第33話 プライベートビーチ

「こうですか?」


くるんと、新しいメイド服で回るリナリア。


露出にうるさいこの世界にしては攻めたような心持ち短めのスカートは非常に最高で、陛下の趣味を褒めたくなる気分だった。


まあ、不敬だから言わないけど、転生レオンの傀儡のようになりながらも頑張ってる陛下には是非とも長生きて貰いたいものだ。


「いいわね。リナリア、もう一回だけ回ってくれる?」

「もう、恥ずかしいですよ……」


そう言いつつも、嬉しそうにくるりと回ってくれるから、リナリアさん大好き。


くるんとと回ることでフワッと揺れるスカートが実にエクセレント。


私、リナリアがフリル系統を着てるのを見てると凄く癒されると最近気がついたわ。


まあ、何を着てもウチのリナリアは可愛いのだけど、ヒロインちゃん力の高いリナリアは可愛いとキュートとの相性が抜群で華があっていいわよね。


「でも、人前で着るのは少し恥ずかしいですね……可愛いけど……」


恥じらいつつも、そんな可愛い感想を漏らすのだけど、本当に私の命令だったら着そうなのでそこがまた健気であった。


「人前では着させないわよ。私の前だけで楽しみたいもの」

「そ、そうですか……」


満更でもなさそうなリナリアさん。


本当は人前でも着させたいという気持ちも僅かにはあるのだけど、リナリアを邪な目で見る輩が居ることを考慮するとそれは出来ない。


リナリアは年々可愛くなっており、その魅力は更に高まっていた。


そんな可愛いリナリアが、攻めたてメイド服を着ているとなれば、リナリアによからぬ情を抱くものも現れるかもしれない。


そんな野獣たちに私の大切なリナリアを見せる訳にはいかないので、私だけのリナリアであってほしいからこそ、こうして個人で楽しむのが最もいい形だと私は思った。


「カトレア様、今日はミルクティーにしてみました」


しばらく目で楽しんでから、お茶を淹れてもらうけど、動く度に可愛さが溢れてるのだから凄い。


「ええ、ありがとう」


こうして好きな人にお茶を淹れてもらってゆったりと過ごす時間は凄く心地いい。


それにしても、リナリアは日々腕を上げてるわね。


屋敷に来てからすぐにその才能の片鱗を見せて、あっという間に私付きの侍女であった、先輩のミーナを越えてしまったのだけど……そういえば、ミーナは元気かしら?


アンスリウム公爵家のスーパー執事たる存在、ジャスティスのお孫さんのジュスティスと結婚したミーナはこの前まではリナリアと一緒に私のお世話をしてくれていたのだけど、妊娠が分かって今は産休に入ったのよね。


「リナリア、ミーナの様子は聞いてるかしら?」

「はい、落ち着いてきてるそうですよ。早くカトレア様にお子をお見せしたいのと、またカトレア様付きの侍女に戻れるように努力すると仰ってしました」


幼い頃からのメイドさんのミーナがお母さんになる……私も歳をとったものね。


肉体的に成長期だけどそう感じるくらいには私も精神が年寄りなのかもしれないけど、リナリアのためにもクールなカトレアさんでありたいものだわ。


「そう、そのうち様子を見に行こうかしら」


私が行くと、ミーナに気を使わせそうなのでこれまで訪ねるのを保留していたけど、悪阻も落ち着いてきたのなら多少顔を見せても問題はないはず。


「それはいいですね。ミーナさんきっと喜ぶと思います」


そんな風に何気なく言った一言に、自分の事のように嬉しそうに返事をするリナリア。


その心が清すぎて、私の汚れ具合はくっきりと見えるけど、だからこそ心の清涼剤にリナリアは最高だと考えられるわね。


そういえば……


「リナリアは大丈夫?仕事量が増えないようになるべく調整はしたけど……何かあったらちゃんと言うのよ」


形として、私付きのメイドさんはリナリアとミーナを中心に回っていた。


他にもメイドさんはいるけど、ミーナが抜けたことでそれなりにリナリアへの負担は増えてしまった。


まあ、それを見越して余裕のある仕事量とフォロー体制を万全にしていたのだけど、それでも愛しい人が働きすぎてないか心配にもなるだ。


「大丈夫です。他の方からお手伝いもしてもらってますし、それにカトレア様のお世話は私にとって凄く幸せな時間なんです」

「そうなの?」

「はい。カトレア様と一番一緒に居て、そのお隣でカトレア様のお役に立つ……そして、カトレア様の笑顔が見れるのが凄く幸せなんです」


……あぁ、もう、この娘はもう本当に――どれだけ可愛いのよ!


私は込み上げてきた愛しさが抑えきれなくて、リナリアを抱きしめてしまう。


「か、カトレア様……?」

「もう、本当に可愛いんだから。そんな事言うなら私はもっと貴女に頼ってしまうわよ?」


これまでだって、リナリアには頼ってきたし甘えてきたけど、更にその気になってしまう。


そんな私の気持ちを分かったのか、リナリアは抱きつかれたことによる驚きと嬉しさから、母性を示すような笑みを浮かべると頷く。


「……はい、是非頼ってください」

「甘えて、甘やかしてしまうのもアリかしら?」

「か、カトレア様が望むなら……」

「ええ、私は貴女の全てを望むわ」


不思議なことに、リナリアと話していると私は自分が更にリナリアに惹かれてしまうのと、それ以上に惚れ直してしまうのを実感する。


依存とさえ呼べそうなレベルになってきていたのは前々からだったけど、その依存の深さが更に増すのを感じる。


でも、それが心地よいのだから私は正しくリナリアに堕ちたのだろうと思うのだった。


リナリアさん可愛すぎ。









リナリアと愛を育むことにだけ注力したくても、世の中そうそう上手くはいかない。


ただ、それを加速させるイベントのために私は出来ることをしていた。


そう――探索よ。


「……んで、嬢ちゃん。偉く拘ってるけど俺たちはこの山を探索してればいいのか?」


王都と私の領地の間にそびえ立つ巨大な山は、その大きさに見合う広さがあり、更に探索の難易度も高い。


出てくる魔物や野生動物も上位の存在が次から次に出てきて、来られるメンバーは限られる。


なので、この探索のメンバーはSランク冒険者のガルドと、くノ一アカネと私の3人のパーティーに自然となった。


空いてる時間にこうして3人で探索をしているけど、不思議と安定感があるからバランスは悪くないと思うわ。


「ええ、もう時期お目当ての場所を引けそうなのよね」

「お目当てですか?」


アカネが首を傾げるけど、周囲への警戒を一切怠ってないのは流石だわ。


「まあ、嬢ちゃんのことだから何か考えがあるんだろうが、にしてもこっちまで来たのは初めてかもしれないな」

「そうなの?」

「ああ、月一で同じ場所にしか通ってなかったからな」


その話は初めて聞くわね。


「そういえば、ガルド殿は何故この地に来ていたのですか?狩場は他にもあるでしょうに」


Sランク冒険者のガルドなら、他にも楽に儲かる狩場があるはずなので、何か理由があるのではと尋ねるアカネ。


すると、ガルドは特に隠すことも無く正直に話した。


「なに、この山にだけ月一で咲く花があってな。ほれを取りに来てたんだよ。まあ、他にも道中は珍しい魔物を狩ったが」

「花とは素敵ですね」

「ああ、そういう色っぽいのじゃないな。煎じれば不妊に効果があるとか聞いたからダメ元でも来てたんだよ」


なるほど、そういうこと。


確かに、この山にあったものなら効果はそこそこありそうにも思えるけど……私が診た時にガルドに問題があると知った時にかなり驚いていたのを見ると奥さんに飲ませていたのかしら?


「まさか、俺が原因だとは思わなかったからな。たく、ヤブ医者め」


医者としても不妊の原因はほぼほぼ女性だという思い込みがあったので、そういう診察になってしまったのだろうけど、それにしても思い込みとは凄いわねよね。


まあ、プライドの高い相手にその可能性を告げても絶対に受け入れないからこそそんな風になるのかもしれないけど。


奥さんに原因がないなら別の要因を疑うとは思うのだけど、実際ガルドは自分に問題がある可能性を医者に尋ねたそうだ。


答えはNOだったそうだけど。


まあ、不妊の場合判断が難しいからこそ曖昧な感じになるのだろうけど、もう少し男性不妊に関しても広く知られるべきかしら?


「何にしても、嬢ちゃんのお陰で俺は子供が出来たし嫁さんの心も軽くできた。サンキューな」

「話には聞いてましたが、主君は本当に不妊に効果のある魔法が使えたのですね」


晴れやかなガルドと感心したようなアカネ。


ドヤ顔でもキメてこうかしら?


「アカネの故郷にはその手の薬とはあるのかしら?」

「いえ、子が産めぬない人は欠陥品という扱いで救済などは無かったですね」


シビアだけど、ゆとりがなければそうなるのも仕方ないのかもしれないわね。


「拙者もちゃんと子供が産めればよいですが……」

「大丈夫だと思うわよ」

「分かるのですか?」

「ええ、簡単に見ただけだけど」


とはいえ、歳による不妊の可能性までは予期できないので現時点ではという点はつくけけど、それでもアカネは問題ないと思うわ。


「それなら良かったです」

「アカネの嬢ちゃんの場合はまず相手を見つけないとな」

「う、痛いところを……ガルド殿は奥様とはどういった知り合い方を?」

「ただの幼なじみからだな。昔っからニコニコして料理が上手くてな。アイツが居なかったら俺はこうして冒険者なんてしてなかったかもな。下手したら盗賊にでも成り下がったかもしれんな」


何でも、ガルドの父親がとんでもないロクデナシで、しかも違法な商売にも手を出していたらしい。


当然のその村での一家の評判は悪く、ガルドはかなり迫害されていたらしいけど、そんなガルドを守った人が奥さんらしい。


ニコニコといつも優しくて、料理が上手で、村の人気者だったらしい。


幼い頃からの幼なじみで、そんな彼女だけはガルド本人に非はないとガルドをいつも優しく支えて、いざという時は凛としてガルドを叱り、いわれない中傷から守り、そして今のガルドへと導いてくれたそうだ。


なるほど、幼なじみラブですか……素敵ねぇ。


というか、話を聞くだけで物凄くいい子なのが分かったわ。


リナリアみたいな優しい人が他にもいるものなのねぇ……まあ、リナリアの方が上だと私は思うけどね。


「まあ、本当ベタベタ着いてきてな。無下にしても気にせず居たから……いつの間にか俺は嫁さんに惚れ込んでたな」


そこから、ガルドは努力を重ねて、冒険者の世界へと飛び込み、良き師に出会ってその教えを糧に、Sランク冒険者へとなったそうだ。


「素敵な話じゃない」

「ですね」

「何処にでも転がってる話だろ。まあ、そんな訳で嫁さんにプロポーズしたんだが、こんな情けない俺を受け入れてくれてな。だからこそ、子供の件で長いこと辛い思いをさせてたのが申し訳なかったが、色々試してダメだったのも俺に原因があったのなら納得だよ」


そして、私の不妊治療の魔法で無事子供をもうけたということね。


「なら、これまで以上に愛さないとね」

「嫁さんにも言われたよ」


何でも、ガルドは事情を話して奥さんに謝ったそうだ。


すると、奥さんは『じゃあ、これまで以上に私を愛してくれたら許します』と言ったらしい。


器の大きさを感じさせるエピソードに私はガルドが完全に奥さんの尻に敷かれているのに納得した。


これは勝てそうにないわよねぇ。


「ん……嬢ちゃん」

「主君、ここは……」

「あら、ようやくね」


そんな風にガルドの話を聞いていると、ようやく目的へと到着した。


そこは、森の間にある広めのビーチのような場所で――私が目指していた目的地でもあった。


「地図で見た時に少し気になってたのよ。思ったよりも好立地で良かったわ」

「海辺のいい場所ですが……ここがお目当ての場所なのですか?」

「嬢ちゃんのことだから、不老不死の泉でも探してるんだと思っていたが……ここに何かあるのか?」

「いいえ、ただプライベートビーチに最適な場所が欲しかったのよ」


一体、ガルドは私を何だと思っているのかしら。


まあ、それでも簡単に人が来れない場所で、広くて沖までは安全とくれば最高の条件と言えるので許すわ。


それにしても……不老不死の泉なんて存在するの?


魔法があるのだから有り得なくもなさそうだけど、どうなのかしら?


まあ、研究としては不老不死は興味深くても個人的にはそんな泉が存在してもあまり欲しくはないからどうでもいいといえばいいけど、あったら戦争になりそうね。


私はリナリアと人間として一緒に生涯を終えたいのであってもリナリアと共に口にしないように注意しないとね。






















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