亮の話④
俺は、寝室の扉を開けた。
「葉月」
こっちを向かせた葉月は、薄明かりでもわかる程に泣いていた。
何で、泣いてんの…?
「明日、仕事だから」
「葉月、しようか?」
「私としても妊娠しないよ」
「だったら、生で出来るだろ?」
「亮…」
葉月の目からは、涙が、どんどん流れてきてる。
葉月を傷つける方法を俺は知ってる。
「しようよ。葉月、俺達まだ夫婦なんだから…」
「妊娠しないけどいいの?」
「わからないだろ?」
「卵子が腐ってるのにいいの?」
「正常かもしれないだろ?」
「卵子が老化してるのにいいの?」
「わかんないだろ、葉月」
「排卵してなくて、無駄遣いの体だけどいいの?」
葉月の目から涙が流れていく。
「葉月、わかんないだろ」
葉月は、俺の頬に手を当てた。
「いいよ、そうしたいなら」
そう言った瞬間、瞳の色が消えた。
真っ黒になって、葉月の目がなくなった。
まるで、眼球をくりぬかれたように真っ暗な穴が広がってる。
その黒から滲み出るように水が湧き出ている。
「亮、どうしたの?」
葉月は、俺の頬をさらになでる。
俺は、葉月をこんなにも追い詰めていたんだ。
そして、俺自身も知らない間にこんなにも追い詰められていたんだ。
「葉月」
「いいよ、して」
葉月は、そう言って俺のパジャマのボタンをはずしてく。
俺は、葉月を自分の上に乗せる。
葉月の涙が、ポタポタと俺の胸に当たってる。
俺も葉月のパジャマのボタンを外す。
「別れるまで、ずっと抱かせろよ」
「いいよ」
「葉月」
新しい人を見つけて幸せになってくれって言えなかった。
「何?」
「やめようか?」
「ううん。亮を覚えておきたいから」
こんは俺を葉月は、覚えておきたいのか…。
「どうしてだ?」
「愛してたからよ」
「葉月、俺、ごめん」
やっと、葉月に謝れる。
「謝らないでよ」
「本当ごめんな」
葉月の目から、大量に涙が溢れてる。
「亮は、私を愛してくれてた?」
「愛してたよ」
「本当に?」
「本当だよ」
葉月は、ニコって笑った。
でも、目には一ミリも光が宿ってなくて…。
「それなら、よかった」
葉月は、そう言った。
葉月のズボンに手をいれる。
「もう、いれていいよ」
「まだ、駄目だよ」
俺は、早く終わりたくて葉月に酷いやり方を散々してきた。
だって、長くしようが、短くしようが、葉月は妊娠しないんだから…。
でも、きっとそれが余計に葉月を不安にさせて傷つけたんだと思う。
痛いよって言われてもやめなかった。
なのに、別れようって言われたらこんなに優しく丁寧にしようとして、今さらだよな。
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