5
夜がすっかり更け、読書にひと段落がついた後、日高は申し訳程度にマリを抱いた。そうするのが礼儀だから、とでも言いたげな仕草で、やんわりと。
多分マリの肉がもっと熟していたら、その続きをせがんだだろう。しかし、まだまだマリの肉は青くて硬かった。
昨日教わった通りに目を閉じてじっとしていると、耳のすぐ側で日高が笑った。マリも、少しだけ笑った。
もう、昨日ほどの痛みはなかった。多分その内、やはり日高の言ったように、どのように振る舞うべきか自然に分かっても来るのだろう。
「眠ろう。」
一通りの行為がすむと、日高がそう言って、乱れた布団を丁寧に敷き直した。本を大切に枕元に置いたマリは、おとなしく日高の傍らに身を寄せ布団をかぶった。
そんなマリを見て、日高はやわらかく微笑んでいた。マリがこれまでの人生で、向けられたことのない優しい視線だった。
「そういえば宗太の噂を聞いたよ。」
マリの肩まできちんと毛布を引き上げながら、思い出したように日高が口を切った。
「噂?」
マリはふらりと首を傾げる。いくらでも噂のありそうな男では、あったけれど。
「女の子を手元に置いているって噂。売りもしないで、どこかに部屋を借りて住まわせてるって話だ。」
うそ、と、マリは呟いた。
そんなはずもない。あんな、生まれついての女衒が。
それ以上、日高はなにも言わなかった。呼吸が深くなったから、きっと眠ったのだろう。
もう一度マリは、うそ、と呟いた。
スラム街で拾ったマリを、その日のうちにこの売春宿に売った男。それが手元に女を置いている?
馬鹿げている。まさか、あの男が。
マリはきつく目を閉じた。自分の胸がどうしてこんなにざわついているのか、知りたくなどなかった。
極彩色の腕に抱かれて眠ったのは、ほんの二日前のこと。そのぬくもりはまだマリの肌に残っている。
静かに手を伸ばして、日高に触れた。
「うん?」
眠たげな日高が、マリを見て薄く微笑する。
黙ったまま、マリは彼の手を自分の腹の前で組ませた。日高はされるがままになっていた。まだ半分眠っているのだろう。
こうやって眠れば、相手が誰だって背中は温かい。誰のものであろうと、体温は体温だ、せいぜいほんの数度の違いしかない。
当たり前だ。そうに決まっている。
マリは口の中でそう呟いて、なんとか眠ろうと自分の鼓動を数えた。
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