13.嘘だと言ってくれ姉さん

「──其方は、私の娘ジルアと、一度でも淫らな行為をしたことはあるか」


「……えっ」

「…………はぁっ!?」


何!? 何言ってんのこの人!?


「答えろ冒険者レイル! 返答によって私はこの拳でお前を殴らねばならなくなる!」

「ちょ、ちょっと待って! 何言ってんだあんた!?」

「黙りなさいジルア! 私は今真剣なのだ! 娘の貞操が掛かっているというのに冷静になどなれるかっ!!」

「ててて貞操とか言うな!? というかまだそんなことしてるわけないだろっ!」

「まだ!? まだと言ったか!? ジルア! お前将来的にはこの男と致したいと、そういっているのか!!」

「致すとか言うなぁっ!!!」


本当に何言ってんだこのおっさん!

こんな公衆の面前で何を口走ってんだよ!!


「王よ、落ち着いてください。話が飛びすぎています」

「ね、姉さん……!」


よかった、姉さんはまとも──、


「まずはジルとレイル君の関係を問いただすところからでしょう」

「姉さん……!」


姉さん壊れてたんだった……!


「レイル君。あなたが昨日……いえ、もう一昨日かしら。ジルが女の子と知ってさぞあなたは驚いたでしょう」

「え。えっと、そうですね……。とっても驚きました」

「……姉さん? ちょっと待って? 何で正確な日時まで分かってるの?」


私が指輪で正体を隠していたのは周知の事実だとしても、何でその重大イベントまで知ってるの……?

……もしかして盗聴魔術バグ仕掛けてた……?

いや、いや。

そんなの仕掛けてたら流石に私なら気付くはず。


「何でって、あなた達は監視されていたって言われてたでしょう。あれ、言わなかったかしら?」

「いや、監視されてたのは分かったけど、その、なんでそんな詳細な事まで知ってるんだよ……!? その事を言ったのは宿の部屋の中だぞ? それを、どうやって──……」

「あぁ、もちろん盗聴魔術バグよ。大変申し訳ないけれど、あなた達の会話は全部筒抜けだったのよ、ジル」

「は……」


会話、全部、筒抜け……?

え。

……え?


「い、いや、嘘でしょ姉さん……流石にそんなの仕掛けられてたら気付くってば……!」

「あなたの魔術の才が素晴らしいのは分かってるけれど、気付かないのも無理はないわ」


嘘、嘘だろ……?

絶対嘘だ。そんな低級魔術なんて掛けられてたら感覚で分かるもん。

だから、姉さんのちょっとした冗談か何かだ。絶対そう。

だってそうじゃなかったら私の話した内容全部聞かれてたってことになっちゃう。

そんなの頭おかしくなっちゃうから絶対嘘。

嘘。

嘘嘘嘘嘘嘘!

嘘ったら嘘だっ!


「ストラスの言っていることは全て本当だ。……粗忽者の娘よ。お前が城から抜け出す際に持ち出していったものがあるだろう」

「……え?」


持ち出していったものって、…………まさか。


「黒淵龍様の龍器、韜晦の指輪だ。アプレザル婆が前もって龍器に盗聴魔術バグを仕掛けておいたのだ」

「こいつのせいかーーー!!!」

「ちょおおおおおっ!!! 姫さんこれ龍器っ!? これ国に伝わる龍器だから!」


指輪を引っこ抜いて地面に叩きつけてやった。

ワンバウンスしたそれを見事な反射神経でスヴェン義兄さんがキャッチしたけど、そんなことどうでもよかった。


「あぁあああぁぁぁあーーー!!! うわああぁぁぁぁぁあああああーーーーーー!!!!」

「お、落ち着けジェーン!!」

「これが落ち着いてられるかぁッ!!! 私たちの会話全部聞かれてたんだぞ!!!??」

「そ、それはちょっと恥ずかしいけど……」

「ちょっとで済むかぁっ!!!」


駆け寄ってきたレイルに宥められるも、収まるわけない……!

大体、気付くわけないだろこんなの!!

指輪の魔力が膨大すぎて、魔術仕掛けてあったなんて気付くわけ……!!

っていうかこの指輪のこと私に教えたの婆やだろ!

婆やが全ての元凶じゃないか!!


「落ち着いてジル! 聞いちゃいけない事はちゃあんと私と婆やがカットしておいたから!」

「は……、え……カットってどこからどこまで……?」


「そうね……少なくとも、一昨日のやきもちを焼いて自分という女を知ってほしくなったジルの可愛いところと、昨日の迷宮での告白大会は全編ノーカットよ!!」

「殺せーーー!!! 殺してくれーーー!!!!」


一番カットして欲しかったところがカットされてないじゃんかあああぁぁぁっ!!

そこカットしてなかったらもうほぼ全部だろうがぁあ!!!


「特に昨日のはバッチリの告白だったわよジル! 皆聞いた瞬間にガッツポーズしちゃったんだから!!」

「ああぁああぁぁっ!! うわああぁぁぁ!!!」

「ジェーン落ち着け! 大丈夫だそのくらい! その、なんだ! 俺は昨日の、俺の笑顔が好きって言ってくれて、嬉しかったぞ!」

「今そんな事言うなぁバカあぁぁっ!!!」

「まぁっジル! あなたこんな公衆の面前で抱き着いちゃうなんて……ちょっと解釈違いよ? 一旦離れてちゃんと愛の告白をしてからになさい!」

「こらっ! 父親の前で堂々と抱き着くんじゃない! まだお父さんは交際を許しておらんぞ!!」

「う゛う゛う゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!!!」

「泣いちまった!? ちょっと待って、これ以上ジェーンを虐めないであげてくれ!」


もう、わけ分かんない。

なんだこれ。悪夢か?

お願いだから、夢なら覚めてくれ……!

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