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琴葉には毎日きちんと数人の客が付いた。外の椅子に座っていれば、入れ食いとまではいかなくても、しばらくしたら客が付く。なんとなく美人のような雰囲気がある外見が、街灯のうす暗闇の下では非常に美しく見えるせいかもしれなかった。
蝉などは、あの飄々とした調子で、目が見えねぇ女が好きって男も多いのねえ、なんて嘯いていた。
マリは、相変わらず時々やって来ては一日借りきりにしてくれる日高をはじめ、次々とやって来ては身体の上を通り過ぎていく男たちをぼんやり見送っていた。
「琴葉はどうだ。上手くやってるか。」
ぽつんと、宗太が聞いた。冷たく細い雨が降る午後だった。
宗太の膝に身体を預け、丸くなっていたマリは、本人に聞いたら、とだけ返した。宗太は自分が売った女たちを定期的にメンテナンスしに来はするが、琴葉の部屋には行っていない。それをマリは既に察していた。
宗太の武骨な手が、マリの背中や髪をくしゃくしゃと撫でる。猫の子でも構うような仕草だった。その手以外宗太はまるで動かず、マリも同様だった。
その沈黙に耐えられなくなって、マリは渋々口を開いた。
「琴葉にはちゃんと客、ついてるよ。でもそんなこと、」
蝉に訊けば分かるじゃない。
そう言いかけて、唇が凍った。
客が付いているかいないか、そんなことをこの男は知りたがっているのではない。この生粋の女衒が、マリをこの長屋に売り飛ばした男が、知りたがっているのはもっと違うことだ。
例えばそう、日常生活を琴葉がどう送っているかだったり、琴葉が他の女の子たちともめるようなことはないかだったり、琴葉がなにか不自由をしていしていないかを、この男は知りたいのだ。
ずるい、と、マリは咄嗟に思った。
ずるい。どうして琴葉だけ。
「……知らないよ。」
言葉は勝手に喉から転げ落ちた。
琴葉がなにを考えて、どんなふうにこの長屋での生活を送っているのかなんて、知らない。知ってたとしても、絶対に話さない、話したくなんかない。
「……マリ。」
宗太はただマリの名を呼んだ。
大した抑揚や感情の色のある声ではなかった。ただ、名前を呼んだだけ。
それでもマリは胸が握りつぶされたような心持がして、ぎゅっと男の膝先にしがみついた。
思い通りにしようとしないで。ただ名前を呼ぶだけで、その一言だけで、私を思い通りにできるとでも思ってるの。
内心では反発しているのに、身体はどうしても居心地のいい宗太の膝を離れられない。
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