第28話 臨時講師
「お刺身美味しいわね」
釣った魚を持ち帰ると、きちんと処理をして刺身にして食べてみた。
醤油は転生レオンがいつの間にか王国に流行らせていたし、ワサビもあるのですごく美味しい。
「本当ですね。でも、生で食べれるなんて凄いです」
「色々手間はあるけど、たまにはいいわね」
釣った魚を刺身にする場合、物によるけどきちんと処理をすれば問題なく食べれる。
……と、転生レオン等から教わったんだけど、実際言われた通りにしたら、美味しく食べれたので良かった。
一応、寄生虫とか気になる部分もあり魔法での感知をしたけど処理がしっかりしていたからか、問題なくてこうしてリナリアと一緒に久しぶりのお刺身を堪能していた。
「カトレア様、海鮮丼というものも作ってみました」
「凄いわね、豪華だわ」
マグロ、ホタテ、サーモン、エビ、イクラ、ウニ……前世で食べた事ないレベルの豪華な海鮮丼は凄く美味しかった。
リナリアも当たり前のように作れるようになったし、本当に凄いわね。
「でも、本当にこちらで宜しかったのですか?」
リナリアとしては、家族で海の幸を楽しむと思っていたので、代官府(または旧領主館)で、リナリアと二人で夕飯として食べたのが意外だったのだろう。
領地の屋敷はまだ完成してないけど、この代官府には一応執務室の他にも私達の部屋も用意されているので、最近は帰れない時はこちらに居ることもあった。
「いいのよ、二人きりの時間も欲しかったもの」
お父様のエスコートも楽しかったけど、麦わら帽子白ワンピのリナリアを愛でたかったのでこの判断は正解だろう。
まあ、今はもう普通にメイド服に着替えたのだけど……着替える前に堪能も出来たし、メイド服も好きなので二人きりは尊いものだ。
それにしても、リナリアったらメイド服がデフォルトになってしまったわね。
私だけのヒロインちゃんを私色に染めた結果がメイド服……可愛いけど、もっと着せ替えしてもいいわね。
そうだわ!前世の二次元メイド服よ!
あの露出が多いのを二人きりの時に……うふふ……。
「そ、そうですか……嬉しいです」
「えへへ」と微笑むリナリア。
一瞬、『二次元メイド服を着てくれるの!?』と勘違いしそうなるけど、話の前後をきちんと思い出して堪えた。
二人きりの時間が欲しいと言って、喜ぶリナリアさんてばめちゃくちゃ可愛い。
やっぱり、リナリアとの時間は毎日きちんと取らないと。
うむ、面倒なお仕事は早く終わらせて、リナリアとの時間をもっと作りましょう。
そんな風に思いつつも、リナリアお手製の海の幸を食べて、食後の熱い緑茶を満喫して、リナリアとの時間を過ごす。
これこそ、至福よね。
海での釣りを楽しんでから数日後。
私は、お父様に呼び出されていた。
悪いことはした記憶はないので、何かしら私が必要な案件があるのだろう。
何故わかるのかといえば、部屋に入ってすぐにお父様が若干申し訳なさそうな表情を浮かべたのが見えたからだ。
本当に分かりやすいお父様ですこと。
「お父様、先日はお付き合い頂きありがとうございました」
「……ああ」
「お母様とフリートもお父様の釣ったお魚を美味しかったと言ってましたよ」
勿論、一緒に食べたお父様が知らないはずはないけど、先ほど来る前に会った二人が言ってたのでちゃんと伝えておく。
その言葉にお父様が嬉しそうな表情を一瞬浮かべたのを見て、思わず微笑ましくなる。
まあ、フリートには今度は自分も連れて行って欲しいとせがまれて、お母様にはお父様と二人きりの船旅をご提案したけど、それを提案したら物凄く期待したような表情をお母様が浮かべたので、娘として是非とも二人きりのその時間を出産後に作ると約束した。
お母様ってば、乙女のように恥じらいつつも嬉しそうにしていたのでとても愛い。
フリートも「ねえさまといっしょにいきたい!」と可愛らしくお願いされたので、そちらも叶えねば。
私ってば、意外とブラコンなのかしら?
でも、少なくとも転生レオンに比べれば私はブラコンでなく普通に弟を可愛がる姉でいいはず。
反面教師が居るだけで何と安心することか。
「……実はな、講師を任せたい」
相変わらずな口下手具合だけど、軽く質問して凡その内容は把握した。
何でも、私が本来通うべきであった乙女ゲームの舞台の学園で、魔法の授業の臨時講師をして欲しいらしい。
「私で大丈夫なのですか?」
「ああ、カトレアなら大丈夫だ」
断言されてしまった。
親バカも入ってそうだけど、お父様がそう言うならいいのかしら?
聞けば、昨今魔法使いの減少が進んできており、教える立場の講師も足りなくて困っている中で、私のようにフリーで動けて、名前もある魔法使いは中々居ないらしい。
学園長から是非にと頼まれたとか。
「分かりました、お父様」
「頼んだ」
それにしても、学園長とも交流があるとは。
お父様ってば、本当に人脈が豊富よね。
まあ、半分は私がお仕事増やしたせいというのもありそうだけど、それは本当に申し訳ない。
そんな訳で、私は臨時講師を引き受けるのであった。
(まさか生徒じゃなくて教師として来ることになると……世の中分からないものね)
行き交う生徒たちは私と同い年か、私よりも年上の人達が大半だけど、本来は私も学園に入学する予定だったので知り合いのご令嬢やご子息にも何人か会った。
私も通うかどうかは悩んだけど、学ぶにしても魔法に関してはもう独学しか残されてないし、貴族として学ぶこともある程度は収めたし、お父様に相談したら『別に行かなくても構わない』と言われたので、結局行かないことにした。
その時間をリナリアとの時間に当てたり、新しい魔道具作りに当てたかったからだ。
陛下……というか、その裏にいる転生レオンにも『出来るだけ魔道具の新規の開発や研究所に時間を』と言われてしまったのがトドメかもしれない。
なお、学歴上は一応、飛び級で学園を卒業したことになってるそうだけど、これはお父様が学園長と知り合いだったのと国からの指示だったのですんなり通ったらしい。
凄いね、権力って。
(あら、あそこは確かイベントにあったわね)
ゲームで見たイベントスチルの場所を見つける度に、前世でやった乙女ゲーム『勿忘草』を思い出して、懐かしさ半分、リナリアとのイチャラブイベントに嫉妬と自分もやりたち気持ち半分と中々に複雑だけど、それでも今はリナリアを自分のものに出来たので比較的落ち着いていた。
やはり、余裕があると人は寛容になれるみたいね。
「カトレア様、大きくなられましたな」
「オルガね。久しぶり」
講師の仕事はそれ程長くないので、今回は私単独で学園に来ていたけど、念の為護衛が必要だと過保護なお父様は考えていたようで、現地の人間に頼んだそうだ。
その人は、昔アンスリウム公爵家に仕えていた人で、私も知っていた人物であった。
名前はオルガといい、歳は30歳くらいだったかしら?
確かどこかに引き抜きの話で移動になったとか聞いてたけど、ここで働いていたとは。
「カトレア様が臨時講師とは、学園長も見る目がありますな」
「そういえば、オルガには何度か魔道具の実験に付き合って貰ったわね」
「ええ、あの頃からカトレア様の才能は凄まじかったですな。そういえば、私が実験したあの魔道具はどうなったのですか?」
「あれね。もう時期売り出す予定になってたはずよ」
懐かしい顔に思わず話が弾むけど、私はお仕事で来たのでオルガの案内でまずは学園長室に。
流石に責任者への挨拶はしとかないといけないので、わざわざ早めに来たのだけど、やっぱりリナリアを連れてきたかったわね。
学園だと何かしらありそうで過保護になってしまったけど、居なくて凄く寂しいので早く帰りたい。
私は来てそうそうにホームシック(またの名をリナリア依存性)になっていた。
リナリア成分の不足が顕著に……これが禁断症状なのね。
などと考えていると、学園長室につき、ノックをして室内に入る。
色々と凝った装飾の中で、白く長いお髭が素敵な初老過ぎのおじい様が椅子に腰掛け書類を見ており、その人が学園長なのは明白であった。
「こうして会うのは初めてになるか。ワシは学園長のルドルフと申す者じゃ」
「お初にお目にかかります。カトレア・アンスリウムです」
すっかり板についた貴族令嬢の挨拶だけど、それを見て学園長は納得したように頷く。
「なるほど、流石はアンスリウム公爵家のお嬢さんじゃの。その歳で堂々とした振る舞いは見事じゃな」
「恐れ入ります」
「王都の英雄、『白銀の氷姫』だったか。そんな魔法使いが臨時でも講師なのは助かる」
その二つ名はあんまり好きじゃないのよねぇ。
さっきだって、道すがら私を知る人に『白銀様』とか『氷姫様』呼ばわりされたけど、英雄というにはあまりも偉業が足りないので名乗るのがおこがましいと思うのよね。
まあ、本音としては恥ずかしいのでやめて欲しい一択だけどね。
姫とか名乗るのがおこがましいですよ、本当に。
「天才は往々にして、教えるには向かないものだが、話を聞く限りではカトレア殿なら心配ないじゃろう。前に出してもらった論文とレポートを見ても心配無用そうでワシとしては安心じゃ」
あー、確かに前に論文とレポートの提出を求められたなぁ。
学歴上飛び級にする条件で、適当な魔法論文とレポートを出したけど、それが今回の事に繋がったのかしら?
まあ、何にしても引き受けた以上はやるだけやらないとね。
「若き才能が刺激を受け、益々輝くことをカトレア殿に願うとしよう」
「微力ながら尽くすとしましょう」
まあ、尽くされるならリナリアがいいのだけど。
そんな事を思いつつも、学園長への挨拶はスムーズに終わった。
向こうも忙しいだろうし、私にもお仕事があるものね。
「皆様、ご機嫌よう。私はカトレア・アンスリウムと申します。この度臨時で授業をさせて頂くことになったので以後お見知り置きを」
そう言いつつも、大半の生徒は私のことを知っているのか不要な自己紹介をしてしまったようだ。
男女比が半々の教室には、30名ほどの生徒がおり、私が臨時講師をするのはこのクラスと一学年上のクラスになるらしい。
他にも講師が居るらしいけど、色んな人から学べた方が幅も広がるだろうというので、私はあくまでもアクセントのような存在みたいね。
まあ、仕事な以上頑張るけど。
「じゃあ、早速授業を始めるけど……そうね、基礎的なものは他の先生から学べるでしょうし、私はそれ以外を教えることにしましょう」
基礎をしっかりと固めるのは誰にでも分かるし、実践も重視されてるので、私はあくまでもそれ以外を教えることにする。
ちょっとした小技やテクニックのようなものだけど、意外と知られてないものがあったようで皆が一斉にノートに書き出していた。
学校では教えられないものも多いし、基礎さえ理解していれば問題ないものもあるのだけど、やはり知らないと知ってるでは違ってくるので是非とも学んで貰いたいものよね。
「さて、ここまでで何か質問はあるかしら?」
そう聞くと、何人かから細かい点を聞かれるけど、慌てず騒がずきちんと答えることが出来た。
ふふふ、私も教師の真似事が出来るようで少し誇らしい。
「あの……先生」
「何でしょうか?」
「私、火属性の魔法が上手く使えなくて……適性があるはずなんですけど全然ダメで……」
おさげの大人しめの女子生徒の質問に何人かから似たような声が上がる。
適性は出てるのに、上手く使えないと。
「そうですわね、適性があるのに使えない……この場合原因としてはいくつかあげられるけど、最も多いのは複数属性を持つことによる弊害でしょうね」
「弊害?」
「ええ、二つ以上の適性がある場合は特にそういったことがおこりやすいわね。使い慣れた片方の属性をまず先に習得すると、そちらの感覚を無意識に使ってしまうのよ」
全属性の私の場合は、逆に多すぎるせいか違うものとして使う認識が強くて無かったけど、屋敷の使用人や魔法師団の人達の中にはそういう人も多かった。
「その場合、解決する方法はいくつかあるけど、一番は他の人で同じ魔法が使える人を真似ることかしら。という訳で、メイリンさん、マティさん、クレシアさんは私がお手本を見せるからそれを真似してやること。それでも無理そうなら別の方法もあるから試してみましょう」
二つ以上の適性のある生徒で少し特殊な事例の三人には私が見本を見せて手取り足取り教えるけど、女の子ばかりなのには他意はないのよ?
確かに可愛い子達だけど、私にはリナリアがいるから、浮気はしないわ。
そんな感じで、初めての講師は割と高評価でスタートできたのだけど……評判が良すぎて講師の回数が増えてしまったのは不可抗力だと思うのよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます