第46話 雪遊び

こたつ用の部屋を新しく作ることになった。


それくらいお父様もお母様も気に入ってくれたのだろう。


ただ、フリートがこたつで度々丸まってるのを発見されてるので風邪だけは気をつけて欲しい。


「積もってるわね」

「ですね〜」


数日ほど吹雪いたと思ったら、朝起きたら外が一面銀世界と化していた。


これは出掛けなければ損というものと、リナリアお手製の猫のマフラーと、今年のプレゼントの毛糸の手袋(こちらも猫が描かれてる)を装備して外に出てきた。


「リナリア、足元気をつけてね。凍ってる場所があるかもだから」

「分かりまし――」


と、注意した瞬間に早くもつるりと滑る箇所があったのか、リナリアが倒れかける。


「わぷ」

「ふぅ……怪我はない?」


受け止められてホッとしたけど、本当にドジっ子な所はまだまだ抜けそうにないわね。


そんな所も可愛いんだけど。


「あ、ありがとうございます。カトレア様」

「いいのよ。それにしても……リナリアったら朝から大胆ね」


受け止めた拍子にリナリアが私の胸に顔を埋めるような形となったのだが、さらに手が後ろに伸びててラッキーすけーべ状態一歩手前となってしまっていたりする。


「えっ……あっ……す、すみません!私ったら……」


赤くなって離れようとするリナリアを私は離さないようにむにゅっと抱きしめる。


「わぷっ……か、カトレア様?」

「いいじゃない。婚約者なんだし。このくらいのスキンシップはね」

「で、でも、その……はぅ……」


とくんとくんと鼓動が届く距離に居るせいか、リナリアの鼓動がダイレクトに響く。


この心地良さはなんなのでしょうね。


触れ合ってるだけで幸せになれて、なんでも出来そうなそんな気分。




ちょっとしたアクシデント的なものもあれど、雪を楽しむことも勿論忘れたりはしない。


「出来ました!雪うさぎさんです!」

「あら、上手ね」


前に教えた雪うさぎをリナリアは私以上に綺麗に可愛く作っていた。


器用さではこの子には適わないでしょうね。


それもまた悪い気分じゃないのは私はそんな自分も受け入れられてるからかしら?


「カトレア様は何を作ってるんですか?」

「猫よ。と言っても顔だけだけどね」


流石に完璧とはいかないけど、猫っぽい感じに出来たそれは我ながら及第点だと思うわ。


「可愛いですね〜」

「リナリアは猫が好きよね」

「はい!だって凄く可愛いですし、なによりカトレア様にちょっと似てる気がして……」


……私ってそんなに猫っぽいかしら?


「カトレア様もお好きですよね?」

「嫌いじゃないわね」


リナリアからの影響か、前よりも猫を好きになった気はするわね。


別に犬猫派閥争いとかするようなレベルではないけど、どっちと聞かれたら猫と答えるくらいには好きになってる気がするわ。


「そのうち飼うのもいいかもしれないわね」

「その時は私がきちんとお世話します!」

「そうね。でも折角なら私も手伝うわよ。子供たちを見守る先輩になるかもしれないしね」

「子供……えへへ……」


私との将来を想像してはにかむリナリア。


むっっっちゃ可愛い!超絶可愛い!プリティ可愛い!


もうリナリア本当に大好き!好き好き好き!


なんて言葉に出来ればどれだけアホな子になるのか分からないくらいに悶えつつも、冷静なカトレアさんスマイルを浮かべて微笑んでおく。


ふっ、私もカオスな内心を悟れせない技術だけは進歩したものね。


そう自画自賛してから、ふと私はまだ作ってないことを思い出して雪を魔法で動かしてかまくらをつくる。


「カトレア様、それは何ですか?」

「かまくらよ。小さな雪のお家ってところかしら」

「ほぇー、凄いですねぇ」


流石に雪を掘って固めてという作業はキツイので魔法で色々省略しちゃったけど、悪くない出来だと思うわ。


折角だしもう少し凝ってみようかしら?


そう思ってかまくらのサイズを大きくして、中に椅子とテーブルを作り、小さい棚やその上に雪で作った猫の像も作ってみる。


外も少し弄ってと。


「どうかしら?」

「私だったら住めそうなくらい素敵な所です!」


リナリアには好評のようで良かったわ。


「折角だし写真だけでも撮ろうかしら。リナリアも写ってくれる?」

「私は普段沢山撮って貰ってますし、今回は私がカトレア様を撮りますよ」

「そう?でも最初はリナリアを撮りたいからそれは後でね」


そう言ってリナリアを合法的に写真に収める。


何だかんだと写真の魔道具を作ってからリナリアばかり撮っており、そろそろアルバムが50冊を越えようとしているのよね。


決して隠し撮りはしてないわよ?ちゃんと許可を得て撮ってますとも。


まあ、たまに気づく前に横顔を撮ったりもしてるけど、リナリアも隠れてこっそり私の写真を撮ってるのを知ってるのでおあいこだと思うわ。


「じゃあ、その……折角なら一緒に撮りませんか?」


上目遣いでそんな事を頼まれて、断るような私ではなく、魔法で上手いことツーショットを撮ることに成功。


まあ、リナリアとのツーショット写真はこれまでも何枚も撮ってるけどセルフ機能とかもそのうち付けた新しいカメラの魔道具を作りたいわね。


一応、ビデオカメラの魔道具も形にはなってきてるし、リナリアとの結婚式を録画することは出来そうなのは一安心ね。


形に残るのは良い事だし、後で見返して二人で笑う未来が待ち遠しい。







領地の方もかなり雪が積もっていた。


雪掻き大変そうだけど、子供たちは雪遊びに夢中になってるようだった。


「そら、逃げろ逃げろ。当てるぞガキども、がはは」


随分と口が悪いのが子供達に混じってるなぁと思って見ると、ガルドが子供達の雪合戦に参加していた。


ああ見えて子供好きよね。


「おう、嬢ちゃん来てたのか」

「楽しそうね」

「まあな。ガキどもは元気があっていいな。うちの雪かきが早く終わって手伝いに来たら巻き込まれたんだが、たまには悪くないな」


満足そうなのは見ててわかるわよ。


それにしてももう既に自宅の雪かき終わってるなんて流石体力お化けね。


「奥さんは大丈夫なの?」

「おう、来年の春には生まれるって嬢ちゃんも言ってたろ?っていうか、一昨日も会いに来てたじゃねぇか」

「それもそうね」

「そういや、嬢ちゃんの方も弟だか妹出来るだろ?」

「ええ、もう時期でしょうね」

「そいつは楽しみだ」


雪遊びを楽しむ子供たちを見て笑みを浮かべるガルド。


「ガキはいいな。アイツらも俺らのガキも元気に育つよう俺らは頑張らないとな」

「そうね」


そんな領地にしたいものね。


「そういえば、性別鑑定の件は本当にいいの?」

「おう。嫁さんも生まれての楽しみが減るって言ってたしな」


実は最近になって、赤ちゃんの性別鑑定が出来るようになったのだけど、あまり関わりのない他の大貴族からの依頼はそこそこあるのに、それ以外の身内からの依頼がほとんど無かったりする。


似たような気持ちなのかしら?


「嬢ちゃんの所もしてないんだろ?」

「お母様もお父様も無事生まれてきてくれるだけで嬉しいから不要って言ってたわね」

「良い親じゃねぇか。まあ、嬢ちゃんの家族だから当然か」

「恵まれてるのは間違いないわね」


色々迷惑ばかりかけてるから、親孝行も頑張りたいところ。


「ん?そういや嬢ちゃんの嫁さんは来てないのか?」

「今日はお勉強の日だから」

「お貴族様ってのは大変だな。俺の子はそういうのなくて楽そうだ」


まあ、リナリアの勉強もほぼ佳境に来てるようだし、本当に頑張ってくれてるので後でいっぱい褒めないとね。


褒めるだけじゃ足りなくなりそうだけど、リナリアが私のために慣れないことを頑張ってくれてる。


それだけで私が色々昂っちゃうのは仕方ないわよね。


「本当に嬢ちゃんは分かりやすいな」

「そうかしら?」

「今、嬢ちゃん嫁さんのこと考えてたろ?」


よく分かったわね。


顔には出てないはずなのに。


「嬢ちゃんはそういう時はピンクのオーラが強くなるから分かりやすいんだよ。アカネの嬢ちゃんはその辺顔に出るがオーラには出ないし」

「オーラっていうのは使い手のみが見えるっていうやつよね?相変わらず凄いわね」


確か熟練の冒険者はオーラが見え、さらにその先を知った者はオーラを操り、その先にたどり着いた者は物理を超える――だったかしら?


魔法とは違う生命力の具象化とでもいう力のようだけど、私は魔法使いなのでその辺はさっぱりなのよね。


それにしてもオーラってつくづくファンタジーね。


魔法があるから当たり前か。


「嬢ちゃんも才能ありそうだがな」

「そうかしら?」

「鍛えれば俺くらいは余裕で越えられるじゃねぇか?」

「海を斬撃で割るような真似は一生無理そうだけどね」

「頑張りゃいけるだろ」

「か弱い女の子には通じない理論ね」


首を傾げるガルド。


「今、か弱いの部分に首傾げなかった?」

「そりゃあ、嬢ちゃんの嫁さんなら分かるが嬢ちゃんはか弱くないだろ。むしろ肉食獣ってやつだ。うちの嫁さんも夜は凄くてな」


それ、私に話していい話?


あのお淑やかな人が凄いのは想像つかないけど……ギャップがあるのは定番よね。


「そういやアカネの嬢ちゃん上手く外堀埋めてるみたいだな」

「あら、耳が早いわね」

「これでも情報がきやすくてな。姉を落としたなら時間の問題だろ」

「アカネの頑張り次第ね。でも変なところでヘタレそうでちょっと不安よ」

「まあ、アカネの嬢ちゃんはああ見ててここ一番でビビるタイプだろうしなぁ。そこは嬢ちゃんが少し応援してやったらどうだ?」

「そうね。時間があれば手伝うわよ」


アカネには色々仕事任せてばかりだし、少しはむくいないとね。


「ところでだ」


そっと声のトーンを落とすガルド。


「なぁ、本当なのか?魔法を封じる石が見つかったってのは」

「……アカネから聞いたのね」

「少しな。俺が知っといた方がいい情報だろ?」


確かにね。


話そうとは思ってたしタイミング的にはいいかしら。


念の為、防音の魔道具を起動しておく。


「ガルガット王国の裏社会で取り引きされてるみたいね。アカネに回収とガルガット王国の内情調査はお願いしてるけど……弟が来年、そこの王女様とお見合いするらしいわ」

「そりゃまた数奇なもんだ。いや、仕組んでる奴がいるのか?」

「正解。多分腹黒ブラコン野郎ね」

「嬢ちゃんの協力者か。んで?」

「まだそれ以上はなんとも。でも、一応領地の様子は気にしてて」

「分かった。嬢ちゃんの方は大丈夫か?」

「リナリアだけは必ず守るわよ。まあ、縁談が無くなれば何もないかもしれないけど……」


転生レオンのことだ。


フリートと相性の良い超絶良い子を紹介してくるか、面倒な物件だけど見捨てられないパターンを用意してるはず。


「難儀なもんだ。だがまあここは居心地がいいしな。嬢ちゃんのことも気に入ってるし恩もある。可能な範囲でやれる事はやってやるよ」

「ありがとうね」

「気にすんなって。それよりも一つ聞いてもいいか?」

「なに?」

「聞くところによるとこたつっていう暖房の魔道具を嬢ちゃんが作ったって聞いたんだが」


本当に耳が早いわね。


「ガルドとアカネの分も用意しておいてあるわよ」

「お、そいつは助かるな。なんでもめちゃくちゃいいってアカネの嬢ちゃんが言ってたもんでな」


そういえば、屋敷で試して見事にダメになってたわね。


「奥さんが使う場合はこたつで寝ないように気をつけなさい。あと、こたつにはミカンがいいけど、妊婦さんは食べ過ぎはダメよ」

「みかんってのは果物のあれか。分かったよ。にしても嬢ちゃん本当に医者にでもなった方がいいんじゃねぇか?」

「本職は無理よ。私は知ったかぶりがほとんどだし」


でも、リナリアとお医者さんごっこ……悪くないわね。


女医さんコスでリナリアに迫るか、リナリアにナース服を着せるか悩むけど……両方取りもありかしら。


私の方が女医さんコスは似合うと思うのよね。


少しキツイ感じがあうし、リナリアには白衣の天使が絶対似合うわね!


「ガルド、ありがとう」

「そんなピンクのオーラ出て言われると嬢ちゃんの嫁さんに罪悪感を感じるな」

「何を言うの。合意の上よ」

「まあ、だろうな。嬢ちゃんも嬢ちゃんの嫁さんも大概好きもんだしな」


リナリアは健気だから頼んだらなんでもやってくれそうなのよね。


実際、私の頼みを断られたことないし。


私もリナリアからの頼みは断らないけど、リナリアは物欲とか薄めだからちょこちょここっちからアプローチしたり、プレゼントなんかもしたりした方がいいのよね。


そんなふうにガルドと話していると、子供達がガルドを呼ぶ。


「呼ばれてるわよ」

「んじゃ、休憩終わりだな。何かあったら頼れよ嬢ちゃん」

「ええ、頼りにしてるわ」


ちなみに後で聞いた話だけど、ガルドは家の周辺の雪を1分で片付けて領地の三分の一の道の雪かきの手伝いを済ませた上で子供達と遊んでたようだ。


頼りになる体力お化けよね。

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