第30話 くノ一を拾った

「カトレア様、どうぞ」

「ありがとう」


リナリアとの領地デートから数日後。


本日は趣向を変えて、サイダーを持ってきて貰った。


王都では、転生レオンの相変わらずの知識チートで、日々様々な食べ物や飲み物が商品化されたり、他国から輸入されているのだけど、飲み物なんかはジュースやお酒も色々と出回っていた。


前世を思い出すような、コーラやメロンソーダやサイダーなどの炭酸系もどうやったのか商品化されていたのだけど、私はリナリアのお茶が好きなのでたまにしか飲んでなかった。


とはいえ、本日は先日リナリアとのデートで買ったお揃いのグラスにてサイダーを飲んでみたくなったので入れてもらうことにしたのだ。


澄んだ色のグラスとサイダーの相性は良かった。


紅茶でも映えるけど、たまにはこれも悪くないわね。


そう思って口にすると、炭酸が弾ける感覚と甘くて美味しいサイダーがとても美味。


「カトレア様はシュワシュワが飲めて凄いです」

「リナリアは苦手だものね」

「飲むとぱちぱちするのが少しダメでした……」


ジュースの炭酸は好き嫌いが分かれるから仕方ないわね。


身体にいい訳でもないし、飲みたい人だけ飲めばよかろう。


そんな事を思いつつも、リナリアの『シュワシュワ』や『ぱちぱち』といった擬音に萌えたのは私だけの秘密ね。


そんな可愛い表現をするリナリアは本当に可愛い語彙力を持っていると思う。


「でも、お菓子は本当に良かったのですか?」

「ええ、ジュースを飲んだからセーブしないとね」


いつもならお茶とお茶菓子を貰うタイミングだけど、甘い炭酸を飲んでいるのでお菓子はセーブする。


比較的美少女体質のカトレアさんは、太りにくいとはいえ、気をつけるに越したことはないでしょう。


それに、リナリアと長生きするには今のうちからある程度健康を心掛けるのも大切だと思うのよ。


勿論、成長期だから食べることは食べるし無理なダイエットはしないけど、日々の生活は心掛けで変わるのでその辺はきちんとしておく。


あと三年でこの世界の成人年齢の15歳になるけど、成人してもあまり積極的にお酒は飲まないでしょうね。


「その……カトレア様は、細い人が好きだったり……?」


チラッと自分の腰を見てからそんな事を聞いてくるリナリア。


自分の体型に思うところがあるのかしら?


でも、リナリアは十分細いと思う。


「私は健康で可愛いリナリアが好きだから、そのままがいいわね」


無茶はしないと思うけど素直な感想を言うと、リナリアはパァっと表情が明るくなった。


本当に分かりやすくて可愛い。


そんな風にリナリアと過ごす時間だけど、私はその間も魔道具の設計図を描き続けていたのはシュールかもしれない。


リナリアと会話してイチャイチャしつつも片手間にこなせた内容だったのもあるけど、こうして息抜きはしたいので仕方ない。


そう、だから私がリナリアを愛でるのは大切なことなのよ!


そんな言い訳を誰にともなくするのを忘れずにしておくけど、結果は出てるし文句を言える人も居ないので問題ないだろうと私は思う。







「流石にこの辺の魔物は強いわね」

「そりゃあそうだぜ、お嬢様。それにしてもちっこいのに本当に一流の魔法使いなんだな」

「ちっこいは余計よ」


エスカレーターとトンネルのお陰で領地のアクセスは良くなったけど、山の方にも調査に行こうと私は一人の冒険者を連れて山道を歩いていた。


2メートル越えの大男で、筋肉質な強面のその人こそ、私が領地に来る前に領民たちに外の世界の情報を届けてくれていたSランク冒険者のガドルであった。


限られた上位の冒険者の中でも、上から二番目のランクにおり、めちゃくちゃ強い人らしいけど、普段はその見た目に反して気さくなようだわ。


領地の件でこの前知り合ってから、今日の探索に付き合ってくれることになったのだけど、ガドルは私の魔法を見てかなり驚いていた。


「にしてもよ、新参の俺なんかが護衛でよく許可が出たな」

「お父様には大分渋られたけどね」


過保護なお父様でなくても、娘が死地に行くようにしか見えないので止めるのは当然だけど、私の魔法の腕と護衛としてSランクの冒険者のガドルが同行するからと何とか説得できたのだ。


まあ、リナリアからはめちゃくちゃ心配されたけど、帰ったら愛でるとしましょう。


「貴族ってのも大変そうだな」

「ええ、でもなってしまったものは仕方ないわよ」


後悔しても仕方ないし、とりあえずリナリアとの幸せを探す方がより建設的でしょうね。


「達観してるとは恐れ入った。そういや、この前はサンキューな」

「構わないわよ。その後は問題なさそう?」

「おう、ちゃんと嫁さん身篭ったよ。本当にありがとうな」


何の話かといえば、実はこの前ガルドが中々子供が出来ないと悩んでいたので、不妊治療の魔法を使ったのだ。


ガルドってば地味に結婚してたらしい。


幼なじみの奥さんらしいけど、不妊の原因は奥さんではなく、ガルド側にあったので、私はガルドに魔法を使ったけど、無事に子供が出来たようでその表情は実に晴れやかだ。


「にしても、男に問題があることもあるんだな」

「そういう偏見多いわよね」


私がリナリアとの子供を作るために開発した究極の魔法の副産物で、不妊治療の魔法を作ってから、色んな人を見てきたけど、何故か不妊の原因を女性に求める人が多いことが多くてびっくりした。


まあ、変なプライドとかあるのでしょうけど……子供が出来ないのは嫁のせいとかアホかと言いたくなったわね。


「医者も嫁さんのせいにしてたな。本当に悪いことしてたよ」

「あら、素直ね」

「当たり前だろ。愛してる嫁に俺のせいで負担を強いてたんだからな。反省してちゃんと愛でてるさ」


ガルドも相談した医者で奥さんに嫌思いをさせていたと反省してるようで、その辺は潔くて悪くない。


こういう人だからこそ、領民たちにも好かれていたのだろう。


「何にしても 、嬢ちゃん……おっと、お嬢様のお陰だからな。出来ることは協力するぜ」

「それは嬉しいけど、無理にお嬢様呼びしなくていいわよ」


向こうからしたら、まだまだ子供にしか見えないのだろうし、上位の冒険者であるガルドは実に良い人材なので無礼なんて野暮は言うまい。


「そうか?なら、助かるぜ。俺はそういうちゃんとしたのが苦手でなぁ……嬢ちゃんは本当に寛容で助かる」

「その代わり例の件はよろしくね」

「ああ、家も買ったし嫁さんとの新生活も楽しいからな。それにあの街は飯が上手くて気の良い奴も多いから楽しいぜ」


ガルドには前からウチの領地に来てくれるように頼んでいたのだけど、不妊治療やその他の件で信頼を得たようで良い返事が貰えていた。


既に家も買って、生活も初めているそうだけど、領民たちとも前から顔見知りだし上手くやってるようだった。


もしもの時と戦力としてはガルドは申し分ないから本当に助かるわ。


「――っと、嬢ちゃんちっとストップだ」


そんな風に話しながら進んでいると、ふとガルドが静止を告げる。


私もそのタイミングで探知の魔法の範囲ギリギリに反応があることに気がついた。


「誰か居るわね」

「嬢ちゃんも気づいてたか。流石だな」

「言われなければもうしばらく分からなかったわよ」


その辺は流石はSランクの冒険者ということころかしら。


「ガルドに心当たりは?」

「生憎とここで出会った奴らは死体か魔物くらいだな。一度盗賊は捕まえたが……本当に運良く魔物に遭遇しなかったラッキーな連中だったな」

「なら、今回もそれだといいわね」

「残念ながらそれは難しいかもな。動きがどうにも素人じゃねぇみたいだ」


私の探知魔法だけだと分からない細かい点で判断をするガルド。


かなり距離があるのに分かるとは流石としか言えないわね。


「一人かしら?」

「みたいだな。とりあえず警戒して進むとしよう」


ガルドに先導してもらい進んでいく。


それにしても、本当に強くて頼りになるからこんな人材が身近にいて助かるわ。


奥さん持ちで、一途なのもポイント高いし、リナリアに手を出さないだろうからその辺も安心できるのは助かるわ。


「……おいおい、嘘だろ」


そんな事を思いつつ気をつけて進んでいると、ガルドが驚いたような表情を浮かべた。


私も同時にびっくりしてたけど。


「嬢ちゃん、反応は?」

「私の方も消えたわ」


探知魔法で捉えていたその相手の反応が突如として消えたのだ。


恐らく、ガルドの方も見失ったと思われる。


消え方が突然過ぎて本当にびっくりしてしまう。


「特別な魔法かしら?でも、それにしては魔力の反応がまるでないし……本当に面白いわね」

「余裕だな嬢ちゃん」

「そう見える?」

「ああ、楽しげだ」


まあ、そうかもしれないわね。


未知の魔法と聞くとワクワクするようになってきたのだけど、これが好奇心かしら?


相手が何者か不明だけど、今回は強力な護衛も居るしなんとかなるでしょう。


そんな事を思いつつも先程の反応が消えた地点に辿り着くと、違和感を覚える。


「嬢ちゃん、居るぞ」

「みたいね。どこだか分かる?」

「悔しいが違和感しか感じられないな」


なんて話していると、がさりと後ろの草むらが動く。


それを見て、ガルドが剣を抜こうとする前に――その影は私の前でパタリと倒れた。


「お腹……すいた……」


ぐぅーっと、お腹を鳴らして倒れる女の子が一人。


油断を誘うにしてはあまりにも無防備すぎるし、目を回してぐぅーと鳴っているお腹は食べ物を欲してやまなかったようであったが、私はその女の子の姿を見て驚いてしまっていた。


なぜなら、その子の姿は、日本といえば外国人が憧れる存在――忍、忍者、など多々ある呼び名の中で、最も代表的な女性忍者の、くノ一姿であった。








「美味しい!久しぶりのご飯最高!」


美味しそうに食べるその子を私は餌付け……もとい餌をやる気分で食事を与えていた。


空腹で倒れていたくノ一の少女曰く、『一ヶ月も米が食べられてなかったので腹が減ってたのです!』らしい。


お昼用に多めに用意してきたおにぎりを食べ尽くしてもまだ足りなかったようで、追加で色々出しているけど、私は料理は簡単なものしか出来ないし、空間魔法の亜空間から出来たてのものを出している。


そうして食べさせることしばらく。


おおよそ二十人前くらいを食らい尽くしてようやく落ち着いたのか満腹といった表情になる女の子。


「いやぁ、助かりました。拙者の名はアカネと申します。故あって故郷を出た身ですが、詮索はしないで頂けると助かります」

「そう、分かったわ。私はカトレア・アンスリウムよ」

「ガルドだ、よろしくな」


食いしん坊くノ一に呆れ気味のガルドと挨拶をすると、くノ一……アカネは首を傾げて私を見る。


「はて、アンスリウム……何処かで聞きましたな……」

「少し有名な貴族家だからね」

「貴族……もしや貴女はご令嬢でしょうか?」

「まあ、そんな所ね」


公爵令嬢なので間違ってないと答えると、アカネはそこで、思い出したようにポンと手を叩いて言った。


「そうでしたそうでした!確かこの国の貴族の公爵家の名前でしたな。カトレア殿のお名前も確かに聞きました」

「そう。それで確認だけど、故郷のお金が使えなくて、この山で飢えをしのいでいた……という認識で相違ない?」

「お恥ずかしながら、拙者は故郷には帰れない故に人が少ないここで暮らしてみたのですが……やはり米がないと生きては行けませぬな」


まあ、主食は大切よね。


「動きをみる限りかなりの強者だろ?冒険者とか色々食い扶持もありそうだがな」

「拙者は忍故に、フリーの仕事よりも誰かに仕えたいのですよ」

「……変な生き方だな」

「よく言われます」


縛られていた方がいいというのに、どこか不思議そうな表情のガルド。


私としては、リナリアになら縛られたいなぁとリナリアが恋しくなってきていた。


「身元不明の拙者を雇う度胸のある御仁はいらっしゃらないようで……居ても体目当てな下心が透けて見えて困っていたのですよ」

「そう、ならウチに来ない?色々と頼みたい仕事とかあるのよ」

「よろしいのですか?」

「大丈夫か嬢ちゃん?」


驚いたような表情のアカネと、少し心配そうなガルド。


「ええ、人手が欲しかったのと……私としても色んな情報が欲しくてね。アカネは優秀な忍でしょ?その力を借りられたら助かるわね」

「そ、そうでしょうか?そこまで言われたら仕方ないですなぁ」


なんともちょろ……ごほん、あっさりと了解してくれたアカネ。


確かにリスクもあるかもだけど、話してて毒になるようにも感じられないし、確かな実力者なのは間違いない。


何より情報を集めたりするので役立ちそうなので、上手いこと雇えないかと思っての誘いはあっさりと受け入れられて、私はアカネを雇うことに。


にしても……


「くノ一か……リナリアにも似合うわね……」


少し露出があるようだけど、これはこれで……うふふ……


そんな風に妄想する私を二人は不思議そうに見ていたけど、長い付き合いじゃないと妄想してると思われないミステリアスな表情になってるカトレアさんは強いと思う。


そんな訳で……くノ一拾いました。












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