第35話 焼き芋

お昼を終えると、先程までとは打って代わり、私とリナリアはのんびりと日陰で海を眺めつつ一休みしていた。


「ふぅ……食べたわね」

「ですね〜」


フルーツジュースを飲みつつ、リナリアと一緒にリクライニングチェアに腰掛ける私。


リナリア特製のフルーツジュースは色んな果物の良さが引き出されており最高の逸品なんだけど、それをこうして日陰に優雅に腰掛けて飲む私はそこそこ様になっているかもしれないわね。


「リナリアったら、また腕を上げたわね」

「えへへ、まだまだです。もっとカトレア様に美味しいもの食べて貰いたいので頑張ります!」


向上心が素晴らしい私の婚約者。


リナリアを見てると、自然と私も頑張ろうと思えるのだから、リナリアさんってば心底ヒロインちゃんなのだろうなぁとしみじみ思う。


「期待してるわね」

「はい!」


眩しい笑顔が最高にキュート。


リナリアさん、マジ天使!


そうしてリナリアを愛でつつも、ゆったりとした時間を過ごしていると、さり気なく要所要所でジュースのお代わりをしてくれたりと健気に尽くしてくれるリナリア。


ここで私が「今日くらいゆっくりなさい」と言っても「カトレア様のお世話がしたいんです」とやんわりと嬉しそうに言われてしまうのは学習済みだ。


無理をしている訳でもなく、心からそう思っているのなら私には止められないし、こうしてリナリアにお世話されるのは凄く幸せなのでその幸福を受け入れる。


「ありがとう、リナリア」


ただ、感謝だけは忘れないでおく。


何事も想いやる気持ちというのは大切だし、近い距離の人にほど日頃の感謝はきちんとその場で言葉にしたい。


実際、私のその言葉に毎回毎回嬉しそうなリナリアさんを見てるとそう思うわね。


「それにしても、リナリアまた可愛くなったわね」


ロリ時代(本当は生まれた時から知りたかったので不覚)からリナリアを知ってる身としては、徐々にゲームのヒロインちゃんとリナリアのお母さんのライナさんに近づいてきてるの見る楽しみもあったのだけど、私の想像よりもリナリアは凄く魅力的な女の子に成長していた。


誰もが振り返る癒し系美少女たるリナリアさんは、正しく乙女ゲームのヒロインちゃんのスペックを持ちつつも、それに驕らないで日々精進しているからこそ、外見だけでなく内面まで最高の女の子になっていた。


凄く私好みで、機会があれば是非とも依存とかヤンデレ化を進めたい所存。


まあ、無垢なリナリアさんが最高なのだけど、私のためにヤンデレ化してくれたり、私無しでは生きられないくらいの依存をしてくれると更に嬉しいけど、現状私の方がリナリアに依存しているのはリナリアの魅力が凄いからだと私は思うわ。


「そ、そうでしょうか……?」

「ええ、毎日見てても気が付く程よ。まあ、元から可愛いのだけどね」

「はぅ……で、でも、それだったらカトレア様だって昔よりもっとお綺麗になってます!」


嬉し恥ずかしそうに赤くなってから、可愛い反撃をしてくるリナリア。


「あら、そう思ってくれてたの?」

「勿論です!昔から凄く綺麗でカッコよくて……いつだって私はカトレア様に惹かれてました。今だって毎日ドキドキしてて、今日の水着も凄く色っぽくって……あっ……」


思わず出てしまった言葉にリナリアが恥ずかしそうに俯くけど、カトレアさんの水着姿が色っぽく感じていたらしいのでこれは収穫ね。


「ふふ、本当可愛いわね。いらっしゃい、リナリア」

「うぅ……はぃ……」


余裕の笑みを浮かべていると思うでしょう?


悶えている心も実際のところはかなりあるのよねぇ。


でも、それを表に出すような真似はせずに、いつだってこうして余裕を示してリナリアを愛でるのが私のポリシーなのよ。


二人でも十分にスペースのあるリクライニングチェアにリナリアを呼んでからイチャイチャすることしばらく。


仲良くお昼寝をしてから、夕日を眺めて本日の海水浴は終わった。


リナリアの水着も見られたし、二人でのんびりも出来たので最高の日だったと私は心の底からそう思ったのは言うでもないでしょう。


それにしても、リナリアってば可愛すぎでは?








ーーー






季節は移ろい、秋に入る。


暑かった夏は色々と忙しかったけど、リナリアとの海水浴など色んなイベントもあって最高だったので悪くなかった。


水着姿も素敵だけど、私色に染まったのがよく分かるメイド服も捨てがたい。


「ミーナの実家から?」

「ええ、カトレア様にも是非にと思いまして」


そんな風にリナリアとの日々を過ごしている中で、アンスリウム公爵家の執事長のジャスティスのお孫さんにして、私付きを長年してくれたメイドさんのミーナの夫のジュスティスから私はあるものを貰っていた。


「大きなサツマイモね」


農業が盛んなミーナの実家から送られてきたというサツマイモは凄く大きくて美味しそうだった。


その他にもお裾分けとして様々な野菜があったけど、一番多いのは大きなサツマイモであった。


「貰っていいかしら?」

「ええ、勿論です。カトレア様が毎回ミーナの実家の野菜を贔屓にして下さってるので、一番いい物はカトレア様に是非にとミーナと話しまして」


私は料理に詳しい訳じゃないけど、前にミーナが作ってくれたお菓子で野菜を使ったものがあったので、その時からの縁でよくミーナの実家の領地から野菜を納品してもらっていた。


リナリアもよくそれで私に色々作ってくれるのだけど、今世ほど野菜が美味しいと思ったことは恐らくないわね。


まあ、リナリアの手料理なら千切りキャベツでも極上のメニューに思える私の判断基準の甘さは、リナリアの可愛さと健気さによるものだけど、それはそれ。


「そう、ありがとう。今度ミーナに何かお土産持って会いに行こうかしら。ミーナの体調はどう?」

「落ち着いてますよ」

「ミーナとジュスティスがお母さんとお父さんになる……私も歳をとるわけね」

「いえ、そのセリフは早すぎますよ」


それもそうね。


「それで、お父さんになる実感は出来たのかしら?」

「まだ不安ですけど……精一杯守りますよ」

「ミーナと子供の両方をね」

「ええ」


子供が出来れば、当然親としての自覚も出てくる。


私もリナリアとの間に子供が出来たらそうなれるかしら……うん、きっとリナリアとの子供は甘やかしてしまうと断言出来る未来図が見えるわね。


「それにしても、ジャスティスが曾お祖父ちゃんって、凄いわね」

「祖父はまだ現役でいるようですね」

「頭が下がる思いね」


アンスリウム公爵家のために、まだまだ現役で働いてくれるのだからジャスティスはやはり凄い。


私の領地で前は代官として、今は私の補佐であれこれと動いてくれているロベルトもそうだけど、どうして今世は皆そんなに尊敬出来るような背中をしているのは不思議になるくらいにカッコイイ生き方をしてる気がするわね。


私も男だったらそちらを目指しても良かったけど、これでも一応レディなので上品に歳を重ねたいところ。


リナリアの場合はきっと歳を重ねても可愛いの権化なのは間違いないとしても、基本的に私はリナリアの全てが愛おしいのでどんなリナリアもばっちこーい!なのはデフォルトであった。


「将来的に祖父を越えられる自信がないけど、私も精進します」

「そうね、私もリナリアのために頑張ろうかしら。何にしても、ありがとうね」

「いえ、ではこれで」


私にお裾分けをすると仕事に戻っていくジュスティス。


大変そうだけど、彼ならミーナと素敵な家庭を築けるでしょうし楽しみね。








「さて、貰ったけど、どうしましょうか」

「わぁ……凄いですねぇ」


沢山のサツマイモとその他の野菜にリナリアが目を輝かせていた。


あれこれと作りたいものが思い浮かんだようなその無邪気な顔が実に可愛い。


「カトレア様、サツマイモが凄く大きくて量もありますね」

「そうね、いっぱいあるわね」


秋、食欲の秋にサツマイモとくれば……そうだわ!


「折角だし、焼き芋をしましょう」

「あ、それはいいですね。早速落ち葉を集めてきます」


思い立ったら即行動。


そんなポリシーがある私よりも先に私の意図を完璧に理解して動くリナリアは、年々一流のメイドさんになりつつあった。


指示をする前に既に動いてるし、気がつければ私は落ち葉で焼き芋を焼いているリナリアの背中を見守っていた。


「カトレア様、もう少し出できますよ」

「ええ、ありがとう」


恐るべしリナリアさん。


手伝うと言う前に言葉巧みに(私がちょろいだけ)私を操り、何もさせずに待機させるとは……そこがまたいいのだけど、やはりリナリアは最高ね。


「それにしても、こうして焼くと美味しくなるなんて不思議ね」

「調理の仕方で食材はその姿を変えますからね〜」


メイドさんとしてだけではなく、私に手料理を作るためにあれこれと空いてる時間に学んだ結果、リナリアは料理人としても才能を開花させていた。


そのスキルは全て私のためだというのだから、これ程嬉しいことも無い。


嫁力の高いリナリアにますます惚れてしまうけど、私はリナリアにもっと惚れられるように精進しないと。


「カトレア様、お熱いのでお気をつけて」


そうして見守ることしばらく、リナリアはサツマイモの全てを理解しているかのように絶妙なタイミングで焼き芋を取り出すと、包んで焼いていた包み(転生レオン作)を取って、私に焼き芋を渡してくる。


真ん中でパックリと割ると、紫の外側からは信じられないほどに綺麗な黄金色の中身が出てきて食欲をそそる。


熱いと分かっていても一口食べると、熱々のサツマイモは甘くて美味しかった。


「美味しいわね」

「ですね〜」


ついでなので、お父様やお母様、フリートやライナさん、他にも使用人さん達の分も焼くけど、全て私は携われなかった。


「これは私のお仕事ですから」


リナリアのそんなやる気満々な様子を見れば、野暮なことは出来ないけど、何一つ役に立ってない自分が情けなくなるので、今度は焼き芋を手軽にできる魔道具でも作ろうかしら?


「リナリア、焼き芋を手軽にできる魔道具って需要あるかしら?」

「女の子は甘いものが好きなのできっとありますよ〜。でも……」

「でも?」

「こうして、落ち葉で焼くのは風情がありますよねぇ」


それは確かにそうかもしれないわね。


火事とかが怖くもあるし、手間も多少あるけど、落ち葉で焼き芋はリナリアの言うように風情があると思うわ。


何事も、簡単に便利にするのはいい事だけど、多少手間でもこうした風情のある楽しみ方が出来るものはあった方がいいわよね。


「サツマイモまだまだありますけど、残りは私がお料理に使ってもいいですか?」

「ええ、食べさせてくれるのよね?」

「勿論です、カトレア様のために作りますね!」


本当にリナリアは献身的ね。


そんなリナリアの手によって、サツマイモは様々な料理へと化けていくけど、スイーツはやはり外せない。


大学芋、スイートポテト、芋ようかんに芋けんぴとどれも転生レオンから電話の初号機の作成の時に貰ったレシピ本の中からリナリアが作ったのだけど、最高に美味しかったわ。


転生レオンとの取り引きで手に入れた前世のレシピ本だけど、リナリアはそれらに目を輝かせてチャレンジしており、頑張って電話の魔道具を作った甲斐があったとしみじみ思う。


まあ、電話に関しては、実は今も改良を続けており、この前三号機が出来たので転生レオンに送ったけど、そのうち携帯みたいな小型も作れるようにならないとダメね。


出掛けている時もリナリアと連絡を取れるような手段は必須だし、私もリナリアと電話したいのよね。


まあ、それはそのうちだけど、最終的にはスマホを目指したい所。


メール機能をつけて、既読の有無が分かるようになればなおよし。


果てしなく遠い道にも思えるけど、リナリアの頑張る姿を見れば私もやる気が出てくるし、お小遣い稼ぎも出来て一石二鳥ね。


「リナリア、私もう少しだけ食べたいから半分こしましょう」

「いいんですか?」

「ええ、リナリアも少しだけ食べたいって顔してるわよ」

「えへへ……バレちゃってましたか……」


てへっと微笑むリナリアと半分こして焼き芋を食べる。


一人で食べるよりも、リナリアと分け合う方が美味しいと感じるのは、やっぱり1人でないと実感出来るからかしら?


もしくは……


「う〜ん、美味しい〜」


チラッと横目に見ると、甘いサツマイモにうっとりしている最愛の人が映る。


きっと、リナリアと食べてるから更に美味しいのよね。


納得しながらも、私は思わず笑みを浮かべながら残りのサツマイモを食べる。


秋にはこういうイベントも必要よね。


そんな楽しい時間だったけど、食べすぎて夕飯が少ししか食べられなかったのはやり過ぎたわね。















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