第49話 双子も最高
双子の姉弟、スミレとヒカルが生まれて数日。
お母様も体調が安定してきており、私も微力ならお世話を手伝ってたりする。
とはいえ、お母様や乳母さんの仕事を奪わない程度の軽いやつだけど。
赤ちゃんは本当に可愛い。
「あうあ〜」
ニッコニコとご機嫌なのは姉のスミレだ。
比較的人懐っこく、誰に抱かれても人見知りがほとんど無いのできっとこの子はコミュ強になるわね。
反対に弟のヒカルはお母様以外だとぐずることが多めかしら?
お父様が抱っこしたらギャン泣きされてかなりへこんでたけど、そのうち慣れるわよね。
「それにしても、ヒカルはお母様に似てますね」
「そうですか?」
「髪色も顔立ちもそっくりです」
まあ、私もかなりお母様似ではあるけど。
「きっと将来はフリートと並んでカッコよくなりますね」
「ふふ、そうですね」
「スミレもめちゃくちゃ美人になりますね。きっと私よりも可愛くなりますよ」
幼いうちから既に隠しきれない美少女オーラが出てる辺り、流石お父様とお母様の子ね。
「お母様、ちゃんと休んでますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。ライナや乳母さん達も居ますし、カトレアも旦那様もこうしてよく足を運んでくれてますから」
そういえば、さっきもお父様と入れ違いになったけど一瞬だけお母様の頬に軽く口付けをするお父様を見かけたわね。
お母様がめちゃくちゃ嬉しそうで、お父様がかなり照れてる(当社比)様子が萌ゆる。
「カトレアこそ。最近益々忙しそうだと聞いてますよ。ちゃんと寝れてますか?」
「ぐっすりです。安心する匂いも近くにありますし」
リナリアとかリナリアとかリナリアとかフリートね。
「貴女が彼女を選んだ理由がなんとなく分かりますね」
「分かりますか?」
「親子ですから。ライナと過ごしてると不思議と落ち着きますからね」
「ふふ、光栄です。奥様」
「こういう場では名前で呼んでください。身内になるのですし、私にとっては最も信頼出来る友人なんですから」
お母様をこうもデレさせるとは……ライナさん恐るべし。
「すっかり仲良しになってて嬉しいですけど、お父様が嫉妬しない程度にしてくださいね」
「安心してください。私にとっては旦那様が唯一無二ですから」
そう言ってちょっと照れるお母様。
ぐう可愛ですわ。
「でも、少し嫉妬した顔が見たいとも思ってるんですよね?」
「ら、ライナ。それはカトレアや旦那様には秘密だと……」
「いいじゃありませんか。カトレア様も多分似たようなことをうちの子に思ってますよ」
エスパーなのでしょうか?
ライナさん恐ろしや。
「やっぱり私とお母様は親子なんですね。そういう気持ちは確かに私にも少しあります」
「そ、そうなんですか?」
「はい。でも、同時にそんな顔をさせたくない気持ちもありまして……」
「そう、そうなんです。だから悩ましいんですよね」
うんうん、やっぱり私はお母様の娘ですわ。
全く同じこと考えてるもの。
「子供も可愛いし、旦那様を独り占めもしたい。贅沢なんでしょうね」
「いいじゃありませんか。贅沢しましょう」
「……カトレアは時々、本当に凄いことを言いますね」
「事実ですから。私もふと考えるんです。リナリアを独り占めしたい気持ちと子供を作って可愛がりたい気持ち。それらは決して間違った気持ちじゃないんです。だったら、だからこそ相手を家族を信じて――贅沢にいったほうがいいと思うんです」
子供が出来たってイチャイチャラブラブすればいい。
その上で子供達に目いっぱいの愛情を与えて、健やかに育つように親として頑張る。
リナリアをこれから出来るであろう私とリナリアの子を信じて、贅沢な選択肢を取る。
私はとっても我儘で強欲だもの。
それくらい難なくやってみせるわ。
「……訂正します。カトレア、貴女は私よりも遥かに良い妻と母親になりますよ」
「そうなれるように頑張ります。でも、私の目標はあくまでお母様やライナさんですから」
「私もですか?」
ちょっと驚くライナさん。
そりゃ、そうでしょう。
「リナリアを立派に育てたライナさんみたいに、私をここまで育ててくれたお母様みたいに私はリナリアを幸せにします」
それがきっと私の偽りのない本心なのでしょうね。
まあ、リナリアには本心がただ漏れなのだけど……クールで理知的なカトレア様は遠いなぁ。
「カトレア。こちらへ」
「はい」
そっとお母様に寄ると、お母様は私を抱きしめる。
ふわりとお母様の優しい香りが私を包み込む。
「貴女ならきっとリナリアさんを幸せに出来ます。でも決して一人で頑張らなくていいんですよ。私もお父様もライナだって貴女の味方です。無論、リナリアさんも貴女のことをきっと一番に愛してます」
不思議と安らぐこの感じ。
お母様ってばやっぱり凄い。
リナリアとは違った癒しを感じるのはきっとお母様だからなのでしょうね。
「……では、味方のお母様に我儘をお許し頂けますか?」
「我儘ですか?」
「はい。もう少しだけこうして私を抱きしめてくれませんか?」
「ふふ、甘えん坊なのはまだまだ変わりませんね、
カトレア。リナリアさんに嫉妬されてしまいそうです」
「今だけです。こうして甘えられる機会もそう多くないでしょうから」
私は13歳になり、あと二年で成人になる。
私自身、中身がそれなりの歳とはいえ、思春期の肉体に引っ張られた親に甘えたい気持ちだって少しくらいはある。
だから、お父様やフリート、スミレやヒカルの分を奪わない程度に少しくらいなら貰ってもバチは当たらないでしょう。
お母様に甘えて、スミレとヒカルのお世話を手伝ってから双子を可愛がって、私はお父様の元に向かう。
「お父様、よろしいでしょうか?」
「……入れ」
割とすぐに入室の許可が降りたので、執務室へと入る。
あら、やっぱり書状や書類の山になってるわね。
「お忙しい時にすみません、お父様。ご迷惑でしたか?」
「構わない。お前から来るのだから何か用があるのだろう」
「用事が無い時はダメですか?」
「……いつだって来るといい」
相変わらず娘にダダ甘なお父様だ。
不器用ながらこうなのだからお母様が悶えるのもよく分かるというもの。
「スミレとヒカルへのお祝いも沢山来てるみたいですね」
「ああ」
先程通った部屋には早速貴族たちからの贈り物が山のように積んであったのは確認できたけど、その中にあからさまに転生レオン関連の贈り物と思しきものが目立ってたのはすぐに分かってしまった。
本当に手が早いこと。
「……カトレア。フリートの婚約者の件だが」
「何か動きがありましたか?」
「顔合わせが近いうちに行われることになった。しかも向こうからこちらに来てくれるそうだ」
「それはそれは」
他国の王族ともなるとこちらから出向くべきなのだろうが、こちらの状況に気を使った……なんて感じよりも転生レオンがこちらに呼んだ方が得と考えたというところかしら。
「時間があったらその席に立ち会って欲しい」
「私がですか?」
「……アザレアは出産直後だ。同じ女性としてお前が居てくれると助かる」
それもそうね。
お母様に無理はさせられないわね。
「分かりました。時間を空けておきます」
「……すまないな。色々とお前に負担をかけて」
「お父様。この程度で負担なんて言うほど私は狭量ではありませんよ。なんて言ってもお父様とお母様の子なのですから」
「……そうだな。ありがとう」
しかし弟の婚約者候補の顔見せに立ち会う姉……私って向こうから見たらかなりあれよね。
まあ、気になってはいたしいいんだけど。
「それにしても、この書状や書類の量……もしかしてスミレやヒカルのこと以外もあったりしますか?」
「少しな。だが問題はない」
「そうですか。無理はなさらないでくださいね」
「……ああ。お前やアザレアを悲しませるようなことはしたくないからな」
それでも少し疲労が見えたので回復系の魔法は一応かけておく。
その時に少し見えてしまったけど……。
「相変わらず、貴族は手が早いのですね」
生まれたばかりのスミレやヒカルへの縁談がかなり来てるみたいだ。
「……スミレを嫁に、ヒカルを婿に欲しいと来てるのも多い。だが話を受けるにしてもまだ先だ」
「スミレもヒカルもきっと良い人を見つけますね」
「……子供の成長というのは早いものだ。お前を見てると特にそう思う」
私は少し例外なので。
フリートを基準にしてあげてくださいな。
「……時にカトレア」
「なんでしょうか?」
「その……ヒカルを抱いた時に泣かれるのだが……嫌われているのだろうか?」
先程までとは打って変わって、少し寂しそうな顔をするお父様。
お母様がこの場にいたらきっとお父様に萌え死んでるでしょうね。
「ヒカルはきっとお父様に照れてるんですよ。それに今頃の赤ちゃんは人見知りする子も多いと聞きます」
「……そういうものなのか?」
「そういうものです」
まあ、人見知りは個人差もあるし確実ではないでしょうけど、それは言わなくていいわね。
というか、フリートやスミレがニコニコしてるせいで余計に泣かれたのがショックなのでしょうね。
お父様ってばなんだかんだ子煩悩だから。
「きっともう少ししたら落ち着きますよ。お父様は無理をしない範囲で会いに行ってあげてください。お母様も喜びますし」
「……そうだな。そうするか」
「それと落ち着いてからでいいので、お母様との時間もきちんと作ってあげてください」
「……うむ。善処しよう」
一応言ってはみたものの、お父様も昔よりは気持ちを前に出せるようになってきたし余計なお世話だったかしら?
それでもお父様とお母様にはラブラブで居て欲しいという娘心は分かってもらえるでしょう。
そんな事を考えていると、お父様が私をじーっと見てくる。
ふむ、何か気になるものでもあるのかしら?
「……すっかり、大きくなったな。アザレアに似て美しくなった」
「お母様にはまだまだ敵いませんよ」
特にお胸とか母性的な意味で。
「それにお父様の永遠のナンバーワンはお母様ですからね」
「言葉にするな……照れてしまう」
少し顔を逸らすお父様。
めちゃくちゃお母様ラブなんですね。分かります。
「お父様のお膝に気軽に座れなくなったのは残念です」
「……最初は驚いたが、フリートもお前もアザレアに似て活発的だ」
お母様譲りかは分かりませんが、確かに最初にやった時のお父様反応は今でも覚えてるわね。
「きっと、スミレもそうなるのだろう。ヒカルは分からないが……」
「ヒカルもきっとお父様のお膝気に入りますよ」
「そうか? 」
「兄弟姉妹の中で、最初にお父様のお膝を頂いた私が保証します」
「……そうか」
ふと微笑むお父様。
「カトレア」
「はい」
こっちに来いという呼び方だったので近づくと、お父様は相変わらずの大きな手で私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
撫で方は……あんまり上手くなってないけど、これはこれでお父様らしくて私は好きなのよね。
「苦労ばかりお前にはかけてるな」
「そんな事ないです。私こそ、お父様には沢山迷惑かけてますから」
転生レオン絡みで特に。
「娘のお前のやる事で迷惑なことなんて何も無い」
しかしそんな私の言葉にお父様はキリッとそう返してくる。
不器用なお父様だけど、だからこそ本心だとよく分かる。
本当に良いお父様に恵まれたと思う。
「お前らしく自由にやればいい。だが……たまに顔を見せてくれると私もアザレアも安心する」
きっと、お父様は私が領地に行ってからのことも言ってるのでしょうね。
「一番に孫の顔を見せに来ますね。フリートに先を越されなければですが」
「流石に大丈夫だろう」
そうでしょうけど、フリートのお相手次第って感じかしら?私とリナリアのイチャイチャラブラブ新婚期間の長さにもよるしこればかりは分からないわね。
順当にいけば私が最初に孫の顔を見せることになるのでしょうけど。
「その前に新しい弟や妹が増えてるかもしれませんが」
「……その時は可愛がってやってくれ」
「勿論です。お姉ちゃんですから」
「頼もしいな」
そう微笑むお父様は少しリラックス出来てるようで良かったわ。
一応、お父様の仕事を軽減できるように私もジャスティスと色々してはいるけど……私の方も色々あるしいつまでもとはいかない。
でもきっと大丈夫でしょう。
お父様の跡を継ぐフリートも、これから大きくなるスミレやヒカルもいる。
スミレはまあ、どこかに嫁入りしそうよね。
それでもフリートもヒカルもきっと私なんかよりも優秀になるでしょうし、お姉ちゃんとして少しくらいなら手伝えるでしょう。
お嫁さん次第だけど、老後はお父様やお母様にはイチャイチャスローライフを送ってもらいたいわね。
無論、私も隠居後はリナリアとのイチャイチャスローライフを目指してみせるわ!
お婆ちゃんになってもラブラブって素敵よね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます