第47話 クリスマス

きっかけはなんて事ない一言だった。


「サンタさんも良いわね」


先日のガルドの医者発言に触発されて、時期的にリナリアのサンタさん姿を良いと思って口に出てしまった。


思わず出たそんな一言だったけど、場所が悪かった。


「ねえさま。さんたさんってなに?」


膝の上のフリートに聞かれていたのだ。


「えっとそうね……今くらいの時期に良い子の元にプレゼントを運んできてくれる人の事よ」

「ぷれぜんと!ぼくももらえる?」


キラキラした目で聞かれてNOと言える鬼畜なお姉ちゃんじゃない私であった。


そんな訳で、クリスマスの概念とサンタさんの概念を急遽お父様やお母様とも共有。


転生レオンにも念の為にと思ったけど、奴は私よりも先を行っていた。


「クリスマスにサンタ?毎年弟にしてるが?」


こやつは腹黒ブラコン。それくらいしてるわよね。


「貴族連中にも広めつつはあったが、お前は知らなかったのか」


しかもめちゃくちゃ煽ってくる。


「興味と必要が無い情報は捨ててますし」

「だろうな。まあ、フリートにしてやるのは良い事だ」


珍しく悪意が少ない言葉だった。


弟関連だと腹黒が薄まるのね。まあ、ブラコンは増してるけど。


「いいものだぞ。クリスマス付近になるとソワソワして良いことをしようとする弟の姿。毎日枕元をチェックして、欲しいものリストをこっそり書く弟の姿。更には朝起きてプレゼントを見て大はしゃぎして、俺の元に駆けつけてくる弟の姿も」


……悔しいけど、フリートがやったらどれも可愛く感じる。


「やるならネタバレまでは責任をもてよ。まあ、俺はサンタなんて信じたことは欠片もないからネタバレなんてされる事もなかったが」

「私もありませんでしたね」


前世のお母さんはしてくれなかったし、する余裕もなかった。


今世も女子高生から精神年齢が始まってたし考えたこともなかったのよね。


精神は肉体に引っ張られてるのは間違いないのに、そういう発想がない時点で我ながら貧困な発想力だけど、思い出しちゃったものは仕方ない。





「ねえさま、これはここ?」

「ええ、そこでいいわよ」

「カトレア様、こちらの装飾はどちらにしましょう?」

「そうね。少し上の方がいかしら」


折角なので、フリートとリナリアとクリスマスツリーの飾り付けをする。


クリスマスツリーなんて一回も作ったことはなかったけど、形にしてみると結構それっぽくなるものね。


確か、クリスマスツリーに使われてる木はモミの木だったかしら?


うる覚えだけど、それっぽいのがあったので魔法でちょっと手入れしてツリーの装飾を用意してみたけど、飾ってみると結構いいわね。


「最後の星は……フリートに任せましょうか」

「踏み台で届くでしょうか?」

「うーん、私が肩車すればいけるんじゃないかしら」


そう言ってフリートを肩車してみる。


うっ……思ったよりも肩車ってキツいわね。


これでもそこそこ運動量はある方だと思ってたけど、日に日に大きくなる弟を肩車するのも大変なんてもう少し頑張るべきかしら?


「フリート、届く?」

「だいじょうぶです!」


頭の上なのでフリートが本当に乗せられたかは分からないけど、リナリアに視線を向けると届いたと視線で伝わってくる。


「じゃあ、降ろすわね」

「もうすこし、だめ?」

「……少しだけならいいわよ」


足がほんのちょっとガクガクしてる気もするけど、可愛い弟のためにお姉ちゃんとして少しだけ頑張る。


でも、流石にもう少し大きくなったら肩車は無理ね。


私くらいの年頃になったら逆にしてもらう側になるかしら?いえ、流石にそれはないわね。


でも、フリートもきっと私よりも背が高くなるでしょうし、こうして甘えてくれるうちにお姉ちゃんしてあげらるうちにしてあげるべきなのかもしれないわね。




「じゃあ、付けるわよ」

「お願いします」

「わくわく」


飾り付けも終わり、休憩を挟んでから魔道具のスイッチをオンにする。


すると、飾り付けたツリーがライトアップして点滅したりしはじめた。


「わぁ……とっても綺麗ですね」

「そうね」

「ぴかぴかしてるー」


光るツリーに目を輝かせて跳ねるフリートを横目に、リナリアと一緒にツリーを眺める。


「暗くしたら更には凄いんだけど……まあ、それは夜になってからにしましょうか」

「そうですね」

「ねえさま、ねえさま。おとうさまとおかあさまにもみせたい」

「そうね。後で呼んできてくれるかしら?あ、でもお母様は新しい家族が生まれる前だから無理させないようにゆっくりね」

「わかりました!」


そう言ってぴゅーんと部屋を出ていくフリート。


本当に分かってるかは不明だけど、お母様の元にはライナさんも居るし、フリートの世話役のメイドさんも何だかんだ有能だから大丈夫よね。


「ふふ。フリート様は元気ですね」

「ああして喜んでくれると色々頑張ってる甲斐があるわね」


少し座って休憩にすると、リナリアがお茶を入れてくれる。


「ありがとう」

「いえ。お疲れ様です」


少ない言葉でも色々伝わってくるこの感じ……いいわね。


「それにしても、フリートもすっかり大きくなってきたわね。この前生まれたばかりだと思ってたのに。子供の成長は早いわね」

「そうですね。それにフリート様を見てると色々思い出します」

「……そうね」


フリートが生まれる前だったわね。


リナリアに告白したのは。


あれからリナリアとの関係はますます深くなってる気がするけど、私はもっともっとリナリアのことを知りたい。


ふと、クリスマスに付随するイベントを思い出す。


それは恋人達の祭典。


クリスマスイブのデートである。


「ねぇ、リナリア。デートをしましょうか」

「デートですか?カトレア様からのお誘いなら勿論喜んで」


即答してくれる天使リナリアたん。


本当に素直で良い子よね。


「知ってる?クリスマスのプレゼントを貰う前日の日はね、クリスマスイブって言うのよ。その日は恋人達がデートをするともっとラブラブになれるのよ」

「そ、そうなんですか?それは是非行かないとですね」


少し照れつつも嬉しそうに微笑むリナリア。


少し誇張や私の願望が混じった説明だけど問題なしよね。


クリスマスイブは恋人達の時間だしね。





クリスマスイブのデートは決まった。


プランはどうしましょうか。


いつも通りのデートじゃ少し味気ないわね。


「主君、何か考え事ですか?」

「あら、そう見える?」

「嬢ちゃんはあからさまに何か考えてるのは分かりやすいよな」

「そうかしら?」


アカネとガルドの二人と領地の冬山で久しぶりの狩りをしている時だったので、二人に気づかれてしまったようだ。


「クリスマスの件は話したわよね」

「あー、良い子にプレゼントを持ってくるサンタっておっさんの話だろ?」

「不審者は捕えないとですけど、親がやるのなら問題ないのでは?」

「いえ、クリスマス自体は問題ないのよ。その前のことで少しね」


クリスマスイブのデートという概念を二人に軽く説明して見る。


「ほう、それはいいな。嫁さんが落ち着いたら誘ってみるか」

「拙者も時間があれば誘いたいですが……繁忙期で忙しそうなので誘えるか分かりませんね」


ガルドは奥さんが妊娠してるし、この時期無理は厳禁よね。


落ち着いたら誘うのがベターよね。


アカネの方はお相手は喫茶店の店員さんだったわね。


確かにこの時期は混むわよね。


まあ、誘えるかどうかから問題そうだけど、外堀を確実に埋めてるみたいだし後はアカネの勇気したいでしょうね。


「んで?要するに嬢ちゃんはそのクリスマスイブ?とやらのデートのプランにでも迷ってるのか?」

「そんな所よ」

「普段通りで良いのでは?」

「そうなんでしょうけど、最初は何か思い出に残るものを考えておきたいのよね」


サプライズとまではいかなくても、リナリアといいムードで思い出に残るクリスマスイブにしたいもの。


「確かに素敵な日になると良いですね」

「んー、そういうもんか?好きなやつとの時間なら何だって良いもんだろ?」

「それは大前提ですよ、ガルド殿」

「そうね。その上で更にリナリアをキュンとさせたいのよ」


アカネは分かってくれてるのか頷くけど、ガルドは「そういうもんなんだな」と為になったという感じのリアクション。


この辺男女の違いというよりは、ガルドや私たちの考え方の違いのような気もするけど、それはそれね。


「というか、今さらキュンとさせる必要あるか?嬢ちゃんの嫁さんは嬢ちゃんと居る時大抵目がハートマークになってる気がするが」

「ガルド殿。それは当たり前のことですよ。なんたって主君なんですから」

「それもそうか」


一体私を何だと思ってるのか、後日じっくり聞く必要がある気はするけど、確かにリナリアと居るとどうしても私が我慢できなくてイチャイチャラブラブモードに入っちゃうのは仕方ないこと。


愛よね。


「そういや。クリスマスツリーっての嬢ちゃんの勧めでやってみたがありゃいいな。ガキが出来たら喜びそうだ。嫁さんも綺麗だって楽しんでたし」

「あれは良いですよね。拙者は自宅ではやってないですが行きつけの喫茶店では話したらやってくれたみたいで中々良かったです」

「ほぅ。そこまで親しくなってたか」

「アカネも手が早いわね」

「うっ、余計な発言をしてしまいました……でも、まだ向こうは友達みたいな感じなのでまだまだですね」


アカネ的にはお相手よりもお相手のお姉さんとの方が交流が増えてるようだ。


色々とお相手の情報も貰ってるらしい。


「近々、ご両親にご挨拶できそうなんですよね」

「外堀を埋めまくってるわね」

「アカネの嬢ちゃんは恋愛上手だなぁ」

「うぅ……お二人も分かってて言ってますね?」

「まあな」

「それはそうよ」


聞くところによるとアカネのお相手はかなり天然気質があるのと、自己評価が少し低めでアカネの分かりやすい好意にも鈍めのようだ。


「やはり主君のようにもっと好き好きアピールするべきでしょうか?」

「嬢ちゃんのはやり過ぎたから参考にはならんだろ」

「いえ、それくらいしないと落とせない気がするんですよね。ていうか、気づかれないと思うんです」

「男ってのは鈍感だからな。まあ、俺も嫁さんがああじゃなかったらこうなってなかったしな」


ガルドの惚気はなんていうか凄くナチュラルよね。


そういう普通の感じで私もリナリアとのことを惚気たいものだ。


いえ、でもリナリアのことを他の人にペラペラ話したくない気持ちもあるのよね。


全部全部私が独り占めしたいってそんな気持ち。


我儘よね。でも私はそういう女だから仕方ないわね。


「んで?参考になったか?」

「ええ。凄く」

「ならもう少し狩ってから帰るとするか。この時期は活発なのが少ないがその分質が高いからな」

「助かるわ、ありがとう。ガルド、アカネ」

「気にすんなって」

「ですね。もっと頼ってくれてもいいくらいですよ」


この二人が居るおかげで色々助かってるし今でも十分助けられてるけど、二人的にはもっと頼っても良いとさえ思ってくれてるのね。


「必要ならそうさせて貰うわ」

「素直なのか素直じゃねぇのか分からない返事だよな」

「主君らしいですね」


そうかしら?


まあ、でも参考にはなったわよ。


フリートのプレゼントと並行して色々やってみましょう。


「それで二人にも少し手伝って欲しいのだけど」

「おう、できる事ならいいぞ」

「拙者の方も勿論です」

「頼りにしてるわよ」


アカネには他にも頼み事をしてるけど、この件はそんなに負担にもならないでしょうし、領地の屋敷を任せてるロベルトにも相談しておきましょうか。


それと、転生レオンをゆす……ごほん。日頃の感謝の気持ちとして少し色々手配てもらうのも悪くないわね。


ゆする?そんな言葉はこれっぽっちも出てないわよ。


お願いするだけよ。私は元婚約者だし協力者としてそれなりに頑張ってるからそのお礼でもう少し融通してもいいわよね?と聞くだけよ。


まあ、それはさておき、フリートの欲しいプレゼントを後日調査した結果、『姉様みたいな人形』という答えと『チョコクロワッサンをいっぱい食べたい』というなんともらしい答えを貰ったんだけどどっちを優先するべきかしら?


私の人形はリナリアにこそ渡したいけど、先にフリートに渡したら嫉妬したリナリアとか見れたりするのかしら?


それはそれで見たい気もするけど……リナリアをあまりそういう気持ちにさせたけない私も居るのよね。


意地悪して可愛い顔が見たい私vsそんな顔させたくない私。


悩ましいキャットファイトだけど、妥協点は少し嫉妬しそうなギリギリのラインでやめてリナリアを更に愛でるあたりかしら?


どこが妥協かと聞かれたら悩むけど、こればっかりはね。リナリアに嫌な思いはして欲しくないけど私を思ってくれる全部の顔を見たいという私の気持ち。


優先するべき当然前者ということになるのよね。


私のはあくまで個人的な願望だからね。

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