよな」


「ごめんなさい」


「いいよ、いいよ!三年目のセフレ記念日だろ?」


杏美は、ボロボロ泣いていた。


「そうですね」


無理やり笑った杏美を見た瞬間、俺は思い出した。


俺をこの道に連れてきた女の事を…。


「拓実君、ごめんね」


「いいんだ」


杏美とは、違うかったから気づかなかった。


だけど、俺、やってる事あの女と同じだ。


「重たい子は、嫌いだよね。だから、待って。ちゃんと重くないようにするから」


杏美は、必死で涙をとめようとしてる。


「俺を好きじゃないだろ?もう、無理すんなよ!嫌で泣いてるなら、止めなくていいから」


俺の言葉に、杏美は俺を見つめて固まっていた。


「本気で言ってるの?」


「本気だよ!杏美だってもう無理だって」


「それは、違うんだよ」


「違うって何だよ」


「違うんだよ」


「だから、何だって言ってんだよ」


「だから…」


「杏美?」


「ちょっと眠るね」


そう言って、杏美は横になった。


泣いてる。


杏美は、ボロボロ泣いてる。


あの日の俺みたいだ。


俺は、杏美をあの日の俺にしたくて、この道に連れてきちゃったのかな?


杏美に触れられなくて、背中合わせに隣に寝転んだ。


いつから、こんな酷い人間になったのかな…俺

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