10.社畜と奴隷8
クマに全裸を咎められたため、地面に布団代わりに敷かれていたぼろ布を身に纏った。先程の獣人の女の子から貰った布切れは腰に巻いておいた。一応、ないよりはましだろう。
とりあえず全裸でなくなったが、何も分からない今の状況的には気持ちは全裸である。先程、クマが言っていた最底辺も気になるところだし質問をしてみる。
「なあ、さっき最底辺がどうとか言ってけど」
「ああ、ここは
なるほど。ここは黒色バーコード所属の担当エリアなのだろう。そうなると赤、青、白にもそれぞれの担当があるはずだ。なぜ担当かって? それは見るからにここで何らかの工事をしてるっぽいからだ。恐らく、ここは土捨て場を兼ねている。先程からトンネルズリのようなものが人力で運ばれている。
幅2mはあるでかい桶のようなものにズリが山盛りに積まれており、それを頭上で軽々担いでいるのは先程の獣人の女の子だ。
あまりに衝撃的だったため、二度見をしてしまった。そして見なかったことにした。あれ、とてもじゃないけど持てない重さなんだが……。他の獣人の皆様も同じように運んでいる。
やっぱり獣人だから身体能力が高いんですかね? などと考察をしていると、ふと、人間がいないことに気が付いた。
「なあ、この色って何を基準に分けてるんだ? なんとなくここには人間がいないみたいだから獣人専用なのか?」
「……ああ、ここには獣人しかいねえな。あんた以外は」
「……なんで俺はここに配属されたんだ? 一応、人間なんだけど」
地球基準では人間だった。人権もなければ尊厳もない社畜だったがちゃんと人間だ。生産性は抜群に高かった自信もある。労働賃金が労働内容に見合ってないからな。無から有を生み出していた俺は、さながら現代の錬金術師である。そう考えるとこの魔法があるとんでも世界でも生きている気がした。いや、やっぱり無理。
「なんであんたがここにいるのか俺が聞きてえよ。まあだが、ここに配属されたみたいだし、とにかく仕事はしてもらうぞ。黄色でもきちんと働いてくれよな」
「働くのはいいんだが……、その、色の違いってどうなってんの? もしかしてこの黄色ってここにはいないのか?」
「いない。さっきも言ったが、基本的に城で働いてる奴隷だけだな」
「……ほーん」
「……知らないだろうから、一応、簡単に教えといてやるが、白色は魔法が使える上級奴隷、青色は一般奴隷、赤色は犯罪者の下級奴隷だ。ちゃんと覚えとけ」
そうだったのか、俺、魔法使えないからな。大学時代にちゃんと魔法使いルートは回避した。
普通なら、まあ俺は一応人間だし、青色の一般奴隷ってとこだったんだろうが、なぜかホタルに王族専用奴隷にされていた。きっと黄色人種が珍しかったからだろう。さっきの集会にも俺しかいなかったし、興味を持つ気持ちは分からないでもない。
「オッケー、よし分かった。理解した! で、ここって犯罪者の下級奴隷以下って認識でいいのか?」
先程の話から最底辺呼ばわりしているのだ。間違いなくここは下級奴隷以下なのだと思う。
「ああ、その通りだ。ここは犯罪者以下の"物"扱いだ。まだ人間扱いされている赤色の方が随分ましだと思うぜ?」
そう言うクマの笑顔は、恐ろしく凶悪だった。本当に表情豊かなクマである。
「ははっ! それなら大丈夫だ。俺はその扱いに慣れてるからな! 心配すんな!」
「お、おう。恐ろしく前向きな奴だな……。普通は赤色の奴らでも絶望してるのに、お前、おかしな奴だな」
「おう! よく言われてたな! はっはっはっ!!」
俺はクマに負けないくらい豊かな表情で笑った。
「よろしくな、クマさん!」
「お、おう。……しかし、やっぱり黄色は特別なんだな」
「ん? 何がだ?」
「奴隷同士は番号呼びか、あんたとか、お前とか、まあそういった呼び方しかできないんだ。普通はな」
「ほーん。じゃあ黄色だと名前で呼べるのか。でも他の奴隷は自ら名乗ることもできないんだろ?」
「ああ、そうだ。……そうなんだが、あんたも名乗れなかったよな?」
「確かに。不思議だな」
不思議だ。俺には魔法のことは分からないが、何となく理屈がおかしいように感じる。
「そういえば、クマさんは魔法使えないのか?」
「使えないな。俺だけじゃなくて獣人は魔法を使えない。というか俺の名前はクマじゃないんだが」
「獣人って魔法が使えないのか。名前は奴隷になった時点でなくなったみたいなもんだろ? だから今日からクマさんでいいじゃねえか。ほら、ニックネームだよ。可愛いだろ?」
このクマは笑わなければ可愛いのだ。
「そうかい、ありがとよ」
ふっと笑ったクマさんの顔はやっぱり凶悪だった。
「さあ、大体状況は理解できたか? できたならそろそろ仕事に移らねえとな。監視している守衛にどやされちまう」
あの監視している人って守衛だったのか。微動だにしないからてっきり置物かと思ったぞ。……よく見たらヘンリーじゃないか。あのムカつくイケメンだったのか。確かにあいつは容赦ない。怒られるのも嫌なので仕事の説明を受けようとクマさんに続きを促す。
「了解。で、仕事って何するんだ? まさか俺もあいつらみたいにあれを運ぶのか?」
先程から運ばれているトンネルズリを指さしクマさんに問いかける。
「おう。そうだ。お前にもあれを運んでもらう。黄色なんだ魔法くらい使えるんだろ? 期待してるぜ!」
俺の背中をたたき、クマさんは豪快に笑った。
いや、魔法なんて使えない。ごめんなクマさん。
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