しかしマリの不安とは裏腹に、蝉は満足そうに目を細めた。

 それはマリの体つきに満足したと言うよりは、マリの従順さへの満足だったのだけれど、当の本人にはそんなことは分からない。

とにかく自分の身体には目に見える欠陥はないのだ、と、内心安堵の息をついた。

 「じゃあ、ここに寝て。」

 蝉はマリを布団に寝かせると、自分は彼女の傍らに胡坐をかいて座りこんだ。

 「脚、開いて。」

 今度はさすがのマリにも羞恥があった。それでも逆らわなかったのは、バカな女だからだ。

 マリの頬には涙が伝ったが、蝉はどうでもよさそうにもう一度、脚を開くように命じた。

 そろそろと、マリの細く青白い脚が開かれる。すると蝉は、容赦なく中指をその奥に突っ込んだ。

 「あ!」

 マリは悲鳴のような声をあげ、蝉の指から逃れようと身をよじった。

 痛みはあったが、それよりも自分がすっかり毛のむしられた猫にでもなったような、心許なさが彼女の身体を動かしていた。

 しかし蝉はそれには構わず、彼女の抵抗を開いた左手で封じながら、マリの体内の温度でも確かめるようにぐりぐりと指を使った。そしてすぐに、人差し指も中に差し入れられる。

 「そうね、使い物になりそうね。」

 しばらくマリの体内の具合を確かめた後、そう言いながら蝉はマリの中から指を引き抜いた。

 「ちゃんと濡れてる。……最初はイタイだけだろうけど、数でも数えてやり過ごしな。その内ましになるからさ。」

 さらさらと水っぽいマリの体液で濡れた指を目の高さに掲げながら、蝉は軽く肩をすくめ、マリに懐紙の入った紙入れを寄越した。

 「商売道具は常に清潔にしておくこと。」

 紙入れは、男物のように渋い緑色をしていた。

 はい、と短く頷き、マリは懐紙を一枚引き抜き、自分の秘所を拭った。商売道具。なんだかひどく、惨めな気分だった。

 「じゃ、しばらくここで休んでなよ。もう今晩から客取ってもらうから、そのつもりで。まぁ処女だしね、外には立たせないし、こっちで相応の客付けるから、気楽にしてなよ。」

 蝉の飄々とした態度で言われると、どんな内容でもそう酷いことにも深刻なことにも聞こえない。

 はい、と、マリは短く返事をした。

 明後日、宗太がここに来る。それだけでもう逃げだす意思をなくしているということ。

 今日の夜から身体を売ることよりも、そちらの方がマリにとっては大問題だった。

 「バカな女。」

 1人きりの四畳半で、布団の上に座り込んだまま、マリはそう呟いた。

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