第48話 新しい家族
クリスマスイブ当日。
比較的晴天に恵まれてるけど、外は結構寒い。
吐く息が白くなって消えていく。
リナリアから貰った猫ちゃんのマフラーと猫ちゃんの毛糸の手袋が凄く温かい。
少し時間には早いけど、私は待ちきれないから早めに待ち合わせ場所で待っていた。
そんな私の気持ちと一緒だったのかしら?
程なくして、いつも以上に可愛らしい格好をしたリナリアが待ち合わせ場所にやってきた。
「すみません、カトレア様。遅くなりました」
「気にしなくていいわよ。私が楽しみすぎて早く来すぎただけだから」
「えへへ。実は私も今日のデートが楽しみで中々昨日眠れませんでした」
「そう、一緒ね」
そう言ってそっとリナリアの手を取る。
「じゃあ、行きましょうか」
「えへへ」
「どうかしたの?」
「あ、すみません。その……やっぱり私の作ったものを付けてれてるのが嬉しいなぁって思いまして……迷惑でしたか?」
もう、本当に可愛いことばかり聞くんだから。
「そんな事ないわよ。私もリナリアから貰ったこれが付けられて凄く幸せですもの」
「カトレア様……」
「でもそうね。私もそのうち手編みで何か作ってみようかしら。そうしたらリナリアに私の手作りを着せられるし」
「カトレア様ならすぐに上手くなると思いますが、無理はしないでくださいね?」
自分のことよりも私の心配ばかり。
本当にこの子ったら。
「ええ、無理はしないわ。リナリアが傍にいるから無理は出来ないもの」
「そうですね。私がカトレア様をお止めします」
「頼りにしてるわよ。でも、リナリアが無理した時は私が止めるからね」
「はい、お願いします」
そう言って二人で笑いあってから、歩き出す。
デートの始まりね。
デートの時はあまり馬車は使わないんだけど、今日は少し距離があるので移動を馬車にしてみた。
転移の魔法があれば一瞬で目的地に着くし便利だけど、雰囲気というのも大切だ。
「皆さん活気がありますね〜」
「そうね。国が良くなってきた証拠でしょうね」
弟の為にと色々やってる転生レオンのお陰か、前よりも賑わいのある王都だけど、あのブラコンからしたらこれでもまだ足りないのでしょうね。
きっと、弟王子に継ぐときにはこの国の平和が千年くらいは維持されるレベルの対策を高じてから渡しそうだけど、私としても私やリナリアのこれか生まれてくるであろう子供や、私の実家のアンスリウム公爵家を継ぐであろうフリートが出来る限り穏やかに過ごせるのであれば文句はない。
それで私がこき使われてるのを全て飲み込めるわけではないが、一応ギブアンドテイク、利用できる間は利用してみましょう。
「こうして馬車から見る景色もいいですね」
「そうね」
でも、普通に見てたんだと多分すぐに飽きる景色でもあるわね。
「リナリアが一緒だから、この時間も楽しいのでしょうね」
おっと、思わず言葉に出てしまった。
チラッとリナリアを見ると、リナリアは少しだけ頬を赤らめて距離を縮めてきた。
「い、今は誰の目もありませんし……いいですよね?」
可愛い子ちゃんめ。
ダメなわけないでしょう。むしろウェルカムよ!
「ええ、いらっしゃい」
「えへへ」
そっと肩を寄せてくるリナリア。
息のかかる距離にくるといつだって私の胸はドキドキと音をかき鳴らす。
でも、それはリナリアも一緒。
「ねぇ、リナリア」
「はい、カトレア様」
「何があっても、どんな事がおきても……こうしてリナリアの傍に私はずっと居たいわ」
「私もです。もし死が私たちを分かつとしても、私は……」
「もちろんよ」
そう微笑んで私は言い切った。
「もし来世があろうとなんだろうとリナリアとこれから先必ずずっと一緒に居るわ。何度生まれ変わっても絶対リナリアのことを見つけて……こうしてまた私はリナリアを愛するわ」
「カトレア様……嬉しいです……」
そう言ってそっと抱き合う。
触れ合う箇所から好きが溢れる。
止められらない止まる気もないこの気持ち。
私はリナリアのことを自分で思ってるよりもずっとずっと深く……愛してるんだわ。
お昼を食べてから、新しく出来た劇場で劇を見てきた。
今日のはチケットの入手さえ難しい大人気の公演だったけど、転生レオンを使うまでもなく私のコネで入手は可能だった。
「面白かったですね、カトレア様」
「そうね。人気なのも頷けるわ」
内容的には前に二人で見た王女と平民の女の子の友情物語(友情を超えてそうなやつ)の王道な感じのやつだったけど、役者の演技力が高くストーリー構成も素晴らしかった。
「この後の公演も観たかったです」
「それは少し恥ずかしいから今度ね」
惜しむらくは午後二度目の公演が私の王都でのドラゴン退治を題材にした英雄譚的なやつなので、精神的に見るのがキツくて見れなかったという点くらいかしら。
ていうか、私全く監修してないのに『白銀の氷姫監修!』と大々的に書かれてたのよね。
絶対転生レオンが監修したやつよね。
めちゃくちゃ脚色されてるでしょうし、見るならもう少し落ち着いてからにしたいもの。
「ちょっと残念です」
「ごめんなさいね。代わりに本物を独占することで許してくれるかしら?」
「……もう、狡いですよ、カトレア様。そんな事しなくても許しますけど……嬉しいです」
そう言ってはにかむリナリア。
むっっちゃ可愛い!超可愛い!ハイパー可愛い!
「そういえば、あの劇リナリアもヒロインとして出てるじゃなかったかしら?」
「え?そうなんですか?それは少し恥ずかしいです……」
あら?教えてなかったかしら?
でもそれを込みで見に行くのは悪くないわね。
とはいえ。
「リナリアは世界に一人だけよね」
それを思うと、どれだけ可愛い役者さんでも役不足というもの。
「はぅ……か、カトレア様。言葉に出されると恥ずかしいですよぅ……」
「あら、ごめんなさい。ついね」
「……でも、私もそう思います。カトレア様は世界でただお一人。誰にもカトレア様は真似できませんしして欲しくありません」
「ふふ、ありがとう」
「あぅ……す、すみませんつい……」
「いいのよ。それに私を独り占めしていいのはリナリアだけだからね」
「カトレア様……」
「ねえ、リナリア。その逆を私はリナリアに望んでもいいかしら?」
そう聞くと、リナリアは考えるまでもなく頷いてくれた。
「はい……この身は全て心も含めてカトレア様のとの……です……」
――あぁ、もうもう、可愛すぎー!
今すぐ更に私色に染め上げたいけど、なんとか我慢してクールカトレアさんでそっと頬を撫でる。
その撫でた頬の手を包み込むようにリナリアは私の手を取ると少しとろんとした目をして甘えてくる。
今すぐにでも唇が奪いたくなるけど、少しお預け。
そっと反対側の手で唇に指を当てると、リナリアはくすぐったそうに目を細めながら更に私を欲してくる。
理性の我慢も限界が近いわね。
夕食は景色の良い人気店で取った。
こちらは流石に私だけでは取るのが大変そうだったので転生レオンを使って手に入れたけど、味はなかなか良かった。
何よりも眺め良いレストランで取る食事の雰囲気が恋人達にこの後を期待させるような感じだったのがかなり好都合だった。
リナリアの料理の方が美味しいけど、それはそれ。
外食は雰囲気も買うものだからね。
そんな感じで夕食を取ってから、リナリアを連れて私は領地に転移していた。
「か、カトレア様〜。まだですか〜?」
「もう少し待ってね」
「うぅ……目を瞑ってるとちょっと不安です〜」
「大丈夫。私がリナリアから離れないから」
そう言ってギュッと抱きしめると「えへへ……」と照れたように微笑むリナリア。
可愛いそんな姿を見ながら時計を確認。
あと少しね。
「ねぇ、リナリア。今の生活は楽しい?」
そう聞くと、リナリアは迷うことなく答えた。
「勿論です。カトレア様のお傍に居られて、同じ気持ちで触れ合えて……私はこれ以上を望めないくらい幸せです」
「そう」
「でも……」
「でも?」
「その……これ以上を望むのは贅沢だって分かります。でも、それでも私は――もっと、カトレア様を欲してしまいます」
目を瞑ったままリナリアは私の方に顔を向けてくる。
「もっとカトレア様と触れ合いたい。もっとカトレア様を感じたい。もっとカトレア様を――独り占めにしたい」
そう言ってから、「我儘……ですよね。すみません……」と謝るリナリア。
でも、謝る必要はないわよ。
「リナリア。私もね同じこと思ってたの」
「えっ……」
「もっとリナリアと触れ合いたい。リナリアだけを感じて、リナリアを私だけのものにしたい」
「カトレア様……」
「謝る必要は一切ないわ。それに遠慮する必要も我慢する必要も全部全部ないのよ。リナリアの全てを私は愛してるわ」
「わ、私も……カトレア様の全てが好きです。カトレア様のことなら何でも受け入れられますし……凄くカトレア様を愛してます」
「ありがとう。さて、時間ね。目を開けていいわよ」
リナリアにそう言うと、リナリアは目を開けて――驚く。
場所は領地のエスカレーター乗り場のある場所。
いつもは賑やかなそこは本日は私たちだけの貸し切り状態で私とリナリアしかこの場には居ない。
でもそれよりもリナリアが驚いたのは下に見える光景。
こちらからだけ全面クリアに透けて見える外の眺めは、領地全体でイルミネーションがライトアップされており、凄く綺麗だった。
そう、ガルドやアカネ、ロベルトに領民たちにと私がお願いしていたのはこのクリスマスイブのためのライトアップだ。
そしてそこにメッセージを入れさせて貰った。
『好き』
このたった二文字をハートで埋めたシンプルながらも素直な気持ちの言葉。
それを見てリナリアは――顔を真っ赤にした手で覆ってしまう。
私はそれを見て、リナリアの顔を見ようとするが……抵抗される。
「だ、だめです、カトレア様。わ、私、顔、今だめ……」
「いいから。見せなさい」
「あっ……」
そう言ってクイッとこちらに向かせる。
リナリアの顔は真っ赤で今にも心が溢れだしそうな……素敵な乙女な顔になっていた。
目もとろんとしてきており、ガルドが言ってたように目の中にハートマークまで見えるようなきさえしてくる。
「リナリア」
「カトレア……様……んぅ……」
そっとリナリアの唇を奪う。
いつもよりも少し乱暴に。
それでもリナリアは私を受け入れて唇を離さないでくれた。
どれくらいだろう。
リナリアと睦みあってから私はリナリアに最後の理性を振り絞って言った。
「メリークリスマス。愛してるわよリナリア」
「わ、私もです――カトレア様」
その後のことは語るのは野暮だろう。
婚約者という制約がなければめちゃくちゃにしてしまうのでは?というくらいにリナリアを求めて、リナリアも私を求めた。
きっと、これまでの分も我慢がきてたのね。
今後はもっとリナリアを求めようと思いながら、最高のクリスマスイブを過ごすのでありました。
リナリアたん可愛すぎ!
ーーー
年があけてすぐの事だった。
我が家に新しい家族が生まれた。
しかも二人も。
「弟も妹も欲しいって思ってたけど、まさか双子とは流石に想像してなかったわね」
「びっくりです」
比較的安産だったようだけど、双子を生んだお母様に更に尊敬の視線を向けてしまうくらいには凄いと尊敬してしまっている自分がいる。
お父様もお母様の陣痛が始まった時はソワソワしてたけど、双子と知って更に面白い顔をしていたのを覚えている。
ちなみに先に生まれたのは女の子でその後に男の子が生まれてるので、我が家の次女と次男は女の子が姉で男の子が弟ということになるわね。
私→フリート→次女→次男。
子供の性別が偏ることがあるという事例も多い中、中々綺麗な感じの順番に生まれてきたけど、私としても他の家族としても無事に産まれてきてくれただけで感謝しかない。
フリートなんて、初めての妹弟に凄く大はしゃぎだったもの。
「フリート様が生まれた時のカトレア様も凄く嬉しそうでしたよ」
そうかしら?いえ、そうね。
フリートみたいな感じではないけど下に弟や妹が出来た喜びって大きいわよね。
私も冷静ぶってるけど、正直めちゃくちゃ嬉しくて頻繁に会いに行きたい気持ちを我慢するのが中々大変なくらいだもの。
お母様や新しく出来た妹、弟の負担にならない程度にしないとだし。
双子ちゃんの名前も決まった。
お父様は最初男の子と女の子のどちらが生まれてもいいように、両方の名前を悩みながら私やお母様に相談して決めていたけど、双子ちゃんと知ってその名前を一度止めてまた相談して新しく決めたくらいだもの。
お姉ちゃんの名前はスミレ。
弟ちゃんの名前はヒカル。
二人の名前を三文字で合わせたのはお父様の拘りみたいなものらしいけど、私もいいと思うのよね。
当然、お母様も文句はなし。
そんな訳で新しい家族が出来ました。
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