第29話 リナリアと領地デート

「カトレア、講師のお仕事はどうですか?」


家族で夕食を取っていると、お母様からそんな事を聞かれる。


「ええ、何とかやれてます。でも、人を教え導くのは難しいですね」


別段教えるのが下手な訳でない事が幸いかもしれないけど、本職でないのでどうしても限界があるのは痛感させられる。


「でも、将来自分の子供に教えるための訓練には丁度いいかもしれません」

「あら、フリートや新しい家族にも教えてくれるのでしょう?」

「勿論ですわ。そちらの練習も兼ねてます」


リナリアとの子供や私の弟であるフリート、そしてまだ見ぬ妹、弟達に教えるためにはこうした事も必要なのだろうと私は思った。


「ねえさま、はやくまほうつかいたいです!」

「もう少し大きくなったらね」


キラキラした瞳で請われるけど、流石に三歳だと習うには早いしもう少し大きくなってからの方がいいと思うの。


とはいえ、私が使っているのを見て憧れを抱いているフリートを見ていると教えてあげたくなるので不思議だわ。


きっと、お父様やお母様の萌えがフリートにも遺伝したのでしょう。


私には遺伝してない気もするけど、私が萌えキャラでも誰得……いえ、リナリアが喜んだかしら?


私の最愛の人で、あの萌えの権化が私の萌えで喜ぶとすれば、頑張りたいところだけど、流石に天然ではないので難しいかしら?


あ、そういえば……


「お母様、この前お渡しした魔道具はどうでしたか?」

「とっても使いやすかったですよ。カトレアは本当に面白いものを作りますね」

「なら良かったです」


何かと大変な妊婦生活を送るお母様。


三回目とはいえ、慣れていても大変なこともあるので、ちょっとした補助系の魔道具を試作してみたのだけど、悪くない反応で良かったわ。


「ライナさんも欲しがってたくらいですからね」

「お相手が出来たのですか?」

「いえ、娘に贈りたいようですよ」


ふむ、再婚の予定はないのかしら?


ライナさんは美人だし、子持ちとは思えない程に若々しくて、使用人さん達の中でも狙ってる人が多いそうだ。


当の本人は再婚する気は無いのか、『嬉しいですけど、私はまだ夫を想っていたいので』と断っているらしい。


色恋で面倒事になって辞める使用人が居ないのが救いかしら?


まあ、流石に名門公爵家ともなれば使用人の質も高いしそんな軽い人は居ないのかもしれないわね。


「そういえば、領地の方はどうですか?」

「何とかなってますよ。お父様からお聞きになってるのでは?」

「ええ、まあ……」


頬を赤くして曖昧に頷くお母様。


お父様に視線を向けると、こちらもどこかバツが悪そうに視線を逸らす。


なるほど、大方二人きりになるとイチャイチャでその手の話題が少なくなるか、印象が薄くなるのでしょう。


本当にいつまでも新婚のような夫婦ですね。


「お腹の子が生まれて落ち着いたら、是非ともお母様もいらしてください」

「ええ、ありがとう」


何なら、お二人でデートでもしてくださいな。


まあ、それは後でこっそり提案しましょう。


「ねえさま、ねえさま」

「ええ、フリートもね」

「うん!」


可愛い弟は本日も大変元気だ。


両親のイチャイチャに対しても、分かってないのか空気が読めるのかニコニコしており、将来はきっと大物になると確信できた。


ブラコンって言いたいのでしょうけど、私なんて名乗るのもおこがましいわよ。


本物はあの転生レオンみたいな人なのでしょうし、私はブラコンではなくただの可愛い弟が好きな姉でしかない。


そうして改めて確認しつつも、家族団欒を過ごすけど、私は翌日に控えたイベントがあるのでそちらのことも考えてしまっていた。


まあ、リナリアとのデートなんですけどね。


先日、私はふと気がついたのです。


私とリナリアは王都とかでは何度かデートをしていても、領地ではデートをしてないのではないのかと。


領地の視察という名目でリナリア同伴で領地を回ったことがあったけど、二人でのんびり領地デートはしたことがなかったのだ。


なので、今回は本当に純粋なデートをしましょうと、先日誘ったのだけど、その時のリナリアさんの嬉しそうな顔は今でも覚えていた。


本当にウチのリナリアさんマジ天使!


そんな訳で、家族団欒をしつつも私は明日のデートを考えてしまうくらいには楽しみにしてます。


いやー、やっぱり好きな人とのデートは何度でもしたいものですけど、領地では初めてなので凄く楽しみ。


明日は可愛いリナリアを独り占めできそうね。


おっと、いつもしてるという野暮なツッコミはなしですぜ?


それはそれ、これはこれなのよ。








翌日、天気の心配は無用なほどの晴天に私は少しホッとする。


雨女ではないとは思うけど、前世では瑞穂と遊びに行くと50%くらいの確率で雨が降ったので少しだけ心配もしてたけど、よく考えるとリナリアとのデートでは雨が降ったのは一度だけね。


これはきっと、リナリアさんのヒロインちゃんパワーが私の不運を打ち消してるか、私にもカトレアさん補正が付いてるのか……前者のような気もするけど、晴れているので問題なし。


「カトレア様、お待たせしました」


デートっぽくしたかったので、屋敷の外……敷地内の本屋敷の石像の前で待ち合わせをしていると、リナリアが時間より早めに来てくれた。


「私も今来たところよ」


恋人同士の定番のセリフが言えて、少し嬉しい。


けど、そんな事よりも更に嬉しいことがあった。


「リナリア、それ着てきてくれたのね」

「はい。可愛かったので……その、おかしかったでしょうか?」

「いいえ、凄く似合ってるわよ。可愛いわ」

「えへへ……ありがとうございます」


くるんと、回るリナリアの本日の服装はゴスロリであった。


オーダーメイドで作ってみたのだけど、リナリアとゴスロリの組み合わせも最高ね。


カトレアさんには似合うか不明でも、リナリアは割と何でも着こなせて凄いと思う。


「じゃあ、行きましょうか。デートに」

「はい!」


リナリアと手を繋ぐと、王都にあるアンスリウム公爵家の屋敷から領地へと転移する。







エスカレーターとトンネルで王都とのアクセスが用意になったからか、領地は前よりも活気が出ていた。


お店の数も増えており、色んな屋台や広場では王都に居たような手品などの芸をする人も居るほどであった。


そんな領地をリナリアと手を繋いで歩く。


「あら、領主様。こんにちは」

「婚約者と仲睦まじいですなぁ……よければ、ウチの商品をどうぞ」

「ウチも是非ともご贔屓に」


私が割と頻繁に顔を出すからか、顔が知られているようでよく、声をかけられる。


リナリアも、私の婚約者と認識されているけど、そこには偏見などは全くなかった。


閉鎖的で穏やかな人が多かったからか、逆にその辺は寛容なのかもしれないわね。


王都でグダグダ言ってる老人たちに聞かせてやりたいくらいだわ。


私とリナリア……女の子同士で子供が作れると説明して、陛下の手前一応納得しつつも会う度に遠回しに色々言ってくる輩がいるので、お父様には本当に感謝しかない。


まあ、それは今は忘れましょう。


「本当に賑やかになったわね」

「そうですね〜」


ニコニコと嬉しそうに私と手を繋いて歩いているリナリア。


こうして二人で出掛けるだけでご機嫌なのだから、本当に可愛い。


「あ、カトレア様。また新しい飲み物が出てますよ」

「本当ね」


新しいとは言っても、私には割と馴染み深いものであった。


(今度はタピオカって……どれだけ知識があるんだか)


呆れてしまう私だけど、売られていたのは間違いなくタピオカミルクティーであった。


最初見た時は黒くて丸いタピオカが沈殿してるので少し不気味にも見えたけど、慣れると食感も楽しくて美味しいものだったと分かった。


ただ、何故か前世では一時すごく流行ってお店が混んでたので、私はそこまで飲んてなかったけど。


だって、行列とか面倒なんだもの。


イベントとか二次元関係で朝から並ぶなら許せるけど、わざわざ食べ物に並ぶほど私も元気ではなかったので仕方ない。


「せっかくだから頼みましょうか」

「ですね」


久しぶりに飲みたいような気もしたので注文すると、相変わらず太いストローとなんとも言えない見た目に思わず苦笑してしまう。


「カトレア様、この黒くて丸いのは何でしょうか?」

「それがタピオカよ。確か何かの芋から作られるとか聞いたわね」

「流石カトレア様です、博識ですね」


そう言いつつも興味深そうに眺めていたリナリア。


それを微笑ましく見守りつつ、私は久しぶりにタピオカを飲むけど、ミルクティーは本当に美味しいわね。


冷たいミルクティーを作るために、氷の魔道具を使ってるのでしょうけど、私が頑張って量産させられるようにしたとはいえ、そこそこ高価なのによく買えたものだと少し感心しつつ黒くて丸い物体……タピオカを吸い込む。


モチモチとした食感で美味しいけど、やっぱりたまに飲むくらいが丁度いい気がするわね。


「リナリア、美味しい?」

「はい、作り方が分かったら私も作ってみます」

「じゃあ、その時は私に飲ませてね」

「勿論です!」


やる気満々なご様子のリナリアさん。


それがめちゃくちゃ可愛くて尊いので、思わず抱きつきたくなるけど、公衆の面前なので多少は自重しつつも、それでも湧き出した気持ちは伝えたいので、少し握る手に強弱をつけると、リナリアは恥ずかしそうにはにかんだ。


……可愛すぎやろ!


叫びたい気持ちを抑えつつ、リナリアとタピオカを片手に手を繋いで領地を巡る。


途中で飲み終わると、私の空間魔法にカップは収納して邪魔にならないようにするけど、手を離すことは決してしない。


最近気がついたけど、こうして手を繋いでいるのがリナリアはお気に入りのようだ。


私としても、リナリアのスベスベの柔らかい手を合法的に握れて嬉しいし、好きな人と手を繋ぐのが嫌なわけないので喜んでしているけど、繋ぎ方の種類は色々あって、普通に繋ぐ時もあれば、今みたいに恋人繋ぎもあるのでそこは気分かしら?


何にしても、この時間はとても楽しい。


そんな事を思っていると、あるお店で視線止まる。


「リナリア、あそこ寄ってみましょう」

「ガラス細工のお店ですか?」


王都にもあったけど、こういうお店は見ていて楽しいので二人で入る。


確か、自分で作る体験も出来ると聞いたけど……今日はリナリアもゴスロリ衣装だし、私もその気は無いので商品を見て楽しもう。


「色々ありますね〜」

「そうね、どれも見事だわ」


透明度の高いグラスや、色つきの綺麗な物もあって、更にアクセサリーなんかもあるので見てて飽きない。


「リナリア、気に入ったのあったかしら?」

「このグラスは可愛いですねぇ」


蒼い澄んだ色のグラスは確かに綺麗で可愛かった。


「せっかくだから、お揃いで買いましょうか」

「い、いいんですか……?」

「勿論、それにそうしたらリナリアとこうしてデートしたこともよく思い出せるでしょ?」

「は、はぃ……」


二人でお揃いのグラスを買ってから、私は密かにリナリアが気にしていたものも購入しておく。


そうして、リナリアとデートをしていると早いもので時間はあっという間に過ぎてしまう。


二人で海辺で夕焼けを見ているけど、凄く綺麗で胸に染みいる気がする。


「今日は楽しかったわね」

「はい。あの、カトレア様……」


そんな事を思っていると、リナリアが何やらモジモジしながら何かを渡してきた。


見れば、それは先程のガラス細工のお店のアクセサリーで、氷のような神秘的な色合いの素敵なネックレスであった。


「いいの?」

「はい、カトレア様に似合うと思って……そ、それにあの……」


モジモジと恥ずかしそうに口ごもってから、リナリアはポツリと言った。


「これを着けて貰えば、カトレア様が私のだと……分かってもらえると思って……はぅ……」


ぐはぁ!


可愛すぎぃ!


とんでもない威力で私を悶えさせるリナリアさんってば、天然で私を落とすジゴロさんね。


でも、私も今回は頑張らないと。


「リナリア、じゃあ、私からのお返しね」


そう言って、先程のお店で購入した碧に近い色のガラス細工が綺麗なネックレスをリナリアの首に着ける。


「これは……いいのですか……?」

「ええ、私もリナリアに似合うと思って買ったのよ。それに、それがあれば更にリナリアが私の物だって分かるでしょ?」

「カトレア様……」


潤んだ瞳のリナリアが抱きついてくるので、私はそれを優しく迎えてそっと抱き返した。


夕日が沈む中、お互いにプレゼントをして、お互いの存在を上書きした本日のデート。


控えめに言っても最高以外の言葉はなかった。


リナリアとのデート最高!


そうして初めての領地でのデートは凄く楽しかったのだけど、翌日に嬉しそうに私の贈ったネックレスをつけて、休憩時間には私とお揃いのグラスを飲むくらいリナリアは凄くご機嫌であった。


私も勿論リナリアからのネックレスをつけて、お揃いのグラスで冷たいジュースを飲んでみた。


これこそ至福ね。











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