第43話 カトレアさん、13歳になる
前日よりはややご機嫌ななめ気味だが、デートするには悪くない天気になりそうな本日。
リナリアとのデートは予定通りすることになった。
最近はかなり涼しくなってきてるので、秋物の服で決めてみたけど、こうして鏡を見ていると、私の頑張って気合を入れたオシャレよりもリナリアから前の領地デートで貰ったネックレスの方に目がいく。
「ふふ、やっぱりいいわね」
氷のような神秘的な色合いが実に気に入ってるけど、何よりもリナリアからの贈り物は私にとっては全部大切な宝物なのでこうして見てるだけで思わず笑みがこぼれてしまう。
「さて、そろそろね」
いつまでも見てられるネックレスからなんとか視線を逸らして、時刻を確認。
そろそろ待ち合わせの場所に行くために身だしなみをチェックしてから出来るかぎり優雅に向かう。
待ち合わせ場所に行くと、今回はリナリアの方が先に着いてたのか私を見て笑みを浮かべて手を振ってきた。
「ごめんなさい、待たせたかしら?」
「私も今来たところです」
めちゃくちゃ恋人っぽい会話よね。
凄くいいなぁと思いながらリナリアの本日の装いを確認。
清楚なリナリアにピッタリな淡い色合いの服でめちゃくちゃ可愛いのは勿論、更には私が前に贈ったネックレスを付けてきてくれていてさらにグッとくる。
「今日もリナリアは可愛いわね」
「はぅ……。か、カトレア様もとってもお美しいです。それに……付けてきてくれたんですね」
「勿論よ」
お互いに領地でのデートで贈りあったものを付けてきたのに気が付き、思わず笑みがこぼれる。
「リナリアの贈ってくれたこれ、凄く気に入ってるわ」
「ありがとうございます。私もカトレア様の贈ってくださったこのネックレス凄く大切にさせていただいてます」
照れながらはにかむリナリア。
可愛すぎてついつい頭を撫でてしまう。
「か、カトレア様?」
「ごめんなさい。リナリアが可愛いこと言うからついね」
「もう……カトレア様は狡いですね」
そう言いつつも満更でもなさそうなリナリア。
めちゃくちゃ可愛くて更に色々したくなるけど、焦ることはないと自分を落ち着かせる。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
そっと手を差し出すと、リナリアが控えめに握ってくる。
そんな些細なことさえ愛おしい。
本日も可愛いを有難うと心からリナリアに感謝しながら二人で屋敷の外へと向かう。
ちなみに毎度の事ながら待ち合わせは屋敷の中なので、使用人さん達には見られてたようだけど……まあ、私達のラブラブ具合は知れ渡ってるし今更よね。
転生レオンの支配力の賜物か、年々王都は活気に満ち溢れてきており、私が少し領地に目を向けてる間にも更にあっちこっちを弄っていたのか、都市開発が進んでる様子だった。
公園なんかも出来てるし、弟のためにどれだけ頑張ってるのやら。
「なんだかまた色々新しいお店が増えてますね〜」
あちらこちら新しいお店に目移りしながらも、リナリアと歩いているけど、本当に知らないお店が多いので歩いて回るだけでも中々楽しそうね。
「そうね。リナリアは気になるお店あるかしら?」
「そうですね〜、あ、あそこのお店はどうですか?」
リナリアの指す先を見ると、そこはどうやら花屋さんようだ。
「あら、面白そうね」
折角だし後でリナリアに渡す様に見繕っておこうかと二人で入店する。
清潔感のある店内にはこの時期には見かけないはずの花もあって少し驚く。
そこまで私も花に詳しい訳ではないけど、リナリアのために色々調べているので何がどの時期に良さげかくらいなら分かる。
「この時期にミモザやチューリップがあるんですね〜」
「確か春先の花よね?」
リナリアも花は好きな方で勉強もしてるのか、この時期にはない花に首を傾げていると、優しそうな店員さんが色々と説明してくれる。
なんでも実験的に魔法なども使って温室栽培なども進めており、少量なら時期外の花も取り扱い初めたらしい。
……そういえば、かなり前に花の温室栽培向きの魔道具の依頼を受けたことがあったわね。
とんと忘れてたけど、私は過去を振り返らない女だから仕方ないわよね。
限定的にリナリアのことだけは過去も未来も興味津々だけどね。
リナリア最高!
「いくつか見繕ってくれるかしら?」
「分かりました。ご家族用ですか?」
「ええ。とってもラブラブな夫婦向けにお願い」
「あ、私もお母さんに買ってきたいです」
「じゃあ、そちらもお願い」
「分かりました」
花はプロに任せるべし。
普通に持つと嵩張るけど、私には空間魔法があるので作ってもらった花束を亜空間にしまっておく。
こういう時、本当に便利よね。
「ふふ、可愛いですね」
白いコスモスの花を見ながら微笑むリナリア。
確かコスモスの花言葉は……純潔だったかしら?ピンクが純潔で白が優美だったかしら?
どれもリナリアに似合いそうだけど、私は他にもっと似合うのを見つけたので密かに買っておく。
後で渡すのが楽しみね。
「ふぅ……美味しかったですねぇ」
「そうね」
花屋の後も色々と見て回ってから、お昼を食べて私とリナリアは新しく出来ていた公園へと足を運んでいた。
「まさか猫ちゃんのプリンがあるとは思いませんでした。今度作ってみますね」
「あれは可愛かったわね」
猫プリンと言っただろうか?
子猫型のプルンとしたあのプリンが揺れる度にリナリアがめちゃくちゃ可愛いリアクションをしていて、そちらにばかり目がいってたのだけど、それでもあれはちょっと驚いたわね。
「猫可愛いですよね。カトレア様もお好きでしたよね?」
「ええ、可愛いものは好きよ。リナリア含めてね」
「もう……私はそんなに可愛くないですよ」
「そんな事ないわよ」
むしろ可愛いが形を成したのがリナリアと言っても過言じゃないわね(確信)。
「私にとってはリナリアは可愛くて優しい大好きな婚約者よ」
「はぅ……で、でも可愛いのはカトレア様もだと思います!」
「あら?可愛いって思ってくれてるの?」
「勿論です!可愛くて綺麗で凄く素敵な女性で、いつだって優しくて――私はそんなカトレア様が凄く大好きなんです」
……もう、本当に素直の子ね。
「ふふ、ありがとう」
「あっ……はぅ……」
思わず出てしまった言葉に顔を赤くして照れるリナリア。
いいタイミングかしら?
「リナリア。これを」
立ち上がってから、私は空間魔法の亜空間にしまっていたものを取り出す。
それは、先程の店で密かに買ったリナリア用の花束だ。
「私にですか?」
「ええ。受け取って貰えるかしら?」
「……ありがとうございます」
嬉しそうに潤んだ瞳で花束を受け取るリナリア。
「……なんだか、貰ってばかりですね。私」
「そんな事ないわよ。私の方がリナリアには色々貰ってるもの」
「そ、そうですか?」
「ええ。例えばそうね……今この瞬間にリナリアが私だけに見せてくれた笑顔とかね」
そう微笑むとリナリアは顔を赤くして照れてしまう。
ふふ、もう可愛わね。
「こ、これはえっと……ナデシコでしょうか?」
「ええ、そうよ。私の気持ちとリナリアにピッタリかと思ってね」
「私にですか?」
「花言葉は『純愛』私の真っ直ぐなリナリアへの気持ちよ。それに『可憐』リナリアを表してる花だと思ったのよ」
まあ、他にも器用とか才能とか花言葉は色々あったと思うけど、花言葉は送る側と受け取る側に都合の良い意味を選べと先生も言ってたもの。
全然OKよね。
「嬉しいです……カトレア様、本当にありがとうございす」
「喜んでもらえて良かったわ」
「でも、少しだけ付け加えさせてください」
「付け加える?」
「はい。私だってカトレア様のことを……凄く愛してます。だから『純愛』は私も同じです……」
……ああ、もうもうもう!どこまで私を悶えさせるのよ!
リナリアたん可愛すぎ!
思わずリナリアに抱きつきたくなるけど、人目がそこそこあるので大人しく隣に座り直してから、先程よりも密着して座る。
肩を抱き寄せると、リナリアは最初少し驚いていたけど、その後は嬉しそうにこちらに寄ってきた。
今はこれくらいにしておいて、帰ってからもっとイチャイチャすればいいのよね。
人目を気にする必要は無いのかもしれないけど、私はリナリアの気持ちを大切にしたい。
人前で大胆すぎる行動もたまにならいいけど、毎度はリナリアも心が落ち着かないだろうし、この我慢も時には必要ということね。
そんな風に本日のデートも大変有意義でございました。
リナリアさんマジ天使。
ーーー
秋を過ぎようとする頃。
私は13歳の誕生日を迎えていた。
暦的には11月ってことになるのかしら?
秋と冬の中間地点が今世の私の誕生日だ。
前世の私の誕生日は確か……3月だったかしら?
祝ってくれたのが親友の瑞穂くらいだったから、言われるまで忘れてたりもしたけど、瑞穂のプレゼントは毎度かなり嬉しかったのを覚えてる。
私が前世で亡くなったのが多分高校一年生の15歳の頃だったから、今世は16歳を迎えたいものね。
あと3年、意地でも生きるけどね。
リナリアと天寿を全うするのが今世の私の密かな野望だったりする。
「カトレア様、とっても綺麗です!」
そんな野望はさておき、私は現在リナリアの着せ替え人形となっていた。
これでも公爵家の令嬢で、子爵家の当主なので誕生日はそれなりに盛大にやらないといけない。
そんな私を飾り付けてくれるのがメイドさんモードのリナリアだ。
リナリアってば、いつも以上に張り切って私を着飾ってるけど、私もリナリアを着せ替えしたいという密かな野望をいつかは叶えたいものね。
婚約者となってからも、リナリアは私の侍女さんとしての仕事を凄く楽しんでいる。
お世話されまくってるけど、リナリアが楽しそうだし文句は全くなかったりする。
そのうち確かに私が当主の家のアンスリウム子爵夫人となる時がくるのだけど、リナリアはそのための勉強も頑張ってくれてるし、リナリア的には私のお世話が何よりも楽しいようなので素直にお世話されるのが良いと判断してる。
いいえ、言い訳ね。
私はこれでもそこそこダメな子な自覚があるので、リナリアにお世話されないと落ち着かない時があるのよね。
もっと頼りがいのあるカトレアさんで居たいけど、公爵令嬢カトレアさんの姿としては間違ってないと思うわ。
「カトレア様はスタイルがいいので、どんなドレスも似合いますね」
「そうかしら?」
「そうなんです!背も高くて手足も長くて、何を着ても凄く似合うんです!」
めちゃくちゃテンションの高いリナリアさん。
「それにこの綺麗な長い銀色の髪もとっても素敵です。あぁ、本当にどんな髪型がいいかも凄く迷いますね〜」
母親譲りの銀髪はリナリア協力の日頃の手入れでそこそこ自信はあるけど、私としてはリナリアのふわふわした綺麗な金髪の方が見てて楽しかったりする。
長くしても似合いそうだけど、リナリアは動き回るからかセミロングくらいで毎度きっているみたいね。
それも凄く好きだけど、そのうちロングのリナリアさんも見てみたいものだわ。
「ちょっと失礼しますね」
……まあ、それはそれとして、リナリアさんちょっと無防備すぎでは?
私相手とはいえ、めちゃくちゃ体寄せてるし、さっきなんて柔らかいリナリアのリナリアに挟まれたし、顔だってめちゃくちゃ近づけてきて私ドキドキが凄いのよ。
リナリアが楽しんで私を着飾ってるのを知ってるので邪な気持ちは抱かないようにしたいけど、私だって好きな人に密着されて我慢できるほど大人ではない。
なので悪戯したくなるけど……リナリアの真剣な楽しそうな様子を見て何とか思いとどまる。
「カトレア様、リナリア。そろそろ時間ですよ」
そんな私の葛藤を見越したようにやって来たのは、お母様に取られてしまったリナリアの母親のライナさん。
「えっ?もうそんな時間ですか?」
「やっぱりまだ迷ってたのね。リナリアはカトレア様のことになると時々抜けてるから手伝いに来て正解だったわね」
「もう、お母さんったら」
仲睦まじい親子の様子にほのぼの。
「あら?カトレア様また胸が大きくなりました?」
「お母さん!」
「あらごめんなさい。カトレア様のお胸はリナリアのものだものね」
「ちがっ……くないけど……」
違くないんだ。うん、そうよ。この胸はリナリアのみに見せるわ!
なんだったら悪戯されても全然いいけど……リナリアは無垢な子だからそんな事しないのよね。
そこが可愛い所でもあるんだけど。
「そうね。私の全てはリナリアのもだし、リナリアの全ては私のものよね」
「ふぇ……!?か、カトレア様……」
「あらごめんなさい。つい本心が」
「うぅ……嬉しいですけど時間が押してるで仕上げにいきます!」
照れをなんとか建て直して私の仕上げにかかるリナリア。
それを横目で眺めつつ、ついでにライナさんの補助も受けてカトレアさん戦闘フォーム(パーティ用)は完成するのだった。
さて、頑張ってきますか。
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