麗奈の話⑤

今日、8月9日は和利君と終わった日で、私はこの日は一人になりたくなかった。


「和利君」


「君なんかつけたっけ?」


和人の目から、光が消えた。


「ごめん」


「それって、俺じゃないよね?毎年思ってたけど」


真っ暗な穴が広がって、水がたまって流れていく。


そんな風に見える。


あー、私は和人をこんなにも傷つけてしまっていたんだ。


そして、あの日から私も傷ついていたんだ。


「麗奈ちゃん」


「和人、しようか?」


それなのに、またこうやって和人を利用しようとしてる。


「したいなら、いいよ」


泣いてる和人は、私を自分の上に座らせた。


一生懸命笑顔を作ってる。


だけど、目の色がわからない。


目だけが、見えない。


「和利」


「麗奈ちゃん」


私、今どっちを呼んだんだろう?


「やっぱり、やめようか?」


「嫌だよ、していいから!やめないで」


和人は、私を引き寄せた。


私は、どこまでいっても和人を傷つけるよ。


それでも、いいの?


「麗奈ちゃん、続けて」


「じゃあ、今日は避妊しないでおこうか」


「えっ?」


「大丈夫、安全だから」


「麗奈ちゃん」


ポッカリ空いた隙間を満たしてくれたのは、和人だったんだと思う。


全てが終わって、寝転がった。


和人は、いつもはギューって抱き締めてくれるのにしてくれなかった。


「今日は、抱き締めないの?」


「気分じゃないから」


そう言って、横を向いた。


「和人」


「俺ね、麗奈ちゃんが好きだよ。だからね、もうね続けられない」


「何で?」


「好きだけじゃ、心に広がっていく空しさを埋められなくなっちゃったんだ」


「わかった」


「ごめんね」


「ううん」


わかってるんだ。


私も、和人の抱えてる気持ち


和人の傷つけ方ならわかるのに、愛し方がわからない。


遠くて、掴めない。


次の日、駅前に私と和人はいた。


「じゃあね」


「待って、和人」


「何?」


私は、お気に入りのネックレスを和人に渡した。


「何?」


「2年後、私がまだ一人だったら、8月9日にこの場所にくるから…。和人も一人だったらきて」


「それで…」


「その時は、出会いからやり直そう」


「わかった」


「じゃあ、その時に持ってきてよ。そのネックレス」


「わかった」


「じゃあね、和人」


「バイバイ、麗奈ちゃん」


私は、駅に向かう和人に手を振り続けた。


2年後なんて、きっとあっという間にやってきて!


和人の隣には、きっと可愛い彼女か奥さんがいるよ。


大丈夫だよ!


もう和人には、私はいらないから…。


私は、スマホを取り出した。


さよなら、和人と和利


連絡先を削除した。


だって、もう二度と選ばれないと思うから…。

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