第42話 お詫び(ご褒美)のデート

天気の良い日の午後。


久しぶりに時間が出来たのでお母様とお茶を楽しむ。


「お母様、体調は大丈夫なんですか?」

「ええ、落ち着いてますよ。カトレアこそ、最近色々と大変そうだけど大丈夫ですか?」

「問題ないです。皆さん優秀ですし、それにリナリアが隣に居てくれますから」

「そう。でも何かあったら必ず頼りなさい。私も旦那様も貴女の味方ですからね」


相変わらずお優しいお母様だ。


年々母性が増してる気がするけど、お母様が魅力的になってくのはやっぱりお父様に愛されてるのも大きいのかしら?


私もリナリアをもっともっと愛したいものだ。


「それにしても、ライナさんまた腕上げました?」


今日のお母様とのお茶を淹れてくれたのは、リナリアではなくリナリアの母親のライナさんだったりする。


私自身、最近はリナリアからのお茶しか受け付けなくなっていたんだけど、久しぶりに味わうライナさんの腕前は相変わらず大したものだ。


いえ、むしろ前よりも上がってるようにみえるわね。


「ふふ、まだまだ娘には負けませんよ。まあ、カトレア様は娘の淹れた方がお好みでしょうが」

「こればっかり愛情の差というのもがありますからね。でも流石はお義母様です」


最初に雇ったのは私なのにいつの間にかお母様に取られちゃったけど、これだけ信頼できる人がお母様に付いてくれてるのは有難い。


他の使用人さん達も信用出来るけど、ライナさんはリナのお母さんなので余計にそう思うのかもしれない。


「カトレア様にそう呼ばれるのはやっぱりまだ慣れませんね」

「そうですか?私は見てて少し楽しいですよ」

「アザレア様もリナリアにそう呼ばれれば多分分かりますよ」

「そういえばまだ呼ばれたことがありませんね」


まあ、お母様は公爵夫人だし、リナリアがそう呼ぶのは中々ハードル高いわよね。


「カトレア、リナリアさんとは仲良くやれてますか?」

「お母様達に負けず劣らずラブラブしてますよ」

「か、からかうんじゃありません。もう……」


そう言いつつ満更でもなさそうなお母様めっちゃ可愛い。


そんな可愛い母の様子にほっこりしてから、ふと私は相談したいことがあったのを思い出す。


「そういえば、お母様とお義母様に相談があったんです」

「相談ですか?私とライナに」

「ええ。女同士の相談というやつです」

「珍しいですね。話を聞かせて貰えますか?」


そのお言葉に甘えて、私は二人に聞いてみることにした。


「では。もし二人が最近のお詫びだと言って埋め合わせのデートに誘われたらどこに連れて行って貰いたいですか?」

「……カトレア。分かってますがそれは真面目な相談なんですよね?」

「勿論です。大真面目です」


なんか覚えるのやるやり取りだったけど、私はいつだって本気ですよ。


まあ、こんな事を聞いたのはここ最近リナリアには心配ばかりかけていたし、おのお詫びというか埋め合わせというか、そういう邸で私がデートしたいだけなのだが、それについて軽く意見が欲しかったりしたので聞いてみた。


「そうですねぇ……私なら合法的にイチャイチャ出来る場所ならどこでも嬉しいですね」


ライナさんはそれ程迷うことなくそう答える。


「合法的ですか?」

「デートならどこでも嬉しいですが、やっぱり触れ合ってこそですからね」


リナリアよりも積極的な意見な感じだけど、何となくライナさんらしい答えだった。


うんうん、参考になるわねー。


「お母様はどうですか?」

「私はそうですね……」


しばらくの逡巡の後に、お母様はポツリと答える。


「……場所よりも、思い出に遺ることをして貰いたいですね」

「なるほど。具体的にお聞きしても?」

「それは……その……例えば、こういつもよりもギュッてして貰ったり、相手に自分の物みたいに首筋とかに口付けを……」


赤くなりつつそんな事を話してから、ハッとして「な、何でもありません。忘れてください」とお茶を飲んで誤魔化すお母様。


……うん、やっぱり私とお母様は親子ですね。


考えてることが結構似てる気がする。


それはそれとして、さりげなくお父様にして貰えるように手を回しておくのも忘れないでおこう。


「アザレア様は可愛いですね」


コソッとお茶のお代わりを注ぎつつ、私にそう耳打ちしてくるライナさん。


「自慢のお母様ですから」


そう私もそっと返す。


何だかんだでお母様とライナさんが仲良しなのも分かって悪くないお茶の時間でした。


でも、そっか、場所よりも思い出か……そして合法的にイチャイチャもいいわね。





お父様の執務に部屋に行くと、お父様が珍しく深く考え込んでるポーズをしていた。


仕事中にそんな事をしてるのは初めてだけど、とりあえず目に隈が出来たので回復魔法をかけてお話を聞くことに。


「名前ですか?」

「……ああ。そうだ」


少し疲れの取れたお父様が小休憩を挟みつつ考え込んでたのは新しく産まれてくる家族の名前だった。


そういえば、フリートの時もかなり悩んでたわね。


「……アザレアは任せると言ってくれてるが、子の名前というのは難しい」


男女でそれぞれ考えておく必要もあるし、何よりも名前というのは子供にずっと付いて回るもの。


お父様としては色々考え込んでしまって煮詰まっていたようだ。


お父様らしいけど……


「他にも何かお心にあるのでは?」


何となくそんな気がして問うと、お父様は少し驚きつつもこくりと頷いた。


「……フリートの婚約者についてだ。父上経由で縁談が来はじめた」

「それはそれは」


私にとっては祖父母にあたるのかしら?


私が生まれた時とフリートが生まれた時に一度だけ顔を見せに来てたみたいだけど、フリートの時は私会えなかったのよね。


転生レオンの急な使いっ走りで。


顔は覚えてるけどあんまり話した記憶がないので、時間があったらお話してみたいものね。


「断りにくい方だったりするのですか?」

「……最近、我が国と交流が増えてきたガルガット王国の第3王女様だと聞いてる。歳もフリートとそう違わないらしい」


ふむふむ。


ガルガット王国は聞き覚えがあるわね。


主に転生レオンからだけど。


「……まだ先の話だが、一度会わせる機会を作るつもりのようだ」

「心配ですか?」

「当然だ。フリートはまだ三歳。急いで決めるには早いと私は思ってしまう」


とはいえ、これまでと違って避けて通るには大き過ぎる相手なのでフリートのことを考えると迷ってしまってるようだ。


貴族の子供の婚約者が幼いうちに決まることは珍しくない。


下手したら生まれた時に決められることもあるそうだけど、お父様は出来るかぎり利害関係などよりも、子供のことを考えて決めたいと考えているのだろう。


本当に不器用ながら優しいお父様だ。


「お父様のお気持ちも分かります」

「……ああ」

「私も可愛い弟の婚約者ですから色々考えてしまいますが、会ってみての相性というものもありますし、受けてみてダメそうなら私達が全力でフリートを守りましょう」

「カトレア……ああ、そうだな。すまない。だが、無理はするな」


そう言ってから、まだ慣れないように手をゆっくりと私の頭の上に置くと、お父様は不器用ながら薄く笑みを浮かべて言った。


「お前が強いのもよく知ってる。だが、それでも子を守るのは親の役目だ。お前が巣立つまでは、せてめ私にお前達を守らせてくれ」


きっと、お母様なら赤面してキュンとしてるくらいにはカッコイイお父様。


何だかんだと色々迷惑ばかりかけてる娘なので親孝行させて欲しいのだが……お父様のその気持ちも嬉しいので黙って頷いておく。


でも無理はして欲しくないのでそこら辺はちゃんと言っておく。


それに、私もお姉ちゃんとしてフリートには幸せになって欲しいしね。


若干の転生レオンの裏工作の気配を感じなくもないが、その王女様がフリートと上手くやれるかどうかは会ってみないとだし、決めるのはお父様とフリート自身だ。


私はそれを応援しつつ、いざと言う時に家族を守れるように転生レオンに貸しを作り続けるとしよう。


あの腹黒ブラコンも上手く使えば役に立つしね。





ーーー



「リナリア、デートに行きましょう」


その日の夜、私は寝る前にリナリアをデートに誘ってみた。


「デートですか?勿論です!それでいつですか?」

「明日よ」

「分かりました。頑張ります!」


何をどう頑張るのかは分からないけど、かなり急なスケジュールでも嬉しそうに受け入れてくれて本当にリナリアったら天使すぎ!


まあ、明日のリナリアの予定が大丈夫なのは分かってたけど誘う時ってやっぱり勇気がいるものね。


誘えて内心ちょっとホッとしていると、リナリアがふと聞いてきた。


「そういえば、お母さんが言ってましたけど、フリート様の婚約者が決まりそうというのは本当なんですか?」

「まだ話だけだけどね」

「ふぇー。まだ小さいのに凄いですねぇ」


まだ三歳なのに婚約というのは確かによくよく考えなくても凄いわよね。


まあ、まだ決まってなくてあくまで話だし流れる可能性の方が高いとは思うけど、転生レオンが噛んでたらちょっと厄介ね。


何にしてもフリート次第というところかしら。


「私達の子供もフリート様くらいになったらそんな話がくるのでしょうか?」


……不意にそんな事を言われてちょっとドキッとしたのは内緒ね。


「大丈夫よ。私とリナリアの子供だもの。何なら私みたいに自力で好きな人見つけてくるわよ。それにしても……私達の子供のことまで考えてくれてるのね」

「はぅ……も、勿論です。私はカトレア様と添い遂げて、こ、子供も欲しいですから……」


……あぁ、本当に可愛い子ね!もう、また発作的に可愛がりたくなっちゃうけど、なんとか理性を明日まで保たないと。


「そうね。私もリナリアと添い遂げて子供も欲しいわ。でも、少し悩んじゃうわね」

「な、悩みですか?」

「ええ。こうしてリナリアと婚約者として過ごす時間も凄く幸せだし、結婚してから子供が出来るまでリナリアを一人占めしたいって気持ちも凄くあるのよ」


更に本音を言えばリナリアをずっと一人占めしたいという気持ちもある。


私ってかなり面倒くさくて重い女よね。


分かってるけど、それでもそれだけリナリアのことを愛してるし一人占めしたいって思っちゃう乙女心も仕方ないわよね。


そんな私の言葉にリナリアは少し赤くなりつつも、嬉しそうにはにかむ。


「私もカトレア様とのこの時間が凄く幸せです。本音を言えばもっともっとカトレア様を一人占めしたいです……我がままでしょうか?」


そう上目遣い気味に聞いてくるリナリアたん。


悶える心を必死に抑えて、私はくすりと余裕のある笑みを浮かべて手を広げた。


「いいえ、私も同じ気持ちよ。じゃあ、今夜は一緒に寝ましょうか」

「い、いいんですか?」

「勿論よ。リナリアと寝ると私もぐっすり眠れるのから是非お願い」

「わ、分かりました。お邪魔します……」


そう言ってベッドに入ってくるリナリア。


添い寝自体は何度もしてるけど、やっぱりお互いベッドに入ってくる時にドキドキしてるのはこの気持ちが消えない限り永遠な気がしてくるわね。


まあ、私がリナリアに冷めるなんて可能性はゼロだけどね。


きっとお互いお婆ちゃんになってもこうして手を繋いで添い寝してるわね。


「えへへ……カトレア様、温かいです……」


そう言って奥ゆかしく距離を縮めてくるリナリア。


リナリアの体温にドキドキしつつも、リナリアの香りで安心する辺り、私もリナリアにかなり深く依存してるわね。


「カトレア様。明日凄く楽しみです」

「ええ、私もよ」

「えへへ」

「ふふ」


なんてことない些細なやり取りが愛おしい。


明日もリナリアを一人占めするのに、今夜も一人占め出来るなんて我ながら凄く贅沢だけど妥協はしないわ。


「リナリア。おやすみ」

「はい。おやすみなさい、カトレア様」


少しづつやってくる睡魔と一緒に、そっと口付けを交わしてお互い照れながらゆっくりと瞼を閉じる。


ダイレクトに感じるリナリアの肌と体温にドキドキと安心感が同時に増すけど、やっぱりこうして好きな人と寝るのは凄く落ち着く。


ドキドキはするし、緊張だってあるのでしょうけど、それ以上にリナリアのそばに居るだけで自分でもびっくりするくらい安心感に包まれる。


今夜もよく眠れそうね。


そんな事を思いながらリナリアの寝顔を薄目で眺めながら私も眠りへと落ちていく。


リナリアに包まれながら、リナリアと寝るこの幸せ……プライスレス。


なお、翌日起きたらリナリアが私を抱きしめていたので更に贅沢を堪能できるのだが……この時の私はそれを知る由もなくゆったりと眠っているのだった。


ラッキースケベ?いいえ、自然なスキンシップよ!


嬉しいからどっちでもいいけど、線引きは大切よね。

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