第3章

第41話 報告と依頼

「ドラゴンの次はクラーケンか。大したご活躍だな」


報告のために王城に出向き、転生レオンの元に行くと何とも楽しげに転生レオンは黒い笑みを浮かべる。


「これはいよいよ本格的に英雄として売り出す方が良さそうかもしれないな」

「既に王都では売らてますが」


そう言いながら、先程王都で買った『白銀の氷姫推薦、英雄クッキー』なる商品を渡す。


「私、まるで関わってないに知らない間に推薦されてたんですが」

「ああ、俺が指示したからな」

「やっぱりですか」


度々、私関連のグッズが出てるのは知ってたけど、『私推薦』とか、『私印』辺りはほぼ100パーセント本人が関与してないので詐欺よね。


「きちんとお前の許可は貰ってるだろ?まあ、かなり前の契約書だが」

「サインした後で気がついたやつですね」


これでも契約書や書類関連はしっかりと見ている私だけど、転生レオンの巧みな手口で『私関連の所有権の一部を転生レオンが指示できる』なる条文を遠回しに、他の重要案件に挟むように書かれたので、サインして見返して初めて気がついた程だ。


「殿下は、将来詐欺師が向いてますわよ」

「それはそれで面白そうだな。ただ、やるならド派手なものがいいか。どうせなら歴史に残る大犯罪を起こして、諸悪の根源の俺を愛する弟に倒させて、弟の偉業の礎になるのも悪くないな」


絶対、本心が混じってそうで本当に恐ろしい。


ブラコンで腹黒とか救いようがないわね。


単体なら許せても、合わさるとこうも面倒だとは今世まで知らなかったわ。


「それで、ご報告は必要ですか?」


出向いておいて何だけど、転生レオンのネットワークを駆使すれば私の領地での出来事くらい詳細に把握してそうなのでそう問うと、ニヤニヤしていた転生レオンが我に返って答えた。


「まあ、一応な。ある程度は知ってるし報告も得てるが、やはり当事者からの話は貴重だからな」

「そうですか。では手短に」


クラーケンの討伐について、私は話せる範囲のことを話した。


水の精霊、サラーキアに関しては伏せたけど。


というか、私が水の精霊に会ったという話はリナリア以外には誰にも話していなかった。


サラーキアが口止めをした訳でもないけど、切り札とも言えるそれをわざわざ漏らす訳にもいかないし、リナリアだけに話したのはリナリアには可能な限り、隠し事をしたくなかったからだ。


まあ、必要なら隠し事もするけど、リナリアには私の嘘なんてすぐにバレるので可能な限り隠し事はしないに限るわよね。


「屋敷の完成したその日にクラーケン出現か。ドラゴンの時はデートだったか?つくづくトラブルに愛されてるようだ」

「ご冗談を 」

「本心だがな。しかし、今回の件も残念なことに自然現象ではないようだな。クラーケンをわざわざ連れてきた連中がいるみたいだ」


そう言いながら、資料を投げてくる転生レオン。


軽く目を通すと、そこには各地にて、不審な動きをする船を見かけた目撃情報が書かれていた。


「調べさせたが、かなり大きな連中のようだな。大陸中に根を張ってるみたいだから処理に少し時間がかかるかもだが、そこはそれ程問題じゃない」

「と言いますと?」

「なに、元から目星はつけてたからな。内情を探るためにスパイを送り込んでたんだ。まあ、クラーケンの件はお前が倒した頃に入ってきたんだがな」


相変わらず手が早いものだ。


流石腹黒ブラコン。


出来ればもっと前にその情報をくれてたら楽だったのだけどね。


「現段階で三割ってところか。今年中には八割の情報を絞れるだろうが、可能なら先に掌握しておきたいな」

「そちらはお任せしますわ」

「そうだな。役割分担というのは大切だ」


そう言って実にわざとらしい笑みを浮かべてくる転生レオン。


正直凄く気持ち悪い。


同時に凄く嫌な予感を覚える。


「失礼。家人が待ってますので私はこれで失礼致しますわ」

「まあそう急くな。せっかくだ、ゆっくりしていくといい」


チリンと転生レオンが鈴を鳴らす。


見覚えのある鈴だった。


というか、前に私が作った魔道具よね。


一見普通の鈴だけど、かなり便利なもので半径五キロ圏内の記憶した対象に大してのみ聞こえるように設定できる優れもの。


「失礼します」


本格的に本能がここを直ちに去れと告げてるので、部屋を出ようとすると、呼んで間もないのに部屋に入ってくる人物が一人。


城では見たことない女性。


「紹介しよう、彼女はグレマ」

「殿下の恋人でしょうか?」

「残念だが違う。居たとしても紹介はしないがな」

「それは残念」


元婚約者に対して冷たいものだ。


「思ってもないことを考えるフリはやめておけ」


思考を読まないで欲しい。


私の思考を読んでいいのはリナリアだけよ!


……重いかな?でも、私はリナリア命だから仕方ないわね。


「さて、グレマ。『白銀の氷姫』殿は快く君の願いを聞いてくれるそうだ。是非とも頼ってくれと言っている」


下らないやり取りなんて捨てて転移で去れば良かったとこの時点で少し後悔が出てくる。


何の説明もなしに知らないことへの快諾をさせられてる私は便利な女扱いすぎじゃないかしら?


私を便利に使っていいのはリナリアだけなのに。


「歴史に名を残す英雄として、君の発明を共に見届けたいそうだ。なぁ?」


なぁ?じゃないんよ。


でもここで引くのはアンスリウム公爵家の娘としての外面と何よりも家族への些細な悪評に繋がっても困るし仕方ないわね。


「ええ、とても興味があるわ。殿下も国をあげて協力すると仰っていたし、『自分に出来ることなら何でもする』とも仰っていたもの。是非詳しいお話を聞きたいわ」


やられたらやり返させるのは自然の摂理。


そう言ってとりあえず更に何の説明もない発明とやらに融通が効くように皮肉を混じりに言うが、外面の良さを一切乱さないから見ててつまらないわね。


見るならやっぱりリナリアよね!





グレマと名乗る女性は研究者であり発明家らしい。


「最初はちょっとした興味本位の暇つぶしだったんです。知り合いが媚薬の効き目に悩んでて、それでこの道にきまして」


サラリと出てくる媚薬というワード。


私だって淑女だから言葉に出すのは少し恥じらうかもしれないのに、なんて事ない風に言えるその姿に少しカッコ良さを感じるわね。


「この世界は面白いことに満ちてます」

「そうね。それには同感ね」


リナリアと居るだけ世界が違って見える。


色鮮やかに映る世界は本当に素敵だし、ずっと守りたいもの思えるもの。


「分かって頂けますか!流石カトレア様です!」


そんな風に全く意味合いの違う捉え方で同意すると凄く嬉しそうに食いついてくるグレマ。


ちょっと申し訳なくなるけど、気にしたら負け。


「まだまだ知らないことがこの世界には多くて、知れば知るほど私は無知だと気付かされるんです」

「そうね。何事もそれの繰り返しですもの」

「特に私は魔法が使えませんから、余計にそう思うんです」


あら?やっぱりグレマは魔法使えないのね。


魔力の感じから何となくそうかと思ってたけど、だとしたら私何の協力をお願いされてるのかしら?


魔法しか協力できなさそうだけど。



「既に殿下からお聞きになってるとは思いますが、今一度お願いします。カトレア様、どうか私と一緒に『空を飛ぶ乗り物』と『最高の媚薬』の発明をしてくださいませんでしょうか」



……空を飛ぶ乗り物?最高の媚薬?


前者は確かに転生レオンからしたら何かしら悪用したいのが透けて見えるけど……最高の媚薬とは?


分からないけど、響きだけでちょっとえっちに思える私はお子ちゃまよね。


「ええ、勿論よ。その素敵な発明、是非ともお力添えさせて頂くわ」

「あ、ありがとうございます!」


ともかくやる事はなんとなく分かった。


魔法を使わない、空を飛ぶ乗り物……気球とか飛行機とかヘリコプターとかその辺を作るのと、最高の媚薬?とやらの研究発明ってことね。


私に出来ることそんなになさそうだけど、魔法無しでリナリアと空の旅も悪くなさそうだし、最高の媚薬とやらはラブラブなお父様やお母様にプレゼントしたり、将来お世話になるかもだし興味が無いことも無いもの。


出資とかはどうせあの腹黒ブラコンが何とでもするでしょうし、リナリアとの時間を削らない程度に協力してもいいかもしれないわね。


それはそれとして、転生レオンには依頼料としてまた色々要求するとしましょう。


使えるものは使わないとね。




ーーー




「カトレア様、どうぞ」

「ええ、ありがとうリナリア」


屋敷で飲むお茶は格別だ。


それも愛してるリナリアが淹れるだけでその美味しさの次元が何億倍にもなるから愛って凄いわよね。


「あら?今日のはダージリンかしら」

「如何でしょうか?」

「ええ、とっても美味しいわ。流石ね」


最近は紅茶以外の飲み物が増えてきたので飲む機会は少し減ったとはいえ、やっぱりリナリアの淹れてくれた紅茶はどれも凄く美味しい。


「少しでもカトレア様のお疲れが和らげばと思いまして」


しかも私のことを慮ったこの言葉が心から出てくるのだから本当に大好き!


それにしても。


「私、疲れてるように見えたのかしら?」


実の所、疲労が全くないという訳ではなくて、ちょっと気だるさというか若干の面倒くささはほぼほぼ転生レオンのせいなのだろうけど、それでも人に分かるようには表に出せてない自信があったのだけど……リナリアには通じてなかったわけね。


「カトレア様は何でも出来るので色んな方から頼られます。そんなカトレア様が私は大好きですが……私の前ではもっと肩の力を抜いてください。私はまだまだ未熟で何の役にも立ちませんが……それでも、カトレア様の一番近くでカトレア様を支えたいです」


――あぁ、もう!本当に健気で可愛いことを言うわね!


私は思わずリナリアを抱きしめていた。


「か、カトレア様?」

「ごめんなさい。リナリアったら、私の心を掴むことばかり言うからつい可愛がりたくなっちゃったの」

「か、可愛が……はぅ……」


照れつつも満更でもなさそうに受け入れるリナリアさん。


もうもうもう、本当に愛おしすぎる!


食べちゃいたいくらい可愛いって、猟奇的だと思ってた頃もあったけど愛おしさが上限突破すると確かにそんな奇行に走るのも納得のレベルね。


「でも一つだけ間違ってるわよ、リナリア」


可愛がりたくなる衝動をなんとか少し抑えて、間違いを訂正しておく。


「未熟で何の役にも立ってないっていうのは違うわ。リナリアは私をずっとずっと動かしてくれる原動力なの。私は貴女が居るから頑張れるの。だからもっと自信を持って私の隣に居てくれればいいのよ」

「カトレア様……嬉しいです」


うるっとしてそう微笑むリナリア。


そんなリナリアが可愛すぎてついつい悪戯をしたくなっちゃう私は意地悪なのかしら?


でもこれだけ近くにいて癒しを貰っておいてもっとを求めるなんて贅沢……うん、してもいいわね


だって私たちは婚約者なのだから。


私はそっとリナリアの頬に口付けをすると、首筋にも軽い口付けをする。


「あっ……」


ちょっと艶っぽい声が出てくるリナリア。


思わず更にをしたくなるけど、ここはクールなカトレアさんでいきたいのでぐっと堪えてくすりと笑って言った。


「今はここだけ。でもこれから先もっとリナリアに私を刻み込むから……覚悟しなさい」


そう微笑むとリナリアは赤くなって照れて俯いてしまう。


やり過ぎかしら?でも、リナリアが悪いのよ。


私の心を掴んでぐちゃぐちゃにするようなことばかり言うのだもの。我慢するのも限度があるわ。


まだ成人前でお互いに婚約者という立場だし、自重するべきなのは十分分かってる。


リナリアの気持ちが何よりも大切なのも分かってるし普段からそれを最優先にしてるけど……こうも可愛いことばかりされると私だってたまには我慢出来なるのは仕方ない。


普段から我慢できてない?まあ、否定はしないわ。


それもこれもリナリアが可愛くて健気で優しいくて、愛おしすぎるからこそだし、私だって好きな人にくらい甘えたくなるのよ。


ドラゴン倒したり、クラーケン倒したり、転生レオン然り、面倒事が続いてるからこそ余計に反動がきてるのもあるかもしれないわね。


そんな風にリナリアとの時間を楽しく過ごすのだけど、私ばかり楽しむのはちょっと狡い気もするし、リナリアにももっと楽しんで欲しいので色々と模索したいところ。


領地を貰って、屋敷も完成して、更に転生レオン経由で新しい仕事も増えちゃったけど……リナリアとの時間を何よりも優先することは忘れないようにしたいわね。


好きな人と過ごす時間を削ってまで仕事はしたくないし、私はリナリアのために生きるって決めてるからね。


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