第36話 屋敷の完成
「主君、いい物がありました」
「あら、松茸ね」
リナリアと焼き芋を堪能してから数日後。
空いてる時間に、アカネとガルドと秋の山へと恵みを貰いつつ探索をしていると、アカネが松茸を見つけてきた。
香りがよくて、前世だと高級品だっただけど、私はそこまでキノコが好きじゃなかったので見るのは初めてだった。
それでも分かるとは、前世のネットとはそれだけ素晴らしかったということなのでしょう。
「嬢ちゃん、こっちも中々だぞ」
「あら、栗に柿もあるじゃない。大量ね」
栗はご飯に入れてもいいかもしれないわね。
柿はそのまま食べたいかも。
何にしても、帰ってからリナリアに渡せば美味しくしてくれるはず。
凄く楽しみね。
「しかし、すっかりこのパーティも慣れたもんだな」
「バランスがいいからでしょうね。拙者としても主君の魔法で動きやすいので助かります」
忍術と呼ばれる特殊な技能を持つアカネは遊撃役が多いけど、察知する力も私とガルドよりも高いので索敵にも長けており実に頼もしい。
そして、何が来ても揺らぐことがない前衛のガルドの存在感は流石はSランクと納得させられるものだった。
「俺もそれなりにパーティを組んだことはあるんだが、いかんせん俺が暴れると連携を取れる奴が少なくてな 」
「ガルドらしいわね」
「その点、嬢ちゃんは動きを見切ってるみたいに援護するから頼もしいぜ」
魔法以外は普通の女の子な私ではあるけど、二人の動きに合わせて魔法を使うくらいなら訳ない。
弓も前世の経験でそこそこ使えるけど、そういえば中学時代に私を勧誘してくれた可愛い先輩は元気かしら?
「アカネ、ガルド少し休憩にしましょう」
「そうだな、この辺なら問題ないか」
「了解です」
無理をすることもないので、適度に休憩を挟むけど、二人の場合はあまり必要のない休憩なので、主に私のためのものであった。
魔法で強化しているとはいえ、普通の体力しかない女の子のカトレアさんに山での探索はそこそこハードだからね。
そんな事情を分かってくれる二人に感謝しつつ、リナリアの作ってくれた愛妻弁当を広げる。
「お、今日のも美味そうだな」
「ええ、二人の分も作ってくれたのよ」
「それはいいな。嫁さんの手料理が一番だが嬢ちゃんの恋人のもいいからな」
「奥方殿のおにぎりは美味しいですからな」
リナリアを褒められて悪い気がしない私。
なお、私用と二人の分で分けて作ってくれた上に、私用のクオリティの高さと愛情度の違いに関しては内心凄く嬉しくなるちょろい私であります。
リナリアさんってば、こういう些細なことでも私を想う気持ちが伝わるから凄い。
「今日のお茶は緑茶よ」
「ああ、あれは美味いよな。どうにも紅茶ってのが苦手だから、緑茶とコーヒーはありがてぇ」
「拙者は紅茶も好きですが、やはり緑茶が一番ですね。ただ、コーヒーは苦いので苦手です。主君とガルド殿はよく飲めますね」
好みは人それぞれとはいえ、二人とも緑茶が好きなのは一致してるので案外お似合いかもしれないわね。
まあ、あくまでパーティメンバーとしてでしょうけど。
ガルドは奥さん一筋だし、アカネは主夫のイメージがある優しさの塊のような男性がタイプのようだから気軽に付き合えるのかも。
私もリナリア一筋だし、その点では二人は悪くない友人と言えるかもしれないわね。
なお、転生レオンは友人とはカウントしたくないのであくまで協力者である。
「慣れれば美味しいわよ。アカネは砂糖とミルクをたっぷり入れたら飲めるかもね」
「それなら何とか飲めそうですね」
「俺はそれは無理かもな。甘ったるそうだ」
「でしょうね。そうそう、今日のおにぎりには佃煮が入ってるそうよ」
「それは是非とも頂かねば!」
「聞いたことねぇけど、美味そうだな」
競うようにおにぎりを食べ始める二人を見つつ、空間魔法の亜空間にリナリアが作ってくれた出来たての味噌汁があったのでそれを用意して二人に振る舞う。
「おお、甘じょっぱくてうめぇな」
「これぞ故郷の味……いいですねぇ」
「このスープも美味いよな」
「味噌汁はやはり外せませんね」
リナリアさんや、本当に貴女は凄いわね。
歴戦の猛者と優秀なくノ一を虜にするその料理の手腕は本当に凄いし、私も既に胃袋を掴まれているので落とされているのよねぇ。
「嫁さんにも食わせてやりてぇな。嬢ちゃん、これのレシピとかっていくらで売ってくれる?」
「普通に無料でいいわよ。そういえば奥さんは体調はどう?」
「ああ、悪阻だったか?少しは落ち着いたみたいだな。子供を産むってのは大変そうだよなぁ。俺は男だから見てることしか出来ねえし、やれる事はやってるが少しは支えになれてればいいんだがな」
私の魔法で無事に妊娠しできたガルドの奥さんだけど、ガルドとしては悪阻で大変な奥さんが心配でもあったのだろう。
色々とあれこれと世話をするけど、むしろ奥さんの方が落ち着いてるらしいので、本当に凄い人なのもかもしれないわね。
「そうして思いやる気持ちが一番嬉しいものよ」
「ですね。しかし子供ですか……拙者も早く相手を見つけて可愛い息子か娘がほしいですね」
「アカネの子供なら忍にするのかしら?」
「本人が望むなら技は仕込みますよ。でも、拙者はこの家業に向いてたから苦にはならなかったですが、やはり子供達には自由に選ぶ権利は与えたいものですね」
生まれた時からアカネはくノ一になるしかなかったけど、元々才能もセンスも、そして何より向いていたというのもあって比較的苦には感じなかったらしいけど、やはり好きな道を目指す自由は欲しかったようね。
だからこそ、子供にはその辺は寛容にしてあげたいというのは悪くないわね。
「そういや、アカネの嬢ちゃんは最近ある店にご執心らしいが、もしかしてそこにお目当てがいるのか?」
「そういえばそんな話もあったわね」
「う……主君だけでなく、ガルド殿にも知られていたとは……」
どこか気まずそうにしつつも、観念したようにアカネは正直に話した。
「実はその……とある喫茶店なのですが、そこの店員の男性が凄くタイプで、思わず……」
通ってしまっていると。
「お相手はいるのかしら?」
「いえ、居ないらしいので是非とも口説きたいものです」
やる気満々なアカネだけど、肉食系なのに不思議と愛嬌を感じるのはアカネだからかしら?
「そうか。まあ、アカネの嬢ちゃんは可愛いから余程相手が変な趣味じゃなけりゃ大丈夫だろう」
「そうね、頑張りなさいアカネ」
「はい!」
何にしても、その前にお腹を満たして探索の続きね。
私はリナリアの愛妻弁当を食べつつもガルドとアカネと会話を楽しみつつお腹を満たすのであった。
探索から数日後。
ついに待ちに待った私の領地の屋敷が完成したとロベルトから連絡が入った。
電話のような魔道具の三号機を早々に導入していたのだけど、もう少し改良の余地があると思いながらも私はその知らせに嬉しくなりリナリアと二人で領地に転移した。
「カトレア様、お待ちしておりました」
見に行くと伝えておいたからか、ロベルトが現地ですぐに出迎えてくれた。
ジャスティス並に出来る男のロベルトさんには、アンスリウム子爵家の執事長にもなってもらう予定なのだけど、ロベルトにもお孫さんがいてその子もウチに仕えてくれるらしいので期待しておく。
「ロベルト、通信の魔道具はどう?」
「非常に便利ですね。お陰で仕事が捗ります」
「なら良かったわ。この後更に機能を良くするけど、何か気づいたことがあったら感想お願いね」
「承知致しました。では、屋敷の方をご覧になられますよね?」
「ええ、そうするわ」
早速出来たという屋敷を見ることにするけど、外観は比較的落ち着いたもので、私の実家のアンスリウム公爵家ほどの大きさはないけど、やはりこの領地で最も大きな建物になっていた。
私はもう少し小さくても良かったのだけど、領主としての威厳と、お父様やお母様、フリートを招待する時のためにとロベルトから説得されて私の想定よりも大きめになったのであった。
「屋敷の間取りは全てカトレア様の御要望通りにしておきました」
「そう、流石ね」
「ご夫婦の寝室以外にも一応はそれぞれの個室もありますが……」
「私は使わないかしら」
「わ、私もですね……」
夫婦という単語に顔を赤くするリナリア。
屋敷に目を輝かせていた所からのこの初さが愛らしいけど、女の子同士だと夫婦と呼ぶのは正解なのかしら?
まあ、とはいえ、当てはまる用語も思い浮かばないし私は男性役を演じるのも悪くないので別に気にはしないでおく。
それに、新しい関係性の言葉を作れば、王都のうるさい貴族たちが騒ぎそうだし、リナリアと私が両想いで結ばれた事実が大切なので細かいことは気にしないでおくわ。
「こちらが、ご夫婦の寝室になります」
メインディッシュは二つあるけど、まずは私とリナリアの寝室を見ることにする。
豪華な天蓋付きのベッドは二人でも余りそうな程の大きさだけど、雰囲気が可愛らしいのでリナリアと寝るのには最適かもしれないわね。
「ここでカトレア様と……はぅ……」
先のことを、想像……あるいは妄想してしまったのかリナリアが赤くなるけど、そんな顔をされたら私までドキドキしちゃうじゃない。
でも、可愛いので見ていたいという気持ちもあった。
リナリアさんってば、仕草の全てが可愛くて最強なんだから、もう。
「お子の数も考慮して部屋数は多くしてありますが、ご家族の客間もご覧になりますか?」
「そうね、少しだけ覗こうかしら」
「畏まりました」
本当に念の為だけだったのだけど、やはり出来る男は違うのか、私の要望以上の仕上がりになっていた。
これならお父様やお母様、フリートも自信を持って呼べるわね。
「各部屋にはカトレア様のお作りになれた魔道具も設置しておりますが、どの品も素晴らしいですね」
「折角ですもの、そのくらいはしないとね」
魔道具の動力の魔力は、魔石やそれに代わる加工した電池のようなものもストックしているし、もしもの時は私が魔力を充電出来るので何の問題もない。
うむ、実に贅沢な環境ね。
「それじゃあ、一番のメインディッシュを見ましょうか」
「浴場ですね。畏まりました」
私が最も拘った部分なだけに、言葉だけで察してくれるロベルト。
リナリアの手を引いて、歩くとリナリアが楽しそうに屋敷を見回しているのが目に映る。
「どう?ここなら私と暮らせそうかしら?」
「はい!今から楽しみで凄くドキドキします……」
照れながらそんな事を言うから、思わず抱きしめてしまう。
「はぅ!か、カトレア様……?」
「もう、そういう可愛いこと言うのは反則よ」
「うぅ……本心ですからぁ……」
思わずリナリアとイチャイチャするけど、それを見て微笑ましそうにしつつも空気に徹するロベルトは凄いと思う。
そうしてちょっと遠回りをしつつも満足して浴室に向かうと、風情のある脱衣所を抜けると大浴場が目の前に広がった。
「わぁ……!大きいです!」
「ええ、そうね」
普通の温泉だけでなく、ジャグジーや銭湯なんかで見た事のある座る程度の深さの場所や、私やリナリアの背丈でもギリギリ顔が出るような深さの場所、寝るタイプや、その他にも様々な私考案の湯船があり、シャワーもいくつもあって悪くなかった。
「あれ?カトレア様、ドアがいくつかありますね」
そうして眺めていると、リナリアが首を傾げていくつかのドアを見ていたい。
「開けてみれば分かるわよ」
そう言うと、リナリアは控えめにドアを開ける。
すると、そこはサウナ室だったので、リナリアが更に首を傾げた。
「カトレア様、ここは……?」
「サウナ室よ。簡単に言うと、暑い部屋で汗を流せるの」
「何だか不思議ですね」
「その後にこの部屋の近くにある水風呂に入ると気持ちいいわよ」
サウナの醍醐味とも言えるけど、それは実践してのお楽しみね。
「さて、じゃあ残りも見ましょうか」
わざわざ分けた檜風呂とか、滝のように流れる滝湯なんかもあって、他にも外で涼める場所もあるけど、メインディッシュはやはり露天風呂だ。
「か、カトレア様!外にあるのは不味いでは……」
「平気よ。だって魔道具で見えなくなるもの」
「そ、そうですか……」
ホッとするリナリア。
自分の裸が覗かれることよりも、恐らく私の肌を誰にも見せたくなかったのだろう
もう!可愛すぎ!
そんな可愛いリナリアと露天風呂に入るために、魔法というこの世界にあるチートからも守れるように設計した魔道具は私の中でも最高傑作の逸品となっていた。
しかも、外からの見えなくなるだけで、きちんと景色を楽しめるので最高の露天風呂と言っても良かった。
天然の温泉に、様々な施設と盛りだくさんだけど、折角の温泉地なのだから拘っても仕方ないわよね?
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