第26話 トンネルとエスカレーター

スーッと頬を撫でる風が気持ちのいい午後の一時。


屋敷のお気に入りの木の下の木陰でリナリアと穏やかな時間を過ごす。


「たまにはこういうのも悪くないわね」

「そうですね〜」


さり気なく手を繋いで寄り添うことで、更にこの時間が尊くなる。


最近は忙しかったからなぁ……麻薬組織を潰したり領地の状況把握をしたとり、それなりに頑張ってたので、たまにはこういう時間も必要だと私は思った。


「カトレア様、よろしければどうぞ」


そうしてのんびりしていると、リナリアが自分の膝をポンポンと指してそんな事を言う。


それだけで伝わるのだから、以心伝心に近づけたと、そう思えるわ。


「……そうね、じゃあお言葉に甘えて失礼するわね」

「はい、どうぞ」


ゆっくりとリナリアの膝に頭を乗せると、私はリナリアに身を任せる。


そう――膝枕である。


これぞ最高のスキンシップ(偏見)である、膝枕ですわ!


……なんて熱くなる心もあるけど、こうしてリナリアに身を任せると凄く気持ちよくて意識がすぐに持っていかれる。


「カトレア様は相変わらず綺麗な髪をしていますね」


なでなでと、優しく私の頭を撫でてそんな事を言うリナリア。


私としては、リナリアの輝く金髪も好きだけど、確かにお母様譲りのカトレアさんの銀髪も悪くはなかった。


「リナリアの膝枕は年々気持ちよくなるわねぇ……」

「えっと……ふ、太りましたかね……?」

「そうじゃないわよ。女の子として更に魅力的になったということよ」

「はぅ……」


実際、リナリアは細くてスタイルもいいまさに理想のヒロインちゃんであった。


そんな子が年々可愛く成長するのを見るのは楽しいのと、もう少しロリ時代のリナリアを記憶に焼き付けたいという思いも出てくるのだから不思議だ。


実際、こうして膝枕をしていると成長を実感出来る胸部がさり気なく当たるので私はラッキースケベなのかもしれないわね。


「リナリア、眠くなってきたわ」

「はい、ゆっくりとお休みください。ずっとお側におりますので」


そう言うと、優しい歌声が聞こえてきて、私はゆっくりと意識を手放す。


歌姫の膝枕で寝られる贅沢が出来るのは、世界を探しても私くらいでしょうね。


そう嬉しく思いつつ私は静かに寝息を立てて夢の世界へとしばし旅立つのであった。


それにしても、リナリアさんの安心感半端ないっす。


母性がカンストしてるんだろけど、私も見習いたいものだわ。


目指せ!リナリアレベル!


……は無謀だけど、お母様やライナさん……も厳しいかなぁ。


でも、そのうち追い抜きたいところ。


リナリアさんには負けてもいいけどね。


可愛いは正義。







「さて、どうしましょうかね」


一人の時間、考えなければならない事は色々あるけど、まずは目下の一番の案件である私の貰った領地のアクセスについて。


王都に直線距離では近いけど、王都と領地の間の険しい山が移動を難しくしており、海上からの移動にしても沖合にはかなり難度の高い魔物が普通におり、間引いても普通に増えてるのは確認済み。


ゲームのようにポンポン湧き出てくるので、定期的に間引くにしても手間がかかる。


海上からのアクセスがあまり現実的でないとなると、やはり山だけど、こちらも長年で作られた狭い山道を少し外れると魔物や野生動物の楽園な上に、やはりリポップするように次から次に出てくるので厄介だ。


とはいえ、陸路が使えれば王都や他の場所へのアクセスが一気に解決する。


私や少数だけなら転移魔法があれば、苦労はしないけど理想の屋敷の建築やその他のことを踏まえるとどうしてもある程度の安定した陸路は必要不可欠。


そうなると……


「あれかあれかしら……でも、どうせならもっと面白そうな……そうだわ!」


私は机に向かうと紙とペンを持ってサクッと魔道具の設計図を描く。


少し経費はかかるけど、長い目で見れば元は絶対に取れるし、やる価値もあると確信すると後は早かった。


準備に二週間ほどかかってしまったけど、私は領民達のために……いえ、ごめんなさい嘘よ。


本当はリナリアを驚かせたいだけなのだけど、それでもその情熱は本物なので何と形にはなったわ。


お城の魔道具職人やマーリン達の手を借りて、更に一週間後。


それはようやく完成した。





「あの、カトレア様」

「何かしら?」

「この前来た時に絶対なかったものが見えるのですが……」

「ええ、作ったからね」

「ふぇ……凄いですねぇ」


そのリアクションに私は思わずニヤリとしてしまいそうになるけど、グッと堪えてリナリアの視線の先を見る。


険しい山道しかなかったの一部には、大きなトンネルが出来ており、更に視線を左に右それぞれ向けると、肉眼では視認が難しい、透明なドームに包まれている、領地行きと王都方面行きのそれぞれのエスカレーターがそこにはあった。


そう、私が考えたのは、陸路としてトンネルを掘ることと、完全に趣味ではあるけど観光地になり得るポテンシャルを発揮できそうなエスカレーターを作ろうと考えたのだ。


トンネルはプロの意見を借りつつ、魔法でしっかりと平で真っ直ぐな道を作り、崩れないように補強もしていた。


高さも道場もゆとりがあり、途中には何ヶ所か休憩のための場所も設けていた。


そして、私作の魔道具で空気の入れ替えと、明かりもきちんと完備しており、魔力の補給も月一でやれば問題ないレベルまで完成度は高めておきました。


私頑張った!


「カトレア様、トンネルも凄いですけどその、階段のようなものが分かれて置いてありますがこれは……?」

「エスカレーターね。早速乗りましょうか」

「乗る?」


リナリアとしては、どう見てもむき出しのように見える綺麗な階段にしか見えないのだろう、可愛らしくキョトンとするリナリアの手を引くと、領地行きのエスカレーターに乗る。


「わ!」


すると、ガコンと、エスカレーターが動き出し、私達は景色を見ながら山を登っていくことになる。


「か、階段が動きました!」


キラキラとしているその瞳が眩しいリナリア。


意外とこういうのが好きなのは長い付き合いで知っているので、サプライズの成功に大いに満足する。


「あ、カトレア様!魔物が……あれ?」


空を抜けるようなエスカレーターの存在は目立つ。


自身の領域を侵されたと思った鳥系の魔物が突っ込んでくるけど……ぶつかる前に何かに逸らされたように逆方向に逸れて行ってしまう。


「魔物除けはもう少し改良の余地ありね。でも、シールドは悪くないしこのままかしら」

「あの、何か魔道具の力ですか?」

「ええ、見えないだろうけど、いくつかの魔道具が展開されてるわ」


魔物が寄り付かなくなる、魔物避けもあるのだけど、それに恐れない個体が居たのは計算外だったので後で改良しましょう。


それと、エスカレーターに乗ってる人を守るシールドの展開は悪くなかったのでこのままね。


絶対的な安全を確保されつつ、眼下の流れていく景色をエスカレーターから見下ろすのがコンセプトだけど、概ね満足のいく出来にはなったわね。


「わぁ……!凄く綺麗です……!」


嬉しそうにエスカレーターから下を見下ろすリナリア。


空からの景色はやはりいいけど、魔法を使える人でもあまり飛行魔法は現実的ではないから、こうして高い景色を眺められるのは悪くないはず。


「リナリア、こっちに来なさい」

「はい!」


テンションが上がっているリナリアが子犬のように嬉しそうに私の隣に座る。


それを愛でてから、私はそっと、意図的にわざと曇らせているエスカレーターの下部の敷居に触れる。


すると、メニュー画面が出てきて、『オールクリア』を選択すると、周囲のエスカレーターの階段や敷居などがの全てが消えて、浮いてる私達と眼下の景色が広がる。


「わ、浮いてます!」

「ふふ、違うわよ。透明にしただけ。これなら座ってても景色を楽しめるでしょ?」


この為に、乗る際には一定の感覚をグループ事に必ず守らせる必要があるけど、その辺は何とかなるでしょう。


それにしても、この仕掛けを作るのが凄く大変だったわねぇ……特に、エスカレーター下部に触れるとメニュー画面が出るようにしたのと、透明化の魔力消費量の軽減は技術革新と言ってもいいくらいには頑張ったわ。


「どう?悪くないでしょ?」

「はい!カトレア様はやっぱり凄いです!」


……あー、もう。


そんな純粋な目で見られると参っちゃうわよ。


私はリナリアを抱き寄せると、二人でのんびりと空の旅を楽しむ。


なお、余談ではあるけど、この『オールクリア』状態はあくまで内部からそう見えるようになるだけなので、下からは普通にエスカレーターの土台が見えるだけになっていた。


つまり、スカートとかでも問題なし!


それを知らずにアホな男が下で屯してるという事態も後に起こるそうだけど、彼らの願いは叶わないで私は満足だ。


聖域は、守られてこそ聖域よね。





「さて、そろそろね」


山の上空、山頂のエスカレーター的には中心地地点に近づくと、私はリナリアの手を取って、備える。


キョトンとするリナリアと、エスカレーターを降りると、そこには中間の休憩所となる山の上空にあるステルス休憩所があった。


「カトレア様、ここは……?」

「乗り換えと休憩所かしらね。山の美観を損ねないようにステルスにしていて地上からは見えないけどね」


いざとなったら、エスカレーターの存在もステルスに出来るけど、それをするかはお客さん次第かしらね。


それにしても、透明にするだけでとんでもない魔力量が必要になるとは思わなかったわ。


その辺も頑張ったのだけど、それは思い出したくないわね。


「まだお店は開いてないけど、本番ではここで色々売る予定よ」


景色を堪能しながら、軽食を楽しむのもあり、スイーツもあるし、ガッツリ系もあるので冒険者でも来る人はいるかもね。


なお、料理人やら商人は私のコネだけだと難しかったので、お父様と……遺憾ながらも転生レオンに協力を要請したのだけど、料理チートのブラコンは伝手も流石というか多くて、いい人たちを紹介しては貰えたのでとりあえずは感謝はしておく。


本音?


転生レオンのドヤ顔が凄くイラッときたのでどこかで仕返ししたいですわ。


「確かに、ここなら景色も良くてお料理もますます美味しくなりますね」


納得気味のリナリアさんは、実に可愛いです。


思わずよしよししたくなるけど、あまり抱きつきすぎて慣れられたら困るのでタイミングはきちんと計る。


これぞ、大人の駆け引きよね。


「あれ?カトレア様、向こうのえっと……えすかれーたー?とも繋がっていますね」

「そうね、だからこそ乗り換えなのよ」


一見、お互いにトンネルを挟んで左右遠く離れているようにしか見えないからこそ、ステルスでこの場所に来た時の感動は大きいはず。


あと、私の領地の人達や食材なんかも運びやすくするために連結させて、行きと帰りを自由に選べるようにしたのだけど、外からはちゃんと別れてるように見えるから面白い。


「さて、景色も良いし、まだ時間もあるから……少しここで二人きりで楽しみましょうか」

「はぅ……じゃ、じゃあ、お茶を淹れますね」

「ええ、お願いするわね」


この景色だと何があうかしら?


まあ、リナリアの淹れてくれたものなら全て美味しくなるのだから不思議よね。


「どうぞ」

「ありがとう……あら?緑茶ね」


紅茶かコーヒーかと予想していたら、まさかの緑茶。


和食ともに最近出回ってきていたのは知っていたけど、まさかリナリアがもう緑茶までマスターしているとは。


「前に、カトレア様に頂いた魔道具と専用の容器で冷たいのを用意してみました」


しかもいきなり冷たい緑茶とは通ね。


とはいえ、今は温かいものよりも冷たいものが良かったので美味しく頂く。


冷たい緑茶が美味しいけど、夏になったらもっと美味しいでしょうね。


「どうですか?」

「とっても美味しいわ。ありがとう」

「良かったです……」

「ふふ、心配し過ぎよ。リナリアの作ってくれたものなら何でも美味しいのだから」


そう言うと、リナリアは嬉しそうな表情を一瞬浮かべてから、それを見せまいとして出来てない可愛い表情を浮かべて言った。


「カトレア様には、常に私の最高をプレゼントしたいんです……だって、カトレア様は私の大切なお方ですから……」


後半から頬を赤くしてそんな事を言われると、私としては答える以外の選択肢はない。


「ふふ、可愛い娘ね。じゃあ、私も大切な貴女に最高をプレゼントするわね」

「ふにゃあ……」


可愛いリナリアを愛でながらの貸し切り空中ステルス休憩所は満足のいく形になったのだけど、肝心のエスカレーターとトンネルのお陰で、物流が増えて、領地と外が繋がって、私の屋敷の建設が早まったのは良かったと言えた。


まあ、リナリアをびっくりさせることには成功したし副産物になってしまった目的も果たせたし十分よね。




















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