第45話 コタツとみかん

今年も冬がやってきた。


外は結構寒いけど、暖房器具があるお部屋はとっても温かい。


魔道具の暖房器具は今年も売れ行きがかなり良いらしい。


いいことよね。


「カトレア様、お茶が入りましたよ」

「あら、ありがとうリナリア」


温かい室内で飲むリナリアお手製のお茶が体に染みる。


「いつもながらリナリアの入れてくれたお茶は格別ね」

「えへへ。ありがとうございます、カトレア様」


控えめなその笑みがとっても可愛い。


今ずくぎゅむっとしたくなるけど、和やかな時間なのでそれを楽しむのも悪くない。


「主君、少しよろしいでしょうか?」


そんな風にリナリアとの時間を楽しんでいると、くノ一のアカネがそっと部屋の隅に突然現れる。


毎度ながら見事な技ね。


「どうかしたの?」

「実は主君が以前から探していた物について、手がかりを得まして」

「まあ、本当に?」

「探していたものですか?」


はてと首を傾げるリナリア。


そういえばこの件はリナリアには言ってなかったわね。


「少し前からアカネに探し物を頼んでいたのよ。でも実在してるとしたら少し厄介ね」

「探し物じゃないんですか?」

「出てきて欲しくない探し物って所かしら。それで?」

「はい、案外近くと言いますか……ガルガット王国にて秘密裏に取引されてるようです」


聞き覚えがありすぎる国の名前ね。


フリートの婚約者候補の王女様がいる国だったかしら。


「手に入りそう?」

「時間をかければなんとか」

「だとすれば益々厄介ね。アカネ、ガルガット王国の内情について軽くでいいから調べられる?」

「無論です」


流石ね。


「仕事を増やしてごめんなさいね」

「いえいえ、お気になさらず」


リナリアに目配せすると、すぐにリナリアは羊羹と緑茶を用意してアカネに出してくれる。


さっすが、リナリアたん。分かってるわね。


「そういえば、例の喫茶店の彼とはどうなの?お姉さんと仲良くしてるって聞いてるけど」

「うっ、もう知ってるとは流石主君ですね……えっと、お姉様の方とは凄く仲良くさせて貰ってます」


出てきた羊羹を頬張ってから、緑茶で喉を潤してほっこりするアカネ。


ちょろ……ごほん。素直なアカネはこれだけで色々喋ってくれるから助かるわ。


その後はアカネとアカネの狙ってる殿方との進展などを聞いてニマニマしたりもしたけど、その殿方よりもお姉さんの方と仲良くなって着々と外堀は埋めつつあるようだったわ。


やるわね。


「というか、拙者の周りはナイスバディな方が多すぎると思うんですよ。主君しかり姉君しかり」


ジーッと若干の羨みが混じった嫉妬の視線も若干受けたけど、これはリナリア専用なのであまり見ないようにね。


それにスタイルなら我が天使リナリア様の方が素晴らしいと思います!


まあ、私以外には見せたくないので独占するけどね。


私すらまだじっくり見れてないのでそれは結婚後の楽しみってことで。





ーーー





みかんを大量に入手したタイミングで去年までに間に合わなかった暖房器具が完成した。


「カトレア様、これはなんですか?」

「こたつよ」


冬の最強兵装の代名詞。


そう――こたつである。


「こたつですか?お布団がありますし寝るのでしょうか?でも少し低いけど机ですよね?」


不思議そうにこたつを眺めるリナリアたん。


そんな所も凄く可愛い。


「暖房器具の一種よ。ここに足を入れて温まるの」

「カトレア様はいつも凄いものを作りますね〜」


キラキラした目でそう言われると流石に照れるわね。


「早速使ってみましょうか」

「いいんですか?」

「勿論よ。それにこれはリナリアと入りたくて作ったものだもの」

「カトレア様……ありがとうございます」


でも設置してみたはいいけど、アンスリウム公爵本邸の自室にはちょっと不似合いね。


元々、和室もある領地の屋敷で使う予定ではあったけど、家族に好評だったらそれ用の部屋でも用意するべきかしら?


そんな事を思っていると、特設で設置した少し広い場所にあるこたつにリナリアがそっと足を入れる。


スカートがめくれないように入る様子がとってもキュート。


流石はリナリアね。全ての動きが私を悶え殺しにかかってきてるもの。


そんな所も好き!


「ふぁ〜……温かいですねぇ……」


ほんにゃりとその柔らかい顔を更に和らげるリナリア。


それを見ながら私もリナリアの隣に座ってこたつに入ってみる。


熱は問題なさそうね。


毛布も厳選したら肌触り抜群で問題なし。


「この時期は足が冷えるので助かりますね〜」

「冬服でも限界があるものね」


袖の長い冬用のメイド服を着てるリナリアも、ドレスなどを着てる時のオシャレ気味な私でもそれなりに冷えるのでやっぱり冬は足元こそ注意すべきね。


そんな事を思いながらこたつの温かさに包まれていると、隣のリナリアと視線があう。


「えへへ。カトレア様も気持ちよさそうです」

「リナリアだって、いつも以上に可愛い顔してるわよ」

「そ、そんな事ないですよ〜」

「そんな事あるわよ。ほら」


そっと顔に触れるとリナリアが「えへへ」とくすぐったそうに身じろぐ。


ついつい色々したくなる私の中の悪戯っ子をなんとか制して手をスライドさせて、首まで伸ばす。


「ひゃん!」


……全然悪戯っ子を制御出来でなかったわね。


でも可愛い声が聞けて大満足。


「もう、リナリア様意地悪です」

「ごめんなさい。リナリアが可愛いからついやりたくなっちゃったの。こんな私は嫌いかしら?」

「……大好きです」


……あぁ、もう、小声で頬を赤くしてそんな事を言うなんてどこまで私を悶えさせたいのよ!


そんな感じにイチャイチャしていると、小さいノックの後に部屋にフリートが入ってきた。


「ねえさま、それなあに?」

「こたつよ。フリートもいらっしゃい」

「うん!」


嬉しそうに私の膝に座ってくるフリート。


また少し大きくなってきたわね。


子供の成長は早いものだ。


きっと私の背丈なんてすぐに追い越すのでしょうね。


「あったかーい」

「でしょう?」

「むにゃあ……」


自慢する暇もなくこたつの居心地の良さにうとうとしはじめるフリート。


即堕ち過ぎない?いえ、こたつが凄いと言うべきかしら。


「フリート、ここで寝ると風邪をひくわよ」

「だいじょうぶ……ねてないです……すやぁ……」


私の膝で丸まって猫のように寝始める我が弟。


微笑ましいけど後で部屋に運ばないといけないわね。


「フリート様はカトレア様にそっくりですね」


そんなフリートの様子に微笑むリナリア。


「そうかしら?」

「そうなんです。誰よりも近くでカトレア様を見てる私が言うので間違いないです」

「それならそうなのかもしれないわね」


実際、私知らない私の事を知ってるのはリナリアくらいでしょう。


私の弱い所も情けないところも見せてしまってるけど、それでも隣に居てくれるリナリアさん……まじ天使ですわ。





「カトレア、入りますよ」


寝てしまったフリートを膝に起きながら、リナリアとこたつを楽しんでいると今度はお母様がライナさんを連れて部屋に来た。


「やっぱりフリートはここに居ましたか」

「フリートに用事ですか?」

「用事って程ではありませんよ。それにしてもカトレアが入ってるそれは何ですか?」

「こたつという暖房器具です。というか、歩いて大丈夫なんですか?」


お母様のお腹はかなり大きくなっている。


来年の頭には新しい家族が生まれるからだろうけど、すらりとしていたお母様が身篭ってる姿はいつ見ても女体の神秘を感じるわね。


「少しくらい動いた方がいいですからね。それにしても……またフリートは随分とぐっすり寝てますね。夜寝れなくなっては困るのですが」


そう言いつつもフリートの様子に微笑むお母様。


「お母様も良かったら一緒にどうですか?」

「良いのですか?」


私というよりも、リナリアに視線を向けるお母様。


リナリアとの憩いの時間を楽しみたかったけど、それは領地の屋敷でいつでも出来る。


リナリアも同じことを思ってるみたいで私に頷く。


「そうですか。ではお邪魔させて頂きますね」


ライナの手を借りてこたつに入るお母様。


お母様用に座椅子なども用意しておいて良かったわ。


「これは温かいですね。フリートが寝てしまうのも分かります」

「みかんも良ければどうぞ」


こたつといえばやっぱりみかん。


お母様に出していいか少し考えたけど確か、妊娠中はみかんは2、3個くらいなら大丈夫と言われてたかしら?


「では少しだけ頂きますね」

「ライナさんも良ければ入ってください」

「あら?よろしいのですか?」

「私は気にしませんよ。ライナは友人みたいなものですから」

「私にとっては大切な義母ですから」

「奥様とお嬢様がそう言うのでしたら」


更にこたつに住人が増える。


お母様がこたつで寝ちゃわないようにだけは気をつけないとだけど、ライナさんが居るなら大丈夫よね。


「カトレア様、みかん剥けました」

「ありがとう、リナリア」


出したみかんを早速剥いてくれるリナリア。


試しに口を開けて待つと、リナリアは少し照れつつも一房取って食べさせくれた。


甘くて美味しい。


「誰に似たのか貴女は大胆ですね」


親の前で堂々とラブラブする私の様子に少し呆れ気味な様子のお母様。


「お父様とお母様の子供ですから」


そう言って更にリナリアに食べさせてもらう。


ちなみにみかんの白い筋は取ってなかったりする。


私は平気だしね。


栄養もあるとか聞いた気もするし、それにリナリアから食べさせてもらってるだけでみかんの甘さが何億倍にもなるから恋の力は凄まじいわね。


「リナリアさん。甘えん坊な娘ですがどうかこれからもよろしくお願いしますね」

「も、勿論です!生涯お傍におります!」


お母様公認&リナリアの言質が取れてしまった。


ふふ、今日はいい日ね。


「あら、奥様。うちの子もかなり甘えん坊なんですよ。こないだもカトレア様のお膝で幸せそうに寝てしましたし」

「お、お母さん!なんで知ってるの!?」

「あら、適当に言ったのに当たってたのね」

「はぅ……」

「ダメですよお義母様。リナリアをからかうのは私の特権なんですから」

「それもそうですね」

「うぅ……二人とも酷いです……」


そう言いつつ満更でもなさそうなリナリアたん。


可愛いのぅ。






「折角ですし、夕飯はここで食べますか?」


私達だけイチャイチャするのはアンフェアだろうと、お父様を呼ぶためにそんな事を言ってみる。


「ここでですか?少しお行儀が悪い気もしますが……たまにならいいかもしませんね」


ふふ、流石お母様。お父様が来るかもと思うとチョロくなりますなぁ。


「では、私が呼んできますね」

「いえ、リナリアはカトレア様の傍に居なさい。今離れたらカトレア様が寂しがるわよ」


そう言ってライナさんがこたつから出て、部屋をあとにする。


きっと料理の配膳とかの兼ね合いもあって行ってくれたのだろう。


それと、私の気持ちを汲んでくれて本当に優しいお義母様です。




リナリアとお母様、膝のフリートとしばらくのんびりしているとお父様が部屋へとやってきた。


「……カトレア。それは?」

「暖房器具です。こたつと申します」

「……そうか」


新しい暖房器具の魔道具だと分かりはしても、まだ良く状況が理解出来てなさそうなお父様。


「お母様の隣にどうぞ。今夜はこちらで夕食にしたいのですが……ダメでしょうか?」

「いや……構わない」


そう言って、自然とお母様の隣に座るお父様。


嬉しそうなお母様が微笑ましい。


それにしても公爵家とは思えない光景だなぁ。


まあ、ウチは特殊だから本来は違うのでしょうけど、この家に生まれて本当によかったと心から思ってます。


「アザレ。体調は大丈夫か?」

「はい、問題ありません。心配してくださりありがとうございます」

「気にするな。私がお前を気遣うのは当然だ……最愛の妻だからな」

「旦那様……」


おっと、イチャイチャが始まりましたね。


フリートが寝てるのが好都合と働きましたか。


「リナリア、もう一つみかんいいかしら?」

「勿論です、カトレア様。でも食べすぎると夕飯が入らなくなりますよ?」

「平気よ。リナリアが食べさせてくれる分は別腹なのよ」

「もう……調子がいいですね」


そう言いつつも満更でもない様子でみかんを食べさせてくれるリナリア。


特別胃袋が大きい訳でもないので、食べ過ぎは良くないけどイチャイチャしてるお父様達の邪魔をしないで私達もイチャイチャするのも悪くない。


「カトレア様。なんていうか……こういうのいいですね」

「そうね」


こたつに入って和気あいあいというのも悪くないわね。


「二人きりは向こうに行ってからになるかしら」

「それも素敵ですが……私とリナリア様の子供ともこうして過ごしたいですね」

「……そうね」


ナチュラルに出てくる私たちの子供というワードでキュンとしてしまう不覚。


リナリアは天然で翻弄しますね。


そんな感じでリナリアとお父様、お母様と過ごしていると、不意にフリートが起きる。


それと同時にノックしてライナさんが料理と入ってきた。


今夜は鍋のようね。


美味しそうだわ。


「カトレア……ありがとう」


そうぽつりと言うお父様。


私こそ、ありがとうございます。


そう返して和やかに夕食を囲む。


たまにはこういうのもいいわよね。


隣にいるリナリアによそって貰って食べる鍋は格別でした。

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