亮の話⑤
「もう、いれていいよ」
「痛かったらいえよ」
「大丈夫だから」
俺は、葉月の中に入った。
葉月は、俺を確かめるように動いた。
俺は、葉月の中で果てた。
「葉月」
「亮」
葉月は、俺の胸に顔をくっつけた。
胸を涙が濡らしてくのを感じる。
こんなにも、俺は葉月を傷つけていた。
俺は、葉月を傷つけていく存在でしかないんだ。
「亮と一緒に居たかった。だけどね、愛してるだけじゃもう。心が無理なんだ」
「そうか…」
取り返しがつかない程に、葉月を傷つけたのがわかった。
「嫌いとか思ってないよ。本当は一緒に居たかったから…。
ちゃんとした体なら一緒にいれたね」
「そんな風に言うなよ」
誰が、子供がいるのが幸せだって言ったんだよ。
誰が、子供がいたら完璧だって言ったんだよ。
全部、昔の俺か…。
それから、3ヶ月俺達は夫婦生活を続けた。
「出しに行こうか?」
「うん」
一緒に、離婚届を出した。
家に戻って、また、荷造りを再開した。
「あのさ、葉月」
俺は、結婚指輪を差し出した。
「何?」
「45歳の時にさ」
「うん」
「葉月も俺も、結婚も恋人もいなくてお互い一人だったら…。」
「うん」
「また、結婚してくれないか?」
葉月は、ニコッと笑った。
「考えとくよ」
そう言って、片付けを始めた。
「じゃあ、その時まで預かっててよ!葉月が…」
俺は、指輪を渡した。
「わかった」
いつか、子供を諦められる年齢になったら、葉月と一緒にまた住めるのかな?
浮気をしたわけでもないし、愛がなくなったわけでもない。
なのに、子供がいないだけでこんなにお互いに心を磨り減らすなんて思わなかった。
何で、傷つけてしまうんだろうか?
何で、俺は葉月を愛する方法よりも、傷つける方法を上手に覚えたのだろうか…。
結婚したら、子供がいるのが当たり前とか、治療したら出来るとか、そんな常識に振り回されたんだ。
葉月じゃなくて、俺が…。
葉月は、最初から出来なくてもいいのかって聞いてくれていたのに…。
「亮」
「うん?」
「これ、亮のだったよ」
そう言って、葉月は俺にハンカチを渡してきた。
「葉月」
「何?」
「今まで、本当にごめんな」
「気にしてないよ」
「葉月の体の事ばっかり、悪く言ってごめんな」
「何、急に…」
「生理、重いんだから無理するなよ」
「お父さんみたいだよ」
「葉月は、お腹弱いんだからちゃんと布団かぶって寝ろよ」
「お母さんみたいだよ」
「両方だよ」
俺は、そう言って笑った。
「亮も、野菜ちゃんと食べないと駄目だよ!それと、女の子と付き合うならすぐにいれたら駄目だよ!痛いんだからね!普段は、優しいのにそっちは自分勝手すぎるよ」
「そうだな」
「ちゃんと優しくしてあげなよ」
「わかってるよ。葉月も、キツイ言い方したら嫌われるぞ」
「わかってる」
この先の葉月の幸せを俺は、願ってるよ。
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